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67.襲撃者達を尋問する

翌朝、式神達を連れて襲撃者達の尋問を行う。

青の発案で式神達は鬼面をつけている。全員が若い女だと知れたら舐められるという理由だ。

「タケルの持っていた雑誌に載っていた意匠をいただいた。少しはおどろおどろしく見える?」

ああ。十分怖い。

基本的なデザインはサバイバルゲームのフェイスマスクと同じだ。白い牙の生えた黒い骸骨に二本の角。

全員が黒いBDUバトルドレスユニフォームに黒い革のグローブ、黒いブーツを履き、太刀を下げている。

「いつのまにそんな服を作ってたんだ?というか色は黒一色でよかったのか?」

「ちゃんと赤も入ってるぜ!」

そういって紅が上着の合わせをはだける。そんなことだろうと思ったから見せなくていい。

「え~ノリ悪りいなあ……お?見えてきたぜ?」

襲撃者達はそのままの姿で転がっていた。


とりあえず51人全員の息を確認する。死んだ者は今のところいない。今のところは…な。

紅や俺に手足を斬り飛ばされた者や、狙いが逸れて(というかおそらく自分から当たりに行って)白に胸を貫かれた者などの止血も終わっている。あとは意識さえ取り戻せば、尋問はできるだろう。

武器や持ち物は全て回収させてもらった。


襲撃者の周りに低い稲架はさを掛け、一辺に10人ずつ内向きに縛り付ける。

誰かが逃げようとしても、仲間が邪魔になって逃げられないようにするためだ。

稲架の中心には指揮官とその取り巻き、第一陣と第二陣で指揮を執っていたとおぼしき10名を座らせる。

弥太郎には猿轡さるぐつわを噛ませ、近くの木に縛り付けた。

ここでも高みの見物をしてもらおう。


とりあえず弥太郎も含めた全員の意識を取り戻させる。

あちこちで呻き声が上がるが、気にせず尋問を開始する。

聞きたいのは襲撃を命じた者と襲撃に至った背景、そして何を考えて襲おうとしていたかだ。

ここで存在感を発揮したのは紅だ。いや意外でもない。案の定というべきか。


「おいお前、名前は?……ああ?聞こえねえぞ?もっとシカっと喋れやコラ。まだ痛めつけられてえのか」

とまあこんな感じだ。

言い方は違えど、青や黒、白の尋問も順調に進んでいる。

4人が集めた情報を纏めると、襲撃者達が信じ込んでいた内容が見えてきた。

襲撃者達は少弐家子飼いの衛士。

この辺りの集落を襲う悪党どもがこの竹林に潜んでいるとの情報で、少弐家当主直々の命令で博多から派遣されてきたらしい。皆殺しにしろとの命令だった。ちなみに年齢は20代前半から30代まで。40代はいない。


背景が分かったところで、いよいよ指揮官たちの尋問に移る。ここは俺の役目だ。

「おい、お前の部下達は全員口を割ったぞ。お前の命が助かるかどうかはお前次第だ。正直に答えろ」

うん、大して紅と変わらない。

指揮官だった男がべらべらと喋り始めた。

途中ほら貝を吹いていた男が何度か止めようとするが、その都度紅に太刀を突き付けられ黙る。


要約すると、今回の襲撃を命じたのは少弐家当主なのは間違いない。命令を受けた際に三善のじいさんと本居も同席していたらしい。その席で、案内役として弥太郎を紹介されたとのこと。あいつらグルだったか。

襲撃の理由は、近隣の集落を襲い米を奪い田畑を荒らす悪党どもの本拠地だから。

全滅させたあかつきには、この地を割譲してもらえる約束だったようだ。

ほう……苦労して拓いたこの地を明け渡せとな……ふつふつと怒りが湧いてきた。


青に命じて弥太郎を連れてこさせる。

俺の前にひざまずかせ、猿轡を取る。

「いやあタケル様!いつの間に終わったのですか?私には何も見えませんでした…グワッ!!」

このお喋り野郎をただ喋らせるほど俺は優しくない。太刀を抜き、無言で弥太郎の面を張り飛ばす。

張り飛ばされた弥太郎は、ススキの切り株に顔から突っ込んだ。

紅が荒々しく首根っこを掴み、座らせる。


「なあ弥太郎?宰府でお前たちを助けたのも仕込みだったのか?」

「そうです。三善様が、なにか強い力を持った者が近くの地に生まれたと仰せになり、調べるために向かっている最中でした。あなたが近づいてくると三善様に教えられ、お近づきになるために一芝居打ちました」

