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57.農地の開墾と窯作り

雨が降らない日が増えてきた。少しずつ気温も上昇している。


本格的に暑くなる前に、農地を拡げる。

開墾するのは里の台地の西側。崖から続く水はけのよい土地だ。

一面に広がるススキを刈り、岩と木の根を掘り起こし、整地する。

里の南側に続く道路を残し、10m四方で区切っていく。

とりあえず南北に3面×東西に3面で9面の畑ができた。


最も東側の水はけのよい畑に、それぞれトウモロコシ・ジャガイモ・サツマイモを、

次の列に大豆・ネギ・玉ねぎ・オクラを植え付ける。

最も西側の3面にはあわひえ蕎麦そばいた。

裏庭の雑穀畑がそろそろ桑に圧迫され、収量が落ちているらしい。

何度も収穫を繰り返しているから無理もない。少し土地を休ませないといけない。


2日かがりで新しい畑の開墾と植え付けを終え、里の内の畑を収穫する。

大豆と麦が三俵ずつ、粟・稗・蕎麦がそれぞれ二俵、トウモロコシがおよそ100本、ジャガイモとサツマイモ・里芋が三箱、玉ねぎが二箱、大根と人参がそれぞれ30本といった収穫になった。

雑穀を植えていた裏庭の畑は休耕きゅうこうし、大豆・麦・ジャガイモ・サツマイモは転作する。

大豆を植えていた畑に麦を、麦を植えていた畑にジャガイモを、ジャガイモを植えていた畑にサツマイモを、サツマイモを植えていた畑に大豆をといった具合だ。


「なあタケル、そろそろこいつらの集落に約束のモノを届ける時期じゃないか?」

夕食の席で、紅が言い出した。桜と梅、椿の顔が少し強張こわばる。

そういえば梅雨明けに行くと約束していた。2石分の雑穀をさし入れなければいけない。


「里で採れた穀物は、皆が食べているものとは異なります。特に米と麦は外部に流すのは避けたほうがいいでしょう。また複製されてはいかがですか?」

青の提言も最もだ。米と麦は元の世界の改良品種であり、こちらではまだ栽培されていない粒の大きさと風味になっている。しかも緑の精霊の力を受けて、なにやら収量まで上がっている。

「粟や稗にも緑の精霊を使っているけど、大丈夫なの?」小夜が青に聞いている。

「粟や稗はそもそも鳥の餌から取り出した原種のようなものだ。改良品種でもないし、こちらの種類とも味や風味は違わない。そうだろう?」

桜・梅・椿が首を縦に振る。

「お米の味は全然違いますし、麦も里のほうが大きいです。でも粟や稗は違いがありません」

「というか里の米を奴らに食わせたくないです……」

実は梅は慣れると意外と厳しいことを言う。どちらかというと黒に似ているかもしれない。

「まあこんなに美味しいものを集落に持って行くことないですよ!秋になれば向こうでも米は採れますし、少しは我慢すればいいんですよ!」

椿は相変わらず明るい。桜や小夜ほどおっとりとしておらず、かといって白ほど活動的ハイテンションでもない。『明るく元気な女の子』の典型のようだ。

じゃあ畑仕事も落ち着いたし、来週にでも向かうとしよう。それまでに差し入れする雑穀を増やしておくよう黒と青に依頼する。

明日は煉瓦を作っておきたい。


翌日、子供達の勉強を終えてから、杉や桃にも手伝ってもらい煉瓦れんがの材料である粘土掘りを行う。

採掘場所は北の山の崖下。以前小夜達が石炭や石灰石を見つけた場所だ。

石炭層の確認も兼ねて、崖下に沿って表土から順番に剥いでいく。

粘土層は表土のすぐ下から見つかった。崖の石炭層はまだまだ下に続いているようだ。

崖からは石灰石も採掘できた。

粘土と石灰石を黒が準備してくれた麻袋に入れ、背負子しょいこで背負って里に帰る。


煉瓦には大きく分けて2種類ある。日干し煉瓦と焼結煉瓦だ。

日干し煉瓦は主に乾燥地帯で作られる。聖書にも記述があるような由緒正しき建材だ。粘土に藁や干し草を混ぜ、型抜きし日干しする。それなりの雨にも耐えるが、今回の目的のような窯作りには向いていない。

