68.襲撃に備える①
少々遅い昼食を摂りながら、皆に今回の顛末を説明し、今後について話し合う。
弥太郎の正体を知った小夜がショックを受けている。
この襲撃の最大の被害者はたぶん小夜だ。弥太郎とは顔見知りだったし、宰府に向かう峠道で悪党に襲われていた弥太郎を助けると言ったのは小夜だった。
しかし断言するが、小夜に責任はない。
俺達の側に責任があるとすれば、弥太郎の芝居にハマった俺だけだ。
まあ過去のことはともかく、これからどうするかが問題だ。決して友好的とは言えなかったが、形としては使者を追い返したことになる。少弐家が総力を挙げて襲いかかってくるかもしれない。
「里の防備を固めましょう。例えば何百人の軍勢が押し寄せようとも、この里はビクともしません」
これは青の意見。襲ってくるのが分かっているのだから、これは当然の対応だ。この里は自給自足できるし、結界の効果も実証された。籠城戦も一つの選択肢だ。ただし、外部からの救援が見込めない籠城戦などジリ貧でしかない。単なる根比べの域を出なくなってしまう。
「それよりも、その少弐って野郎の首を掻いたほうが早くねえか?この里が襲撃を受けたんだ。逆にそいつの屋敷を襲えばいい。別に殺さなくたって、俺達に手を出すなって理解させればいいだけだろう」
紅らしい意見だ。警告の意味でも検討する価値はある。例えば会議の席に俺と紅が乱入する。相手にとっては十分肝が冷える結果になるだろう。
「味方が欲しい。今のところこの里で実際に戦えるのは5人だけ。何百人も押し寄せてきたら手が足りない。今回も東に回り込まれていたら通常の反撃だけでは危なかった」
黒が人手の問題を指摘する。今回戦闘に参加したのは俺と紅、白、補助役で黒の4名だった。水の遣い手である青には出番がなく、個人対集団でどの程度戦力になるかは未知数。白にしても近接戦闘ではどうなるかはわからない。もっともカマイタチを振るって敵を膾切りにする姿は容易に想像できるが。
そう、今回は実質的に通常戦力だけで戦っている。窓や黒の照準補助は使ったが、精霊の力を攻撃的には使っていない。敵の損害を度外視するなら、火炎放射でもカマイタチでも、全体攻撃する手段はあるのだ。
「やっぱり近くの集落を味方につけられないかな?助けてあげる恩返しとか」
小夜らしい意見だ。次の襲撃までに時間があるなら、それも可能だろう。弥太郎にも言ったが、別に里を閉ざすつもりはない。拡大路線を取るつもりもないが、友好関係にある集団は必要だ。
「やっぱり一回はギャフンと言わせたいよ!このままじゃ舐められっぱなしじゃん!」
白が皆の想いを代弁してくれた。その通りだ。
皆の意見はよく分かった。
最終目標はさておき、当面の目標は白の言う通り少弐家と俺達をハメた奴らに一泡吹かすことだ。
そのために何をしなければいけないか。
まずは次の攻撃が来るタイミングを予測しなければならない。後詰めがいない前提なら、弥太郎達が宰府か博多に戻ってから第二波が派兵されるはずだ。
この里から博多まではおよそ3日は掛かる。派兵の準備に1日要したとして、第二波の到着までの猶予は1週間。向こうでゴタゴタするようだと、更に伸びるだろう。
「黒、弥太郎達の動きは追えているか?」
「もちろん。51人全員が一塊で大隈の集落に向け移動中。窓で監視もできるけど、どうする?」
「よし、白と黒は監視体制を構築してくれ。落伍者や他の人物との接触にも気を配るように。ゆっくり進んでいるように見えて、他の間者が走っているかもしれない。声も聞こえるようになるか?」
「大丈夫」
「それなら助かる。子供達にも手伝ってもらって、交代で監視を継続してくれ」
『了解!』
「青と紅、小夜は俺を手伝ってくれ。板塀の外の竹を剪定し、物見櫓を建てる。できれば板塀だけでなく、より強固な土壁や石垣に変更したい」
今回の防衛戦では、射線が通らないほど敵を近づけてしまった場合に、板塀の内側からだけでは防御できなくなることが判明した。生い茂った竹が射線を隠してしまうのだ。
そもそも竹は里を隠すために植えていた。隠す必要が無くなったのなら、不要な物だ。
とりあえず今日やる事は決まった。
監視体制の構築を白と黒に任せ、俺は青達と一旦板塀の外に出る。
育った竹を高さ1mほどで切り倒し、先端を尖らせる。剣山状の竹ゾーンが板塀の外側に出来上がった。
これで敵は板塀に直接取りつけず、板塀の上からの射線から身を隠すこともできなくなる。
ついでに大量の建材も手に入った。この竹で杭を作り、里の北側への侵入路を塞ぐ。
とはいえ、裏山側から回り込まれたら、この程度の防壁では防ぎようがない。
回り込まれる前提で、板塀の強化も必要だ。やはり土壁だろう。
土の精霊を使い、板塀の外側に沿って土壁を作る。高さ3m×底辺部の厚さ1m。
土壁の先端は板塀に沿って傾斜させたから、射線を遮ることもない。
土壁の内部には竹の切り株を内包しているから強度も十分だ。
破りたければ大砲ぐらい持ってこい!と言う感じだ。
板塀の内側、北西と南西の角に、高さ5mの物見櫓を作る。
監視台の大きさは二畳ほど。1名でゆったりと監視できるし、緊急時には2〜3名が同時に登ることもできる。
日が陰る前にできたのはここまでだった。
没収した武器や甲冑の手入れは夜でもできる。
とりあえず同規模の襲撃があっても耐えられるぐらいの備えは出来た。敵の人数が10倍とかになるようなら、こちらから討って出て敵を減らすしかない。
弥太郎達はどうなっただろう。
子供達の家に戻り、監視体制を確認する。
弥太郎達は大隈の集落まで辿り着き、その周辺で野営をしている。流石に50人の集団では集落には泊まれないのだろう。精鋭部隊のプライドもあるのかもしれない。
今のところ落伍者も接触してきた者もいないらしい。
監視体制は日中は子供達が2名体制で30分交代で、夜間は式神達が交代で担当することになった。
黒と白が試行錯誤した結果、簡易的なGPSのような機能が付与されていた。弥太郎達の現在位置を地図上にプロットすることができる。これで現在位置だけでなく、どの方向にどれぐらいの速度で向かっているかが判明する。
夜間の監視と里の周囲の警戒を式神達に頼み、俺と小夜は子供達と一緒に休むことにした。
俺はともかく、小夜や子供達には睡眠は必要だ。




