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55.夏に向けた準備を始める②

夜、小夜の勉強を見ながら、バターの作り方をレシピにまとめる。

名付けて「紅でもできる!美味しいバターの作り方」だ。

紅の仕事のメインは狩りと獲物の処理・家畜の世話だから、実は荒天時には仕事があまりない。

午前中は子供達と一緒にお勉強だが、それでも午後から時間を作れそうだ。

家畜の世話に加えて、獲物や家畜から採れる加工食品の製造も任せようと考えている。

次にイノシシが取れたら、ソーセージを作ってみよう。

本格的にいぶすのは梅雨が明けてからになるが。


そういえば、4頭の雌ヤギのうち、出産した2頭以外の残り2頭も妊娠したらしい。

これでヤギ乳の供給源が一気に倍になる。

出産のインターバルも考えれば、雌ヤギが6頭~8頭いれば、里の人数を養う乳としては十分だろう。


「タケル?このメモには水車を作るって書いてある。もう設計した?」

黒が聞いてくる。

「いや?まだだが?」

「じゃあ私に任せてほしい。子供達にも手伝ってもらうけど。少し水路に手を加えるけど、構わない?」

そうか。折角だから任せてみよう。

「黒は水車をみたことはあるか?」ふと気になって聞いてみる。


もともと水車は平安時代前には大陸から伝わっていたはずだ。

だが日本中に広まったのは幕末から明治にかけて。

博多の街に向かう道中や、乙金の集落でも水車は見かけなかった。

「ない。でも原理はわかる。タケルの図鑑にも乗っていたし、この教科書にも載っていた。大丈夫」

いやそれは発電用のタービン水車だからな。

今欲しいのは脱穀や製粉用の上掛うわがけ水車や下掛したがけ水車だ。


まあ失敗しても誰かが怪我をするようなことではない。

せっかくやる気になっているのだ。余計なことは言わず、任せよう。


その夜は黒が遅くまで囲炉裏の部屋で起きていた。

ちょこちょこと俺の部屋から資料を持ち出しては、何かを紙に書いている。

思えば俺が元の世界で設備設計を任されていたときも、こんな感じだった。

何かを思いついたら、その時に形にして残さないとダメなのだ。


俺の部屋と廊下を仕切る引き戸が開く。

また黒が資料を取りに来たかと思ったが、黒はそのままベッドに潜り込んできた。

どうやら限界が来たらしい。

今夜は小夜と白のターンだったはずだが、遠慮したのだろう。

黒の頭を撫でながら、眠りにつく。



翌朝、目が覚めると黒はもういなかった。

囲炉裏の部屋に置いてある机には、黒が設計途中の図面が残されていた。


どうやら水車の軸受けで悩んでいるようだ。

それもそのはずだ。軸受けは表から見える部品でもないし、俺が持っている図鑑や教科書にもそんな部品一つ一つまで詳細に書かれているわけではない。

全部木で作るのだから、別に転がり軸受にこだわる必要もないのだが、試してみたいのだろう。

少しだけ手助けをすることにする。


部屋に戻り、簡単なスケッチと模型を作る。

杉の木で主軸を作り、主軸の太さに合う内輪を作る。

竹を球状に加工したものを幾つも作り、球の直径を考慮して杉の木で外輪を作る。

外輪と内輪の間に竹の球を入れ、竹の球の直径のおよそ半分まで隠れるように外輪からリムを取り付け、緑の精霊で接着する。

隙間からグリス代わりにラードをつければ、木製ベアリングの完成だ。

これが意外とよく回る。元の世界で一瞬だけ流行ったハンドスピナーほどではないが。


そんなことをしていると、小夜が起こしにきた。

スケッチと模型を囲炉裏の部屋の机に置き、子供達の家に食事に向かう。


昨夜で肉切れになっていたから、今朝は雑穀入りの飯と川魚の干物、里芋と野菜の味噌汁だった。

今日の子供達の講師は青と黒。黒は昨日寝不足のはずだが、大丈夫だろうか。

俺は紅をつれて朝から狩りに向かうことにした。天気は雨だが、少々食卓が寂しい。


今日の獲物は50Kgほどのイノシシが2頭とウサギが3羽になった。

道中でソーセージの話をすると、紅がノリノリでイノシシを狩っていた。

ウサギは子犬たちの食事だ。


血抜きと内臓の処理までを川で行い、天秤棒を二人で担いで里に帰る。

昼食後に、紅と二人でソーセージ作りに取りかかった。

骨回りの肉や筋・軟骨を包丁でミンチにし、ニンニクやネギといった薬味とみじん切りの玉ねぎ、塩を適量加え、裏返した胃袋に詰め、腸に向かって絞り出していく。

適当な長さで腸の形を整え、球結びにして区切っていく。

これでイノシシの腸詰ソーセージができた。

このまま燻製にすればいいのだが、あいにくチップの準備をしていない。

燻製はお預けにして、今回は網で焼くことにした。


夕食は今回作ったソーセージとナンでナンドックになった。

キャベツの千切りと野菜のスープが添えられる。この組み合わせだと無性にカレーが食べたくなる。


ナンドックを一口食べた皆から歓声が上がった。

「噛むたびに肉汁が溢れてきて旨いなあ!」

「コリコリした軟骨に甘い脂が溶け合って、美味しいです!」

「肉汁が染み込んだナンがまた格別」

ソーセージはとても好評だ。今度はベーコンやハムにもチャレンジしよう。


ちなみに今夜は小夜と白がベッドに潜り込んできた。

昨日は順番を黒に取られてしまっていたから、朝は若干ご機嫌斜めだった。

そういえば最近この二人との関わりが薄くなってきている。特に白には子供達の世話を任せっきりだ。

こういう時ぐらい、思いっきり甘えさせてあげよう。

実年齢はさておき、二人とも俺の可愛い娘達だ。


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