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5.少女との出会い

朝食も終えたので、またのんびりと歩き出す。草鞋は久しぶりだが、特に違和感はない。


辺りの地形を確認しながら歩く。左手には川幅5mほどの川が流れている。深さは浅瀬で30cmぐらいか。上流部から中流域に差し掛かる手前の、瀬と淀みが交互に現れるエリアだ。河原がさほど大きくないところを見ると、氾濫するほど暴れることはなさそうだ。


さらに左手奥には標高400mほどの山が連なっている。右手はなだらかに山林が広がり、少し奥はじいさんの裏山と繋がる山裾になっている。

生えている木はブナやクリ、クスノキなど広葉樹主体で、ところどころに見慣れない分厚い葉を持つ低木が生えている。山芋やノブドウの葉もあちこちに見える。下草はササが優勢のところもあれば、湿ったエリアや崖沿いにはシダの仲間が茂っているところもある。


少し開けた場所に生えている大きな木の根元に、白っぽいボロ布のようなものが見えた。この世界で初めて見る人工物だ。


駆け寄り、そして思わず目を背けた。


ヒトだ。いや…ヒトだったものだ。


ボロ布の中から覗く細い手足は、末端から酷い皮膚病に罹っている。髪はほとんど抜け落ち、顔も大半が瘡蓋のようなもので覆われている。男か女か、若いのかどうかもよくわからない。


良く似た症状を発症したタヌキを、昔見たことがある。重度の角化型疥癬。ヒゼンダニという極めて小さなダニの寄生による皮膚病だ。

本来免疫力が強ければ、寄生されても痒みや発疹程度で済むはずだが、よっぽど栄養状態が悪かったのだろうか。


良く見ると、僅かに胸が動いている。息はあるようだ。

昨夜試してみた緑の精霊を集め、倒れた身体をそのまま覆ってみる。昨夜は眠気が吹き飛んだだけだったが、もしかして癒しの効果があるかもしれない。


数分もたっただろうか。実際には数十秒だったかもしれない。全身を覆っていた緑の光が薄らいできて、少しずつ緑の精霊が離れていった。

白っぽいボロ布に包まれていたものは…少女だった。


身長は130cmぐらい。痩せすぎでいまいち年齢がわからない。抜け落ちていた髪はふさふさと生え揃ったが、伸ばし放題といった感じだ。両手の肘のあたりと、両足の脛には包帯のような布地が巻かれているが、茶色に変色しカピカピに乾いている。白い肌とのコントラストが痛々しい。

ふらふらと歩いていて、木の根にでも躓いて倒れたまま、意識を失っていたのだろう。

生命の危機は脱したようだ。


規則正しく僅かに動く肩を見ながら、どうしようかと考える。まだ日は中天を過ぎたあたりだ。

「まあこのまま放っておくわけにもいかないよな」

そう呟くと、とりあえずこの場で昼食にすることにする。ウサギ肉の残りはあるが…少女が気がつくようなら粥のほうがいいだろうか。


少女が寝ている場所から左に数メートル離れたところに、地面が平らな部分があった。この場所なら少女を視界に納めつつも、変なプレッシャーは与えないだろう。

地面の落ち葉を払い、土の精霊で簡単なかまどを作る。薪は枯れ枝を適当に集め、火の精霊で着火する。

リュックサックから飯盒と一握りのコメを取り出し、

水の精霊で指先から水を注ぎ、簡単にコメを研ぐ。

粥なら水の量は3倍ぐらいでいいか。俺も食べるのだから、あまり薄くても残念な気持ちになるだろう。

かまどに掛け、炊き上げていく。すぐにコメの炊けるいい匂いが漂ってきた。


そうこうするうちに、少女が寝返りをうつ。いきなり目が合ったりしたら気まずい。俺はもともと他人は苦手だ。


ふと気づくと、少女が仰向けのまま顔だけこちらに向けて、じっと見ているのに気づいた。

「気がついた?」

そう声をかけると、小さな声で返事があった。

「お腹…すいた…」

会話は成立するようだ。異国に飛ばされたわけではないとは思っていたが、この世界での初めての会話だ。

リュックサックから取り出したお椀に粥を入れ、去年漬けた梅干しを一粒入れ、木サジを添えて少女に差し出す。

「お粥だけど食べる?」

少女は身体をゆっくりと起こし、お椀を受け取る。


「お粥…食べられるの?…?」

少女の食文化には異質なものだっただろうか。

「お米を柔らかく煮たものだよ。赤いのは酸っぱいから、苦手なら白いところだけ食べな」

そういうと、少女は恐る恐る粥を木サジで掬って口に運ぶ。

「美味しい…」

そう呟くと、一気に掻きこみはじめる。梅干しも気にせず食べているようだ。火傷が心配になって、水の入った竹筒を差し出した。

少女は右手で竹筒を受け取ると、怖がりもせず口をつけた。

「お水も美味しい…」

「それはよかった」そういってほぼ空のお椀を受け取り、もう一杯粥をよそって少女に渡す。

「誰も取らないからゆっくり食べな」

そう言ってあげると、少女は少し落ち着いたのか、周囲を見渡し、自分の手や足を見て驚きの声を上げた。

「怪我が治ってる!」


「ああ…だいぶ酷い状態だったからね。治しておいた。ちゃんと動かせるかい?」


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