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42.農地を拡げる

翌朝、まずは子供達の様子を見に行く。

桜も梅もまだ寝ているが、椿だけが起きていた。


小夜が卵を取りに行くというので、椿も連れて行ってもらう。

その間に青が米を研ぎ、朝粥を炊きはじめる。

桜と梅が起きてきた。

「おはよう」そう声をかけると、少し恥ずかしそうに答える。

『おはようございます、旦那様』

どうやら青に倣って、俺を旦那様と呼ぶようだ。

「タケル?私も旦那様って呼ぶほうがいい?」

鹿肉のソテーを作りながら、黒がチラッとこちらを見ながら言う。今さらそういうのも変だろう。


小夜と椿が元気よく帰ってきた。

卵の収穫が思いのほか大量だったらしい。

竹籠いっぱいに卵が乗っている。

これで一気に朝食の彩りが豊かになる。

卵を粥に溶き入れ一煮立ちさせる。

俺は半熟のほうが好みだが、今は幼児もいるから少々不安だ。


匂いに誘われたのか、子供達が起きてくる。

小夜と椿が起きてきた子供達を順番に厠に連れて行く。桜と梅は乳をあげ始めた。

皆が落ち着くのを待って、朝食にする。


しかし昨日のモツ鍋といい今朝の鹿肉のソテーといい、子供達には初めての味だろうに、一切躊躇がない。若いからこそなのか、あるいは無頓着なのか、たぶん両方だろう。そのうち好き嫌いなど出てくるのだろうか。


一足先に食べ終わった青・紅・白を連れて農作業に向かう。今日は農地を拡げなければならない。


子供達のうち、椿・杉・桃・楓・松の年長さんは、小夜と黒の作業を手伝わせる。椿は精霊が見えているようだし、その他の子供にも素質がある者がいるかもしれない。

小夜には重要なミッションも与えた。板塀の内側の田の生育を早め、1回目の収穫を急がねばならない。

概ね1日で10日分ほど成長するようコントロールしてもらう。


桜と梅は、自分の赤子と残りのチビ達の世話をしてもらう。寝床に使った藁の布団を縁側に立てかけ干しておくよう指示する。


新しい農地は里の南側に拡げることにした。

白が風を操り、100m四方程度の範囲を整地し、刈り取ったススキの付け根を縛りながら1箇所にまとめて行く。

今までススキに覆われて気づかなかったが、ススキ原のちょうど真ん中あたりに小さな水路が流れていた。

ほぼ真っ直ぐに東西に流れている。

整地したエリアに点在する岩や木の切り株を抜き取り、移動させる。大きな岩は軽自動車ほどもある。

白っぽい岩は石灰岩だろうか。石灰岩が手に入れば、コンクリートが作れる。


中央部を流れる水路を起点に、10m毎に1mの畦道を残して区画割りする。これで1a(アール)の田が10枚で10a=1反となる。

区画割りしたエリアの地層は、囲いの中の地層とほぼ同じようだ。約40cmの表土の下に砂礫層が20cmほどもあり、更に下に粘土層がある。

一旦粘土層が露出するまで土を掘り、ススキや灌木の根を除きながら表土と砂礫層を混ぜ、50cmほど埋め戻す。これを北東側の田から反時計回りに順次行い、午前中には新しい農地の姿がほぼ完成した。


子供達の家に戻り、皆で昼食にする。

小夜は子供の年長さんに鶏と蚕の世話を教え、雑穀の収穫をやってくれた。午後からは次の植え付けを行い、少し山で採集してくるらしい。

黒は桜・梅と一緒にチビ達の世話を焼きながら、通常の家事をこなしてくれていた。

子供達の服がぼろぼろの朝の貫頭衣なのが許せないらしく、俺の元の世界の子供服を調べていたようだ。


昼食は千切りにしたキャベツに水で溶いた全粒粉とトウモロコシの粉と溶き卵を加え、鹿肉の上で薄焼きにしたもの。要はお好み焼きだ。いやお好み焼きというと関西圏の人に怒られそうだから、チヂミと言っておこう。トウモロコシのおかげでほんのり甘く、ソースに使った味噌のコクと合わさって、美味い。


全粒粉と鉄鍋があるのだから、酵母さえあればパンやナンも作れるかもしれない。農作業が落ち着いたらチャレンジしてみよう。


午後からは水路を整備する。

新しい農地の周囲に幅1m×深さ60cmの掘りを張り巡らし、水利と排水を確保する。

中心部の水路を板でせき止め水位を上げて、田に導水する。新しい田の上流部から水が入り始めた。あとは順次下の田に水が回るのを待つだけだ。


田に沿って竹竿で稲架(はさ)を掛け、刈り取ったススキを乾かす。ススキも茅葺(かやぶ)きや飼料にするなど、利用価値はある。


板塀の内側の田の稲は、高さ60cmほどに育ち出穂期(しゅっすいき)を迎えた。明日には穂が出揃い、1週間後には刈り入れになるだろう。自然界の10日を1日に短縮して生育させるという、小夜の絶妙なコントロールのおかげだ。


新しい田への田植えまでも恐らく1週間ほど。

この1週間の間にできること…順番は前後するが、家畜を増やすか。


「山羊とやらを狩りに行くのか?俺が行ってきてやるぜ?黒と白も連れて行っていいんだろ?」

夕食も終わった席で皆に相談すると、紅から前向きな答えが返ってきた。

「狩るって殺すなよ?生け捕りにしなきゃ家畜にできないからな?できれば俺も行きたいが、万が一のことを考えるとお前達に任せたほうが良さそうだ。ついでに大陸側の動静も探りたかったのだが」

「まあタケルが見たいだろうことは俺達が見といてやるよ。さっそく明日にでも行くか?」

「タケル、事前偵察は終わっている。この辺りの山岳地帯に、山羊の群れが居着いている。何頭ぐらい必要?」

そう言って黒が示したのは、成層圏から見下ろした地球の姿。指したのは中東アフガニスタンあたりか。

「そうだな…家畜化する前提だが、オス同士は争うだろう。オス1頭、メス3頭といったところか。子育て中のメスがいれば、その子どもごと欲しい」

「わかった。明日までに当たりをつけておく」


そもそも海外で精霊の力を借りることができるのかなど、疑問はたくさんあるが……黒が大丈夫だというのなら大丈夫なんだろう。お任せしよう。


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