41.子供達の家を建てる
朝が来た。天候は晴れ。晴れているうちに子供達の家を建てなければならない。
子供達を起こし、桜と梅、椿にも手伝わせて朝食の支度をする。
ぐっすりと眠った子供達の顔色は、幾分か回復したようだ。
今朝の朝食は麦飯に味噌汁、目玉焼きと蒸かし芋。
乳幼児には重湯と裏ごししたサツマイモにした。
子供達は一心不乱に食べている。小夜と黒、白の元年少組が、甲斐甲斐しく世話を焼く。
柚子と八重はまだ寝かせている。まずは母親二人の体力回復が先だ。
朝食が済んだ子供達はまだ眠たそうだ。
再び寝かしつける。桜と梅には、赤子が起きたら乳を与え、眠くなったら寝ていいと言い聞かせる。
何も仕事を与えられないのが不安なようなので、子供達が目を覚ましたら面倒を見ているように指示した。
これで俺達は自分たちの仕事ができる。
別に秘密にすることでもないが、精霊の力をバンバン使っている姿を見せつける必要もない。
小夜は生き物の世話があるから、別行動になる。
自分の作業の合間に、子供達の様子を見るよう頼む。
「任せてタケル兄さん!」
子供達の家は母屋の西側、母屋の壁から5mの距離に建てることにした。
建材は板塀にも使った杉の木の複製。
基礎石を据え、3mの柱を立て、横木を渡し筋交いを入れる。
大梁を南北に掛け、屋根を板で葺く。屋根板は樹皮を残した杉にした。
筋交いを埋めるように藁を混ぜた粘土を盛り、熱風で乾燥させる。
出来上がった土壁に両側から杉の板を張り付ける。
柱と筋交いは先ほどの熱風乾燥で死んでしまったので、要所要所に竹釘を刺し、竹を再生して膨らまし固定する。
北側の壁の上部には換気用の窓を開けた。
小夜が建設現場に顔を出した。作業の進み方に目を丸くしている。
「タケル兄さん!子供達が起きてきたから、お昼ご飯にしよ!」
「おう!そろそろ腹減ったぞ~!内装は午後からにしようぜ!」
そろそろ皆疲れてきた頃だろう。ちょうどいい区切りになったので、納屋に移動し昼食にする。
昼食は鹿肉の炙り焼き。一昨日紅が獲ってきたきたものだ。
レバーとハツはニンニク醤油に漬け込み、玉ねぎと一緒に炒めてみた。
香ばしい匂いが食欲をそそるが、一口食べた小夜や黒には不評だった。
午後からは内装に取り掛かる。
引き戸式の玄関は北東の角に設け、玄関を開けると土間と炊事場、突き当り右に風呂場、左に厠とした。
風呂場と厠にも換気用の窓を開ける。
風呂場の手前には脱衣所を作る。母屋には脱衣所はないが、男女混合の生活を送るなら必要だろう。
「脱衣所?なんでそんなものが必要?」と黒が聞いてくる。
いや……お前たちが風呂に入るときは俺は自室に逃げているんだが……
厠は離れにしたらどうかとの青の意見もあった。
衛生面や臭気を考えると、確かに離れにするメリットも大きい。
一方で、安全性や利便性を考えるとやはり屋内だろう。
部屋の床面は土間から30㎝にした。子供達の身長では、母屋の床面の高さは高すぎる。
部屋の南面と東面に縁側を設置し、部屋と縁側は襖で仕切る。
襖を開ければ風通しも採光も問題ない。
部屋の西側の壁には長さ1.5m×幅1m×高さ0.7mで3段の棚を作り、子供達の寝床とする。
ちょうど9床確保できた。桜と梅、椿と赤子2人や乳幼児は、床に敷いた布団で寝てもらえばいいだろう。
黒が木綿の袋を作り、藁を詰め寝床に並べていく。
寝床にはそれぞれ襖を取り付け、個々のプライバシーの確保と落下防止を兼ねる。
