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69.襲撃に備える②

翌日から、弥太郎達の監視と里の周囲の警戒を続けながらの生活が始まった。

残念ながら子供達の勉強はしばらくの間中断だ。


いざ戦闘になれば、せっかく実り始めた外の田畑が踏み荒らされてしまうかもしれない。

さっさと収穫してしまいたいが、そうすると保管場所に困る。

小夜と青に農産物の成長促進を依頼して、俺と紅で水車小屋の奥に貯蔵庫を建てることにした。


梅雨時期の教訓から、高床たかゆか倉庫を選択する。

はるか昔、弥生時代の遺跡からも跡が出土する、古式ゆかしき建築様式だ。


地面を転圧して押し固め、表面を焼いて防腐処理した杉材の丸太を打ち込んでいく。

長さ4mの丸太はそのまま柱に、長さ2mの丸太は床を支える基礎杭になる。


柱と杭を打ち終えたら、杉材で床と壁を貼る。床は地上高1mにした。

これで壁の高さは2m確保できる。

床板は定尺の4mにした。

壁の厚み分を若干差し引くと、床面積は15m2ぐらいか。


天囲をつけて、1mほど柱を延長し、棟木を乗せる。

屋根と天囲の間の空間に屋根裏を作り、ロフト的な収納スペースを増やしてから屋根板を葺く。

屋根板は二重構造の杉材にした。

子供達の家では防水布を間に挟んだが、緑の精霊で杉材を再生すれば水密構造になることが分かったので、今回は省略する。

仕上げに、床下の柱と杭に鼠返しを取り付け、出入り口とロフト部分に階段を設置する。


そんな感じで、午前中には高床倉庫が1棟完成した。次の収穫物はこの倉庫に保管できる。

水車小屋にも近いから、籾摺りや精米にも便利だろう。


午後からは雑穀を中心に収穫を行う。

里から最も遠い畑に植えていたのは、粟や稗、蕎麦といった雑穀だ。

成長が早く収量も多く、しかも栄養価が高い。

米や麦の代わりにするには少々味が落ちるのが玉に(きず)だが、粉にしてしまえば支障はない。


(あわ)はイネ科の一年草。ヒゲの無いネコジャラシ(エコログサ)の穂の部分が人の顔ほどの長さなったものだと思えばイメージが伝わるだろうか。小さな粒が穂に鈴なりに付く。

通常、播種から4ヶ月程度で収穫可能になるが、そこは緑の精霊の力で短縮している。


刈り取りから脱粒、籾摺り、精白のプロセスは米や麦と変わらないが、その独特の粒の大きさのせいで脱粒のやり方が稲とは少々異なる。千歯扱きに掛けても大半が穂に残ってしまうのだ。

そこで木槌で叩いて脱粒する必要があるが、これが恐ろしく手間がかかる。


今回は脱粒以降のプロセスを諦め、少々嵩張るが穂のままで保管することにした。

鳥の餌にするなら穂のまま与えればいいし、必要になった分だけ処理すればいいのだと割り切る。

風の刃で穂の直下部分を薙ぎ払い、穂だけを風に乗せて、乾燥させながら貯蔵庫まで運ぶ。

貯蔵庫の入り口で待ち構えた紅と青が、交代で穂を麻袋に受け、口を縛って積み上げていく。


(ひえ)の収穫も同じ方法で行う。

稗は粟と同じくイネ科の一年草だ。見た目は粟にも似ているが、穂の付き方が少し違う。

ちなみに味はさほど良くはないが、栄養価は高い。

この里では雑穀は鳥の餌か援助物資という位置付けだが、本来なら主食を張れる存在だ。無駄にはできない。


蕎麦(そば)も大事な作物だ。

収穫までの期間が他の穀物と比較して圧倒的に早く、条件が良ければおよそ75日で収穫期を迎える。

稲の生育には向かない、荒れて痩せた土地でも栽培できるのも利点だ。

ただし、長く伸びた茎の節の所から花芽を出し実を付けるため、収穫時には根本からきっちり刈り取らないと収量が落ちる。また脱粒は千歯扱きでも行えるが、枝葉が混じる量が稲や麦に比べて多くなる。その後の選別作業が大変なのだ。


