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48.梅雨の過ごし方②

子供達の家に移動して、皆でナン祭りにすることにした。

青の作る水で皆の手を洗わせ。握り拳半分ぐらいに切り分けた生地を配る。

手で叩いて生地を伸ばし、成形する。

フライパンを火にかけ、少量のラードを引き、一枚ずつ焼き上げていく。


最初の一枚は、今回干し苺を融通してくれた椿、そして干し苺を作った小夜、あとは年齢が若い順だ。

最初に受け取った椿が、熱さに驚いている。

摘んでは離しを繰り返し、パタパタしながら冷まし、少しちぎって口に運ぶ。

「甘い!甘いよタケルさん!お米よりもっと甘いし、ふわふわ!」


皆の目の色が変わる。ここでは甘みといえば果物ぐらいだが、原種に近い果物の甘みはそこまで強くない。

皆甘味に飢えているのだ。


小夜や(なつめ)が次々とナンを受けとり、歓声を上げる。

「タケル…母屋で焼いてきていい?」

いや黒よ、それは反則だ。


こうして多少時間は掛かったが皆にナンが行き渡り、ナン祭りは好評のうちに終わった。



「タケル、使っている材料は麦粉なのに、この生地はどうして甘くなるの?」

母屋に戻ると、黒の質問タイムが始まる。新しいことをやると、だいたいこの時間がやってくる。勉強熱心で素晴らしい。


「そうだなあ…米や麦、芋などには澱粉つまり糖が含まれる」

「トウ?大陸に昔あった国?」

いやそれは唐だ。

と言っても、グルコースなどといっても通じないだろう。


「物質が原子と分子で成り立っているのは教えたな?理解しているか?」

「大丈夫。水素、炭素、窒素、酸素のあれでしょ?」

「そう。その原子の結びつき方によって、物質の性質が変わる。例えば水素原子2個と酸素原子1個が結びつけば、水分子1個になる。構成する原子の数が少なければ性質は大きく変わらないが、原子の数が多くなると、同じ原子を含んでいても大きく性質が変わってくる」

「うん。なんとなくイメージできる」


「身近な例では酒と酢みたいな違いだ。両方とも米からできるが、酒の主成分はC2H5OH(エタノール)、酢の主成分はCH3COOH(サクサン)。原子の数はほぼ同じ。構成する原子の種類は全く同じ。では両者の性質に違いはあるか?」

俺は紙に構造式を書きながら、更に説明を深めていく。

「ある。酒を飲むと酔う。酢は酸っぱい。でも酢は酒から出来るはず。そこには繋がりがある」

「そうだ。酒は米から作り、酢は酒から作る。では米と酒の間はなんだ?」

「甘酒?……あっ!」

気づいたようだ。


「そう。米と酒の間は甘酒だ。作り方は、米を蒸し、麹を植え付け、一次発酵させる。この時に米の中の澱粉という大きな糖が、甘さを持つ小さな糖に分解される。一次発酵されたものが米麹甘酒。

次にこの米麹甘酒に含まれる糖を、酵母を使って更に分解する。この過程で生まれるのがアルコール。つまり酒だ。このアルコールを更に酢酸菌を使って発酵させると、酢になる。つまり、人が甘みを感じない糖を、麹や酵母を使って分解させることで甘みを感じる糖に変換しているってことだ」

「分解している……澱粉を分解すると……糖と二酸化炭素?だから生地が膨らむ?」

そうだ。よくできたな。

とりあえず黒の頭をわしわし撫でておく。


「難しい話は終わったか〜?要はなんか混ぜて練って、しばらく放置したら美味いもんができるってことだろ。全くいつもながら自然ってすげえなあ」

紅が黒の理解をぶち壊しにかかる。まあこれもいつものことだ。

「その酵母とやらを使うと、どのようなことができるのですか?」青が聞いてくる。

「そうだなあ…酵母ならパン、味噌、醤油、酒といったところか。乳酸菌ならチーズやヨーグルト、漬物も乳酸菌だな」

「ニュウサンキン??チーズ?ヨーグルト??」

はいはい、また作るときに教えような。


黒のお勉強タイムはひとまず終了にする。



「そんなことよりタケルよお!次にマッサージしてくれるのいつだ?」

突然紅が言いだす。

「まっさーじ?なにそれ?」

黒が喰いついた。だから皆の前で言うなよ…

「なんだ、やってもらってないのかお前達。かわいそうだなあ……めっちゃ気持ちいいのに!特にふくらはぎからお尻にかけて揉まれると、こうゾクゾクしてな、背筋がビクンッてなって意識が飛んじゃうぐらい気持ちいいんだぜ」

「なにそれ……ずるい……」黒がジト目でこっちを見ている。小夜と白は興味津々、青は何か笑っている。


「タケル、今夜は私の番だから、今すぐ寝よう」

黒が不思議なことを言い出す。私の番ってなんだ。

「あれ?言ってなかったか?皆んな輪番で、タケルと一緒に寝る奴決めてんだよ。今日は黒だったかあ……代わってくれ!」紅が交渉をはじめるが、黒の態度はそっけない。

「断る。タケルは私にもマッサージ?するべき」

「え〜そんな気持ちいいのなら、私達もしてほしいよね!小夜ちゃん!」

「え……私はちょっと……恥ずかしいかも……1人でされたいけど、ちょっと怖い……」

「じゃあ次の小夜の順番飛ばして俺な!」

「紅姉それ一日しか変わらないけどいいの?」

「小夜の時は私も一緒だから平気」


4人で盛り上がっている。なんとも賑やかなことだ。

これでネタがマッサージでなければ、ただ微笑ましく見ていられるのだが。


わかった…じゃあ今夜は黒と白だな。

覚悟できたら部屋に来い…

黒さんのお勉強タイムが突然始まってしまいました…

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