表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/178

51.小夜の収集物

「子供達が持ってきたものもあるので、変なのもありますけど…」

そう言いながら小夜が袋の中身を一つづつ出していく。

まあ子供達も何かの役に立つと思って集めてきたのだ。無下(むげ)にはできんだろう。

「こっちの袋にはナマモノを入れてきました!」

ナマモノ?ナマモノ……生物だった。

何種類かのキノコ、大きな芋虫は何かの幼虫だ。何枚もの葉っぱ、竹筒を切った水入れには大きなエビが入っている。よくぞまあ持って帰ってきたものだ。


キノコは椎茸(しいたけ)平茸(ひらたけ)に見えるが、この判定は俺には無理だ。詳しそうな青を呼ぶ。

「はい、全部毒はないキノコですね。特に有毒の月夜茸(つきよたけ)に似ていますが、大丈夫です」

よかった。椎茸が手に入るなら出汁が取れるのだが…幸い裏山にはクヌギやコナラは生えている。きちんと栽培すれば、安定供給できるかもしれない。


次に芋虫…大きさ7cmほど、青味がかった薄緑のボディにみっしりと白い長い毛が生えている。よく採ってきたな…

この時期青味がかったボディの芋虫といえば、クスサンの終齢幼虫。見た目から終齢幼虫はシラガタロウとも呼ばれる。クスサンそのものはヤママユガの一種で、差し渡し10cmを超える大型の()になる。

毒はないが、いや普通これを採ってこようとはなかなか思わない。


それはさておき、このクスサンの幼虫。ある用途に利用できる。糸を吐くのだ。

といっても(かいこ)ほど綺麗な糸は作らない。そのかわり立派な絹糸腺(けんしせん)を持ち、絹糸腺から直接取り出せば1匹あたり数mの丈夫なテグスが採れる。

釣りにはもちろん、捕獲用や防獣用の網を編んだりするのにも使える。夏になれば子供達の仕事に漁を加えるつもりだから、テグスはある程度確保したい。


葉っぱは何種類かあった。

6枚ほどの細い葉が掌状に集まった葉は、おそらく麻だろう。葉の表面に細かな毛はあるが、ベタベタするような樹脂っぽいものは付いていない。恐らく繊維種だ。繊維種の麻なら栽培する価値はある。種子は栄養価も高い。

石蕗(つわぶき)の葉に似ているがもっと柔らかく独特のツンとする匂いの葉…山葵(わさび)だ。ワサビは薬味としても保存食の殺菌用としても有益だ。水路の脇で栽培できれば嬉しい。

他は(くり)椿(つばき)の葉だ。どちらも有益だが、山中を歩けば普通に見かける木だ。


エビはまあ普通のテナガエビだ。テナガエビがいるなら、ご馳走でエビフライが作れそうだ。


「使えそうなものがあって良かったです!じゃあ次はナマモノ以外ですね!」

また小夜が袋の中身を一つづつ取り出していく。

リクエストどおり、いくつかの白い石と光沢のある黒い石を見つけてきていた。それと竹筒に詰まった土。粘土か。

最初に粘土を見る。椿を呼び、集落で使っていた粘土と手触りに違いがあるか尋ねる。

「ちょっと乾いてるので手触りは違いますが、使えると思います!」

ではとりあえずOKだ。梅雨が明けたら煉瓦(れんが)を作ったほうがいいかもしれない。今後パンやピザを焼く窯にも煉瓦は必要だ。


白い石のうち、光沢がない方は石灰石、光沢があるほうは珪石だ。石灰があればコンクリートが作れるし、珪石と石灰があればガラスが作れるかもしれない。


それだけでなく、石灰は鉱業や工業のあらゆる分野で多用される。

例えば鉄鉱石の精錬(せいれん)時に、鉄鉱石中の不純物をドロドロに溶かした溶融スラグの融点を下げる添加剤として、あるいは石炭や重油の燃焼で発生する亜硫酸ガスの脱硫(だつりゅう)に用いられるのも石灰だ。


ガラスの製造や鉄鉱石の精錬には1500℃以上の高温が必要だが、石炭があれば実現できる。

その石炭が黒い石だった。


見た目はただの光沢のある黒い石。黒曜石にも似ている。黒曜石は金属が手に入らないサバイバル時には必須アイテムだが、今は必要性は薄い。

実際手に取ってみれば、石炭は圧倒的に軽い。見分けるのは容易だ。


「タケル、この2つは見た目はよく似ているのに重さが全然違う。重い方は普通の石の重さなのに、軽い方は普通の石の半分ぐらいしかない。なぜ?」

黒が2つの石を差し出す。

軽い方は石炭、重い方が黒曜石だ。

「軽い方が石炭だからだ。石炭は大昔の植物が地中に埋まり、長い時間を掛けて地熱と圧力を受けて炭になったものだ。だから主成分は炭素。つまり炭と同じだ。だから軽い」


「なるほど…炭のように燃える?」

「燃える。しかも単位質量(たんいしつりょう)あたりで比べれば、炭よりも石炭のほうが発熱量が大きい」

「はつねつりょう?発熱量ってなに?」

いかん…黒の知識欲に火がついた。熱化学に首を突っ込むと大変だ。嘘は教えられないが、触りだけにしておこう。


「発熱量とは、単位質量の燃料が完全燃焼する際に発生する熱量だ。つまり発熱量が大きければ、より少ない燃料で同じ熱を得られる」

「つまり木炭を使うより石炭を使う方が効率がいい?」

「そういうことだ。ただ石炭は着火性が悪いから、実際に燃料にするには使い勝手が悪い。炊事や暖房には木炭、工業的には石炭など使い分けをしたほうがいいな」

「わかった。あと……」

「タケル兄さん!あと地層?の件なんですけど」

更に続けて質問しようとする黒を、珍しく小夜が遮る。

「裏山の北のほうに見つけました。たぶん最近崩れたんだと思います。この黒い石や粘土もそこで拾ったんです。よかったらお昼から一緒に行きませんか?」

わかった。早速昼食後に出かけることにする。黒のお勉強タイムは夜に約束した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