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54.夏に向けた準備を始める①

そろそろ梅雨も折り返し時期に来ている。

この梅雨の間にやっておきたかったことを、改めて列挙してみる。


1.調味料と発酵食品の充実

酵母が手に入ったのだから、酢や味噌、醤油といった発酵食品を充実させたい。

また、ヤギ乳でバターやチーズといった乳製品も作りたい。

幸い麦や大豆、それに米は1回目の収穫を終えているから、素材に余裕はある。

試行錯誤が必要だし、そもそも酵母はあるがこうじが手に入ったわけではない。

早速今日から取り掛かろう。


2.脱穀や粉挽きのための水車の設置

前回の収穫時には脱穀や籾摺り、粉挽きを全て手作業で行ったが、なかなか辛かった。

今後は収穫量も増えてくるので、早急な機械化が必要だ。

これは梅雨の間に構造の検討を終わらせ、秋口の収穫までに設置しておく必要がある。


3.石炭利用のための検討

試料サンプルを燃やして分かったのだが、とにかく硫黄の臭いがきつい。

燃料として利用するには、脱硫するなど何らかの前処理が必要だ。

コークスにするには石炭を蒸し焼きにすればいいはずなのだ。

とすれば煉瓦の製造が先決か。


4.子供達の道具の充実

夏以降は子供達に採集や農作業を受け持ってもらうつもりだ。

服飾は黒に任せるとして、小刀や鎌、弓矢などの道具の充実は必須になる。

黒や紅への材料工学の教育も兼ねて、一旦鍛冶職人になってもいいだろう。



まずは雨天でもできる調味料と発酵食品の充実からだ。

こうじの準備のために、まずは母屋の竃で麦を蒸す。

杉の桶を3つ作り、青の精霊の水で綺麗に洗い、蒸した麦を敷き詰め、サラシ布を掛けて冷ます。

サラシ布には期待を込めて緑の精霊を貼り付けた。

3つに分けたのは、コウジカビ以外が増殖しても全滅を避けるためだ。

上手くコウジカビが増殖してくれれば、麦麹が出来上がる。


待っている間にヤギ乳の処理をする。

ヤギの乳は毎朝紅が搾ってきてくれている。

1頭あたり1〜2ℓなので、だいたい一人コップ一杯。

癖はあるが濃厚な味で、小さな子供達には大人気だ。

一方で桜や梅の口には合わない様子。いつも自分の子供にあげてしまっている。


今日は特別に1ℓ融通してもらっていた。ちょっとヤギ2頭に負担を掛けてしまったかもしれない。

1ℓの乳を、底に穴を開けて栓をした竹筒に500mlずつ入れ、蓋をして紐を取り付ける。

紐を持ってゆっくり振り回せば、即席の遠心分離ができる。

ヤギ乳の乳脂肪分は3.8%ほど。

均質化(ホモジナイズ)していないから、脂肪分が分離して上層に浮いてくる。

下層の脱脂乳を竹筒の底から抜けば、クリームの完成だ。

1ℓのヤギ乳から、およそ100mlのクリームと900mlの脱脂乳が得られた。


クリームを竹筒のまま加熱殺菌し、よく冷やしてから上下に振る。機械的衝撃を与えることで、クリームの中の脂肪球(しぼうきゅう)を壊し、液状脂肪を取り出す。ここでクリームの温度が上がると、脂肪が溶けてしまうから、時折青と白の精霊で冷やしながら根気よく降り続ける。

大豆ぐらいの脂肪粒が出てくれば、作業は完了だ。

サラシ布で濾過し、脂肪粒を取り出す。濾過された液体はバターミルク。脂肪粒がバターの原料だ。

脂肪粒を集め、少量の塩を加えよく練る。

1ℓのヤギ乳から、およそ50gのバターが得ることができた。

ラードよりもだいぶ手間はかかるが、ほとんど火を使わないので、屋内で作業できるし、何より子供達だけでも作業できるのは大きな利点だ。


そんな感じで午後からずっと母屋の土間に引きこもっていたからか、黒が様子を見に来た。

「そろそろ夕食の準備をするけど……タケル何やってる?」

「ああ。ちょっとヤギバターを作ってみた。今日の夕食の献立は?」

「ナンを焼いて、ウサギ肉の野菜炒め。これで昨日のウサギ肉は終了」

ということは明日は狩りに出なければ肉抜き生活が始まる。

ソーセージやベーコンなどの保存食も作り始める必要があるか……

「じゃあこれを使ってナンを焼いてみてくれないか?」

そういって黒にバターと脱脂乳、バターミルクを渡す。

「これはなに?乳の匂いがする…油?」

「そう、乳から脂分だけを取り出したものだ。ラードの代わりに使ってくれ。液体は乳から脂分を抜いたもの。そのまま飲むとコクがないから、生地を練る時に水の代わりに使ってみよう」

「わかった。やってみる」

黒は脱脂乳の匂いを嗅ぎながら、受け取った竹筒と容器を抱えて子供達の家に戻った。


俺も土間を片付けて、後を追う。

麦麹を仕込んでいる桶の中をちらっと覗くが、特に変色や異臭はない。

ピンク色や青っぽいカビが生えていたら失敗だが、今のところ大丈夫のようだ。

明日に期待しよう。


脱脂乳を練りこみ、ヤギバターで焼いたナンは大好評であった。

「ヤギのお乳の匂いがちょっと苦手だったけど、これは美味しいです!」

梅が喜んでいる。椿や杉といった育ちざかりの子供達は一心不乱に食べている。

喜んでくれるのなら、手間暇かけた甲斐があったというものだ。

作り方を教えれば、子供達も自分で作れるようになるだろう。




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