50.梅雨の中休み
翌朝、目覚めるとまだ小夜と黒は俺の脇の下に挟まっていた。先に起きてしまう青や紅とはここが違う。
黒が先にもぞもぞ動き出す。
顔を脇の下から持ち上げ、俺の胸に顎を置いて言う。
「タケルおはよう。小夜も起きて」
小夜も同じように俺の胸に顎を置く。
「おはようタケル兄さん。今日は何する?」
昨日は一日中続いていた雨音が今朝は聞こえない。たまたま小休止か、梅雨の間の貴重な晴れ間か。
「私は雨が降っていないなら洗濯したい。ちょっと溜まりすぎ」
じゃあ俺は紅と狩りに行くか。
「私は天気が崩れなければ、子供達も連れてちょっと山に入ってくるよ。タケル兄さん何か探すものある?」
そうだなあ…そういえば以前小夜達は河原で綺麗な石を拾っていた。綺麗な石があるということは、何らかの鉱物資源があるかもしれない。琥珀や瑪瑙といった勾玉の材料もそうだが、石炭や石灰石、砂岩や良質の粘土といった鉱物資源にそろそろ目を向けたい。
「じゃあ大きな崖があったら教えてくれ。この大雨で表層の草木が流されていてくれればいいが。見たいのは地層といって、崖にできた模様だ。あと、白っぽい岩や粒の揃った砥石に出来そうな岩、真っ黒で切り欠くと表面に光沢がある岩があったら教えてくれ」
小夜が少し首を傾げている。言われた言葉を反芻するときの癖だ。
「わかったよタケル兄さん!」
「雨が降っていなくても、地面が緩んでいるから気をつけるんだぞ?」
「は〜い!」
そういって小夜と黒が先に部屋を出て行く。
朝食の後、紅を誘って狩りに出る。小夜が里の裏山に入るようだったから、俺たちは里の南側、新しく拓いた田の向こう側に向かう。
午前中ぐらいは雨は止んでいそうだ。
今日は椿が参加してきた。
普段の椿は、小夜の仕事の手伝いがメインだから必然的に小夜にくっ付いていることが多いが、川遊びに行って以降、俺にも懐いている。
「へえ〜飼い犬に手を噛まれるというか、弟子に取られっちまうんじゃないか?」
椿がキョトンとしている…かと思いきや、唇の端が少し上がっている。おいおい。
ともかく、今日は獲物を狩るだけでなく、探索も兼ねている。椿も連れて行こう。
山の獣道を歩きながら、椿が聞いてくる。
「タケルさんの里では木炭は焼かないんですか?」
「ああ、梅雨が明けたら手を出そうと思っている。冬への備えも必要だし、年貢を何で納めるかも決めてないしな」
「じゃあ炭焼きは私に任せて貰えませんか?実家は炭焼きしてましたし、小さい頃からちゃんと手伝ってました。自信はあります!」
そうか。じゃあ軌道に乗りそうなら任せてみるか。
紅が声にならない声で何か言っている。売り込み?存在価値?そんな言葉だ。まあいい。
「じゃあ炭焼きの窯を作らないとな。梅雨が明けたら作るつもりだったが、良さそうな場所があれば探しておいてくれ。あまり里に近からず遠からずといった場所がいいな」
「それならいい場所があります!きっとそう言われると思って、探しておきました!」
紅がまたしても何か呟いている。
「そうか、近いなら案内できるか?紅も立ち寄っていいよな?」
「おう…しかしアレだな。ウチの若いのも大変だな!」お前はもう若くないんだな??
椿が俺たちを連れて行ったのは、高さ5mほどの崖が続く場所だった。
崖の下には比較的広い平坦な獣道になっている。ちょうど台地の終わりといった感じだ。
「こういった崖に横穴を掘って、崖の上に煙を出す煙突を開けます。横穴の入口を粘土で埋めてしまえば、私がいた集落の炭焼き窯はこういった所に作るんですが、いかがですか?」
「うん、いいね。概ね考えていた立地条件だし、崖の具合も良さそうだ。ここにしようか」
崖は地層が重なっているわけでなく、大きな岩盤の上に表土が乗っているようだ。
これなら大雨で崩れたりすることもないだろう。
横穴を掘るのに苦労しそうだが、それは土の精霊を使えば問題ない。
何より、里から見える範囲だが田という緩衝地帯があるおかげで、炭焼きの匂いが里に流れ込むこともなさそうだ。
「じゃあ梅雨が明けたら、この場所に炭焼き窯を作る。椿も技術指導よろしくな」
「はい!もちろんです!」
「それはそうとタケルよお?目的忘れてねえか?」
忘れていた。まだ獲物を狩っていない。
とりあえず崖の上に登り、尾根に向かいながら獲物を探す。イノシシや鹿、タヌキを見かけるが、どれも子連れだ。
「子連れがいるところには雄はいないよなあ。どうする?ウサギやキジを数狩るか?あんまり離れると帰りが大変だぞ?」
そうだ。紅と二人なら黒の門で帰ればいいのだが、今日は椿がいる。
「よし、小物を何匹か狩ろう。タヌキ、ウサギ、キジ、ハト、この辺りだな」
「了解!じゃあ俺の出番だな。タケル!照準は任せたぜ?」
紅が背負っていた弓を構え、矢を番える。
「紅、14時の方向、距離300、タヌキ、窓を開くぞ」
「おう」
紅の放った矢は、のんびり落ち葉を掘り返していたタヌキの胸部を射抜く。
「次、10時の方向、距離200、ウサギ」
こんな調子で、次々と獲物を狩って行く。
椿が回収に駆け出す。方向と距離しかわからないはずだが、大丈夫だろうか。
「あいつ精霊見えてるだろ。大丈夫なんじゃないか?」
そうだった。どうやら椿は精霊が見えるらしい。里に来た日から、精霊を目で追っているのは分かっていたが、最近その傾向が顕著だ。本格的に鍛えたほうがいいかもしれない。小夜と同じぐらい使役できれば心強い。
結局今回の獲物はタヌキ2頭、ウサギ3羽、キジ1羽となった。
槍ぐらいの長さの棒の両側にバランスよくぶら下げ、天秤棒の要領で肩に担ぐ。キジは紅が、小ぶりのウサギを椿が持つ。これは子犬達への土産だ。
そういえばオオカミなのに子犬呼ばわりしているが、そろそろ名前など決めたのだろうか。
「子犬の名前?ああ、決まってるぜ?白達はみんな呼んでるだろ」
知らぬは俺だけだったらしい。
「でもタケルは聞かないほうがいいぞ?というか聞くな。あいつらのためだ」
いや何奴らのためだよ。
里に戻ってくると、ちょうど小夜達も帰ってきた所だった。今日の収穫のお披露目会になる。
とりあえず小ぶりのウサギを白に渡す。
紅と杉で残りのタヌキとウサギ、キジの解体に入る。
杉は猟師の息子という生まれを発揮しはじめた。紅曰く、解体のスジはいいらしい。来年には狩りに連れて行くそうだ。
タヌキを見て、黒が桜を呼び食事の支度を始めた。
小夜が何やら袋を2つ持ってきた。
「タケルさん!いろいろ採ってきてみました!使えそうなのありますか?」
そう言いながら納屋の前に広げていく。




