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7.旅を始める①

脳内に響くアラームで目が醒める。別に危険な動物ではなさそう。イタチかそれぐらいの大きさの動物がエリアに侵入したようだ。

周囲はすっかり明るくなっていた。大きく伸びをすると、シュラフから抜け出し、シュラフと下に敷いていたマットを畳みリュックサックに放り込む。

特に湿った感じもないし、干す必要はないだろう。

テントを覗くと少女も起きたところのようだ。ばっちりと目が合い、お互い挙動不審になる。

「お…おはよう」

「おはよう?」

少女は上半身を起こし、首を傾げながらそう言い返す。

「ああ、おはよう。朝の挨拶だよ。おはようって言わないの?」

「う〜ん…するよ。でもすごく久しぶりで」

少女は少し照れたような顔を見せながら、会話を紡いでいく。昨日は気づかなかったが、ボサボサの髪を整えればなかなかの美少女になりそうだ。

「俺も朝一番におはようというのは久しぶりだよ。じいさんが死んで以来だから、もう5年になるかな…

そういえば、名前はなんて呼んだらいい?」

少女は大きな黒い瞳をこちらに向けて、自分の名前を口にした。

「サヨと呼んでください」

サヨ…小夜?だろうか。そもそも文字があるのか、それは漢字なのか仮名なのか…まあいい。名乗られたからには名乗り返さないといけないだろう。

「じゃあ小夜ちゃんって呼ぶね。俺は斎藤健。タケルでいいよ」

「サイトウ…タケル…名字持ちですか!貴族さま?」

少女は明らかに引いている。

「いや…そんなんじゃないよ!名字があるのは俺が生まれた地方が特別だったからで、名字だと思わなくていいから!タケルって呼んで!」

「わかりました。じゃあタケルさんって呼びます」

「ありがとう。さっそくだけど、お腹空いてない?朝ごはんにしようか」

「朝ごはん…食べます!昨日のお粥がいいです!」

小夜はお粥が気に入ったようだ。まあ朝粥もいいだろう。


昨日と同じ要領で、粥を炊き込んでいく。さすがに今日はタンパク質が欲しいので、保存していたウサギ肉に塩と香辛料を振り、竹串を打って炙り焼きにする。

イノシシやシカが獲れたら、腸詰めや燻製を作っておけば日持ちするのだろう。しっかり落ち着ける場所を確保したらチャレンジしてみよう。


粥が炊き上がるのと同じぐらいで、炙り焼きも完成した。小夜は興味津々でずっと手元を見ている。

リュックサックからお椀を取り出し、粥をよそって小夜に手渡す。平皿に炙り焼きを串ごと盛り、小夜と俺の間に置く。

「じゃあ食べようか。いただきます」

「いただきます!」

そう言って、小夜は木サジで粥を掬い、口に運ぶ。昨日より少し水を減らしているが、味はどうだろう。

「美味しい…昨日のお粥より甘く感じます!」

どうやら好評のようだ。次はちゃんと炊いた白飯にできるだろう。

「お肉も美味しいです!塩味だけじゃなくて…この赤いのなんですか?」

「これは唐辛子といって、香辛料だよ」

「トウガラシ…トウ?異国の食べ物ですか?」

どうやら小夜は「唐」が大陸の国名であることを理解している。そして、大陸に「唐」が成立し、日本が遣唐使を派遣していた時代よりあとであることは間違いなさそうだ。ただ、単純に過去に飛んだのか、あるいは並行世界なのかはわからない。

「そうだね。異国から入ってきた食べ物で、お肉の臭みを取ったり、腐りにくくしてくれる力があるんだ」

「そうなんですね。昨日の梅干し?も初めて食べる味でした!」

「梅は知ってる?」そう尋ねると、小夜は頷いて答えた。

「梅は知っています。梅の実の柔らかいところだけは食べられますが、種は食べられません」

「そうだね。その梅の実を干して塩漬けにしたのが、梅干しだよ。赤紫蘇も一緒に漬けると、赤い梅干しになる」

「塩漬けなんですね!海の近くの里にいったことはあるので、塩も知っています!」

そうか、集落を里と表現するようだ。村や町は、近代以降の名称だっただろうか。里、郷、荘、惣と規模と時代によって表現が変わっていく過渡期かもしれない。

「実はね、じいさんと一緒に山奥に住んでいたから、この辺りのことや風習、生活なんかを全然知らないんだ。よかったらいろいろ教えてくれないかな?もちろん小夜にどこか行くあてがあるなら別だけど、俺はこのまましばらく旅を続けようと思っている」

小夜はしばらく考える様子だったが、ほんの数秒後には手にしていたお椀を地面に置き、身体ごとこちらに向き直り、深々と頭を下げた。

「私こそ、命を救っていただいた恩を返さないといけません。どこへでも着いていきます。いえ、連れて行ってください」

そう畏まられると俺も困る。慌てて顔を上げるよう促す。

「ただよければ、小夜の知らないことを教えていただきたいです!精霊の力の借り方とか!」

ふむ…昨日の治癒は精霊の力だと理解している。

「小夜ちゃんは精霊が見えているの??」

「はい、巫女だったお母さんの血を引いてますから!ただ、精霊の力を借りる方法を教えてもらう前に、お母さんは…」

そうか…そうだったのか。でもこれで師匠と弟子がまとめてできたようなものだ。

「わかった。俺も他人に教えるほど使いこなしているわけではないけど、お互い助け合って旅をしよう。改めてよろしく!」

俺がそう言うと、小夜は満面の笑顔で大きく頷いた。


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