イラっとしたので、もう一発太刀の腹で殴り飛ばす。

「何の目的で俺に近づいた?」

「あなたが何者なのか、この地にとって災いとなる存在なのか否か確かめるためです」

「それで?俺の評価はどうなった?」

「正直よくわからないという三善様の評価でした。それでしばらく自由に暮らさせてみようということになったのです。少弐様の了解を本居様が取り付け、この地に送り出されました」

「それが何故今になって襲ってきた?」

「あなたが近くの集落を救い、近隣の集落から神の遣いと噂されていることを知った少弐様が、あなたを召し抱えると仰せになられました。そこで古参の家臣たちがこぞって反対し、一度力試しをすることになったのです」

「つまりあれか、完全にお前達の論理だけで俺達の里を襲ったのだな。お前達の都合だけで、何の罪もない子供達が暮らすこの里を襲い、皆殺しにしようとした。そういうことか」

「はい……結果を見ればそうです。しかし……」


しかしもへったくれもあるか。子供達が無事だったのは、ここに俺や式神達がいたからだ。里を襲った報いはきっちり払ってもらおう。

「今回の襲撃の責任者は誰だ。お前か弥太郎。それとも三善か、本居か、少弐家の家臣たちか、あるいは少弐家当主か。俺はこの怒りを誰にぶつけたらいい?」

「それは……今回の一件を命じられたのは少弐様ですが……」

「やはりそうか。では次の質問だ。この後の段取りはどうなっている。里への襲撃が成功しても失敗しても、何らかの決め事があっただろう」

「はい……まず襲撃が成功すれば、あなたや式神達に許しを請わせ、少弐様の手下として使うつもりでした。もし失敗すれば、少弐様の手の者を殺した罪で、更に軍勢を送り込む算段です」

「つまり俺が屈服するまで、この襲撃は続けるつもりなのだな。何が狙いだ?」


「あなたの神通力です。最初にお誘いしたでしょう。近隣の集落を救えと。つまり少弐様のお役に立てということです。それができないなら、いっそのこと絶ってしまえと少弐様はお考えなのです」

「俺も言ったよな。飛んでくる火の粉は払うと。この里を護るためなら、少弐家を敵に回すこともいとわない。帰って皆に伝えろ。次に襲撃してくるなら、全員命を捨てる覚悟で来いとな」

「承知いたしました。この者たちも帰していただけるのですか?」

「襲ってきた連中を食わせる義理はない。歩いて博多に帰られる程度には癒してやる。対価はこいつらが持っていた武器だ。道中で野垂れ死んでも俺の知ったことではないが、食い物は返してやろう」

弥太郎は深々と頭を下げる。


「それとな、これは昨日約束していたものだ。対価は胡椒か貨幣で持参しろ。必ずだ」

そういって弥太郎に木箱を2つ渡す。

「これは…生糸ですか?」

「そうだ。約束は約束だからな。こいつの価値を知りたいのは事実だ。別に俺は里を閉ざすつもりはない。行商人は受け入れるし、他の集落との交流も行う。必要ならこの地の守護の頼みも聞いてやろう。これはその証だ」

「承知しました。必ず対価を持参いたします」

そう言って弥太郎が再び頭を下げる。


帰すと決まれば、長居させる必要もない。襲撃者達の拘束を解き、歩ける程度に癒す。手が不自由なのは我慢してもらおう。ついでに一人ずつに黒の精霊を張り付け、マーキングする。

青と黒、白が、襲撃者が持っていた食料を分配する。紅が太刀を抜き、襲撃者達を追い立て始めた。

「おらさっさと帰れ!道中で集落を襲ったりしたら承知しねえからな!」

まったく……態度だけみれば紅のほうが悪役に見えてしまう。


襲撃者全員が大隈方面に去ったのを見届けて、俺達も里に帰る。

陽はとうに中天を過ぎている。さっさと帰らないと小夜や子供達が心配する。

腹も減ったしな。






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