まあ処理は手を見てのんびりやるしかない。

とりあえず根本から刈り取り、そのまま風で貯蔵庫へと運ぶ。

貯蔵庫の壁に稲架を掛け、青と紅で蕎麦束を掛けていく。


その日のうちに、雑穀を植えた畑の収穫が終わり、新しく作った貯蔵庫がいっぱいになってしまった。

他の作物の収穫も追いかけてくる。明日も貯蔵庫作りから始めよう。


夕食を子供達と摂りながら、一時の団欒を過ごす。

「タケル様!次に奴らが襲ってきたら、俺達も戦っていいだろ?」

そう言ってきたのは杉だった。

「タケル様は俺と松に狩猟刀を授けてくれた。これは一人前の男と認めてくれたってことだよな?だから俺達も戦う!」

それを聞いていた紅が吹き出す。

「こら杉!タケルを困らせるな!何が一人前の男だ。そういうことはウサギよりデカい獲物を狩れるようになってから言え!」

「だって白姉さんや紅姉さんが使ってる弓は硬くて引けねえんだもん……しょうがねえじゃん!」

言っていることが誰かさんと同じだ。まあ今の杉の体格では長弓はムリだろう。

クロスボウを作るか?

いや違う。そもそも子供を戦さ場に立たせてはいけないだろう。


だが、本当に争いから遠ざけるだけでいいのだろうか。

自分の里を自分で守る、これは基本中の基本のはずだ。

俺がじいさんから古武術の手ほどきを受け始めたのも小学生の頃だった。

万が一に備えて自衛のスキルを教え込んでもいいのではないだろうか。


青と紅の意見を聞いてみる。

「賛成です。こうなった以上いつまでも争いから遠ざけておけるわけでもありませんし、あと数年もすれば戦力になるでしょう」

「別に俺達と肩を並べる必要はないしな。自分の身を守れるぐらいのことは叩き込んでいいんじゃないか?」


よし、決まりだ。明日からのメニューには、武術も取り入れよう。


子供達に武術を教えるなら、子供達用の武器が必要だ。

刀鍛冶になって鍛造してもいいが、少々時間が惜しい。

ここは敵から没収した武器と鎧を有効活用させてもらおう。


夜は没収した武器や鎧の手入れをする。

太刀が50振り、小太刀が25振り、槍が10本、長弓が20張り、矢の入った矢筒が20個集まった。

これでしばらく武器には困らない。


状態のさほどよろしくない太刀を10本選び、およそ70㎝の刀身を半分に切り詰める。

刀身を30㎝ほどにして、1.5mほどの硬いカシの木の柄をつければ、薙刀なぎなたの完成だ。


柄には滑り止めの鹿革の紐を巻き、重量バランスを取るために石突いしづきも取りつけた。

刀身の反りが少ないので厳密には薙刀とは呼べないかもしれないが、敵の間合いの外から突いたり、遠心力を利用して敵を切り払うには最適な武器だ。


小太刀は江戸時代の頃の脇差と同じぐらいの長さだから、子供達でもそのまま使えるだろう。

鎧は革紐を締め直す程度で手入れが終わってしまった。武器と一緒に納屋に保管する。


遣い手の数が足りないのは残念だが、子供達が成長しても武器を使わなくていい状況を作りたいものだ。


弥太郎達はまだ大隈の近くで野営をしている。どうやら野営地に物資を集積していたらしい。

考えてみれば博多から3日ほど行軍して来たにしては荷物が少なかった。近くに兵站基地(へいたんきち)を設けているのは当然だ。


音声を拾うと、余分な食料を消費するまでの間は治療に専念する構えのようだ。

死なない程度に、また歩ける程度にしか癒やしていないから、傷口の痛みは相当なものなのだろう。

まさか再び取って返して来るとは思えないが、引き続き警戒監視は継続する。



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