今回は窯を作るのが目的だから、焼結煉瓦を作る。といっても溶鉱炉やコークスをを作るための耐熱煉瓦ではない。最終的には耐熱煉瓦も作るが、まずは1ステップ目だ。


まずは石灰石を砕く。粉になるまで砕く。これがまず重労働だった。黒の水車の完成が待ち遠しい。

黒の水車の設計は、模型作りの段階まで進んでいた。

差し入れた軸受けを使って、30㎝ほどの模型を作り、水車の形を検証しているようだ。


運んできた粘土に石灰石を混ぜ、少量の水を加えよく練る。杉や松が泥遊びの感覚で楽しんでいる。

よく混ぜ終わったら、210㎜×100㎜×60㎜の枠に詰め、型抜きし、乾燥させる。

窯の天板用に長尺の1,050㎜の型も作った。これに詰めるのは藁や籾殻を混ぜた材料だ。


翌日の午後、乾燥が終わった煉瓦を1辺に5個ずつ囲い状に積み上げる。

底部に煉瓦一個分の隙間が空くように積むのがポイントだ。

積み上げた囲いの内側に難く縛った藁束を入れ、囲いの下から点火し、煉瓦を焼き上げていく。

藁の燃焼温度はおよそ1000℃に達する。ただ燃料として使うには持続時間が短いのが難点だ。

何度か藁束を追加し、煉瓦が焼きあがった。そのまま火が燃え尽きて冷えるまで、一晩放置する。


翌日、焼きあがった煉瓦を子供達の家に運び入れ、まずはパン焼き用のかまを作る。


土間の一部分の土を固め、土の精霊で高さ50㎝ほどの土台を作る。

さすがに土間に直置きでは作業がしにくいが、土台まで煉瓦で作ると大変だ。

石灰石と珪砂を砕いて水で練った耐火モルタルを塗りながら、煉瓦を横5枚×奥行き10枚で敷き詰める。

これで横幅1,050㎜×奥行き1,000㎜の窯の土台ができる。

次に、壁の煉瓦を5段積み上げる。間口の大きさが高さ30㎝×横85㎝となった。

あまり高さがあっても間口が広くなるから熱効率が悪化する。


煉瓦積みで松が意外な才能を見せる。モルタルを塗るのが上手なのだ。

木のプレートの上でモルタルを捏ね、木のヘラで掬い、一定の厚みで煉瓦に塗っていく。

「泥遊びは好きだったけど、あんまりやってると父ちゃんに叱られてた!」らしい。

子供の遊びから才能を見出すのは本当に難しそうだ。


天井に長尺の煉瓦を配置し、パン焼き窯の姿が完成だ。

まずは窯の中で焚火をして、火入れをする。耐火モルタルは一旦温度を上げないと固まらない。

本当はアーチ形に天板の煉瓦を積めば熱効率が上がるのだが、まあ今回は簡易型の石窯で良しとする。


火入れのあとは一旦放冷し、モルタルにひび割れができたり、煉瓦が崩れたりしないか様子を見る。

この間に黒と小夜がパンを捏ねてくれていた。

火入れのあとの灰を掻き出し、改めて窯の中で焚火をする。

窯の中のすすが白くなってくれば頃合いだ。

掻き出し棒で火を奥に押しやり、中心部にコッペパン状に成型したパン生地を並べていく。


しばらくすると、パンが大きく膨らみ始める。辺りに優しい匂いが漂う。

20分もすれば、こんがりとしたキツネ色のコッペパンが焼きあがった。


始めにパンを受け取るのは窯作りの功労者である杉・松だ。

その後に粘土掘りに加わった桃・楓・棗、皆の面倒を見てくれている桜・梅・椿の順に受け取っていく。

杏や樫といったチビ達には、桜や梅の分を少し分けさせる。

杉と松が早速大口で齧り付き、歓声を上げている。

「外はパリッとしているのに中はふわふわだ!」

杉には食レポの才能…あるか……??

「ナンもいいですけど、もっとふわふわしていますね。美味しいです」これは桜の感想。

隣のかまどでソーセージを焼いていた紅が、子供達のコッペパンを背割りして、ソーセージと千切りキャベツを挟んでやっている。そこにヤギバターと味噌・甘酒でできた甘いソースを黒が掛けている。

受け取って齧り付いた子供達が再度歓声を上げる。

「うんま~!!ソーセージうま~!!」うん……やっぱり杉には食レポの才能はないらしい。

それはそうと、そんなソースいつの間に開発した??


そんな感じで、煉瓦作りとパン窯作りは好評のうちに完了した。

これで、1000℃程度まで耐えられる煉瓦は作れそうだ。

次はコークスの熱に耐えられる耐火煉瓦を目指そう。


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