部屋の周囲には高さ60㎝の柵をつけた。
這い這いを始めた乳幼児が土間や縁側から外に落ちないようにするためだ。
柵には出入口をつけ、閂で開閉できるようにする。
土間の炊事場と風呂場から排水溝を引き、母屋からの排水溝と合流させ北の崖に流す。
最後に母屋の裏から井戸の水道を引き、炊事場に置いた木の樽と風呂場の風呂釜に通水する。
五右衛門風呂の風呂釜は母屋の複写品だ。
蛇口をどうするかしばらく悩んだ末に、球状に加工した木の玉に穴をあけハンドルを取り付け、竹で包み込みボールバルブを作ることにした。元の世界で嫌というほど目にした構造だ。多少シール性は悪いが、漏れても水だから問題ない。
こうして、ほぼ一日がかりで子供達の家は完成した。
早速納屋に子供達と小夜を迎えにいく。
子供達は皆起きていた。
まだ不安そうに一か所に集まっているが、泣いている子はいない。桜と梅、椿がしっかり面倒を見ていたようだ。
まだ自分では歩けない幼児や赤子を分担して抱きかかえ、子供達の家へ移動する。
玄関を開け、皆を招き入れる。
「はい、ここが今日から皆が住む家だ。ここで桜と梅、椿を中心に皆で助け合って生きてもらう」
そう紹介すると、椿が真っ先に声を上げる。
「こんなおうち見たことない!すごい!」
杉、桃、楓、棗、松といった年中組は、さっそくあちこち見て回っている。
桜と梅はまだポカンとしている。なまじ大人だから、状況がよく呑み込めないのだろう。
「桜と梅は、黒に家の使い方の説明を聞いてくれ。黒、よろしく頼む。小夜は椿と年中組に説明を頼む。白は年少組が居間から出ないよう見張っていてくれ」
『は~い!!!』
ここは小夜たちに任せて、俺と青、紅で夕食の支度をする。
夕食は味噌仕立てのモツ鍋にする。
野菜はキャベツと大根とネギ、里芋。ニラが欲しいところだが、まだこちらの世界では見かけていない。
ニンニクは昼に不評だったから、薄くスライスして薬味にする。
麦粉と米粉を混ぜて団子を作り、モツ鍋に投入する。団子が浮かんでくれば完成だ。
太い孟宗竹を切った竹筒によそおい、皆に配る。
離乳食用に煮込んだ里芋を潰し、薄めたモツ鍋のスープで伸ばしたものを準備する。
皆に食事が行きわたったのを確認し、俺が音頭をとる。
「では、今日の大地の恵みに感謝し、いただきます」
『いただきます!』
子供達は一瞬きょとんとしたが、意味は分かったようだ。
『いただきます!』
遅れて唱和し、食べ始める。
日々の食事への感謝は欠かしてはいけないのだ。
食事の片付けと子供達の世話を終えた俺達は、子供達を寝かしつける。年中組と幼児達には緑の精霊を貼り付けたから、今夜もぐっすり眠るだろう。
乳の出が回復したらしい桜と梅から、夜中にも赤子に乳をあげたいと申し入れがあった。母親が言うのだからその通りなのだろう。桜と梅、柚子と八重には緑の精霊は使わない。
緊急時の伝令役として、椿も自然に眠ってもらう。
皆が静かになったのを確認して、俺達も母屋に引き上げる。
ちなみに今夜俺のベッドに潜り込んできたのは、青だった。
薄れゆく意識の中で、日頃から疑問に思っていたことを聞いてみる。
「なあ青…最近紅や青が来たあとの朝は、不思議な夢を見て目が醒めるんだが……何か知らないか?」
青は少し笑ったようだ。
「旦那様は何もお気になさらず、ゆっくりお休みください。私達2人にお任せを……」
頬に何か暖かく柔らかいものが押し当てられるのを感じながら、意識の谷底へと落ちていった。




