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40.子供達を迎え入れる②

少しづつ日が陰ってきた。

里までの約2㎞の道のりを、大八車を引きながら帰る。

行きは45分ほどだった。帰りはこのペースでは倍近くかかるだろう。

小夜が赤ん坊の抱き方を黒や白に教えている。

俺達のなかで一番子供と接した経験があるのは小夜かもしれない。

小夜は元居た集落のことを一切口にしないが、自分より年下の子供や赤ん坊の面倒は見ていたのだろう。


里に着いたらやるべきことはたくさんある。

子供たちの寝床をどこに確保するか、食事はどのように供給するか、そもそも子供たちの住居をどうするか、子供達の仕事は、その仕事をどのように管理するか……


とりあえず客間で雑魚寝させればいいか?

そう青に相談すると、真っ向から反対された。

「旦那様の家は快適すぎます。いきなり天と地の差を見せられると、人間は腐ります」

言い方はきついが、事実だろう。


集落の住居は土間に低い壁、迫ってくるような高さの板葺きの屋根。

下手をすると掘立小屋か竪穴式住居のような家で、藁に包まり寝る。

そんな生活から、畳敷きの床に高い天井、綿入りの布団で寝るような生活を経験すれば、もう元には戻れない。


もちろん里では健康的で文化的な生活を保障するつもりだが、徐々に慣れさせないとカルチャーショックが大きすぎるのも理解している。


「では納屋はどうだ?ちょうど車や農作業具を片付けて麦藁(むぎわら)の倉庫になっているし、天井が高いところと大きさを除けば、集落の住居と変わらないだろう?」

「まあ納屋ならいいでしょう。かわやの問題はありますが……」

そう青が賛同しながらも、次の問題を指摘する。


トイレか……母屋おもやのトイレを使うには、勝手口から入るしかないが。

青の声を聞きつけた小夜が言う。

「厠?厠なら納屋の横にあるよ?」

そう、納屋は母屋の増改築などを行う際には引っ越し先にできるよう作られているから、厠は併設されている。別に使う必要も感じなかったから、ほぼ忘れていた。

「白ちゃんと一緒に修理して、使えるようにしといたから大丈夫だよ!」

これでトイレの問題は解決しそうだ。


次は食事だが……

「んなもん、軒下にかまどを作って食材さえ与えておけば、自分達で何とかするだろ。桜に梅!手前らで食事の支度ぐらいできるよな?」

「はい……できます」

紅の問いかけに、桜と梅が答える。多少声が震えているのは、紅に怯えているのか。

「紅姉、言い方がきつい。もっと優しく」

黒が紅に物申す。


「桜と梅もオドオドしない。自分の意見はしっかり言う。ここにはあなた達を否定するような大人はいない」

そう黒が若い母親達を諭す。最近みんなのお母さん役が板についてきた。

反動からか、俺のベッドに潜り込んできたときの甘え方も半端なくなっているが。


しかしやっぱり家は必要だ。明日は建築の仕事から始めよう。

今回は元の世界の家を移築するわけにはいかない。

頭に浮かぶのは、時代劇に出てきた長屋のような造りだ。土間があり、土間には(かまど)があって、一段上がった板張りの床がある。仕切りは(ふすま)で、縁側も必要だ。

縁側は南向きがいいだろう。

とすれば子供達の家は母屋の西側に建てるしかないか。


そんな話をしているうちに、里の竹山が見えてきた。

なんとか日暮れ前にはたどり着きそうだ。


里に戻ると、小夜は真っ先に鶏小屋の戸締りをして、蚕小屋に籠る。

生き物相手の小夜の仕事は、忙しいからといって手を抜けないのだ。

そちらは小夜に任せ、残った5人で納屋に子供達を受け入れる準備をする。

桜と梅、椿の3人も手伝い、麦藁を整え、大八車の荷台から子供達を下ろす。

軒下に竈を据え、大釜ですいとんを、小鍋で重湯を作る。

またしてもすいとんだが、弱った胃腸には優しいはずだ。今回は卵とサツマイモを多めに入れる。

作業が一段落した小夜も合流し、皆で食事を摂る。

紅や白には物足りなさそうだが、後で何か食べさせればいい。


食べ終わった子は厠に行かせ、戻ってきた順に寝かしつける。

眠った子には緑の精霊を一体ずつ張り付ける。これで朝までぐっすり眠るだろう。

どうやら椿は精霊を感じるようだ。空中に漂う精霊を目で追っているときがある。


こうして全員を寝かしつけて、俺達も母屋に引き上げた。


母屋で少々遅い夜食にする。やはり紅や白には夕食が物足りなかったようだ。

サツマイモを蒸し、囲炉裏を皆で囲む。

話題に上がるのは明日からの生活と子供達についてだ。


農作物管理担当の青が言う。

「いくら子供とはいえ、人口が一気に3倍以上になったのですから、まずは食料生産の体制を見直さなければなりません。今までは極力精霊の力に頼らないようにしていましたが、備蓄に手を付けない前提とすれば、今育てている作物を一旦収穫できるまで育て、早急に次の植え付けに入るべきです」


「並行して囲いの外の開墾も進めるべき。あと一週間もあれば一反ぐらいは開墾できる。反収4石(=600Kg)を見込むなら、囲いの中と合わせて6石強。3回収穫できれば18石。子供を入れて20人なら全然余裕。今みたいに雑穀も取れるから、さらに余裕。でも梅雨に入ると開墾は難しい」

資産管理担当の黒が、手早く計算しながら言う。


「長雨でも、白の精霊の力を使えば雨粒は弾けるよ?このあたり一帯に傘をかければいいでしょ?そうすれば雨でも作業はできるし、夜だけ傘を外せば水やりの手間を省ける」

これは風使い白のアイデア。確かに濡れずに作業できれば、梅雨だからというデメリットはなくなる。


「鶏や蚕の餌を収穫するために緑の精霊は使っているけど、少しづつ使う力は減っている気がする。あまり精霊の力を借りなくても、一回の収穫量が増えている気がするんだよね……」

それって、つまり収穫量の多い品種に改良されているか、地力が上がっているということだ。

もちろん肥料は与えているだろうが、緑の精霊の力を繰り返し使うことで、乙金の集落でのヨモギのように品種改良が進んでいるということか。

収量アップの形質が遺伝するとすれば、促成栽培もメリットがある。


「手っ取り早く子供を成長させるには、やっぱ肉だな!俺は毎日狩りに行ってもいいぜ。何ならスギは連れて行ってもいい。猟師の息子だし、ちったあ素質もあるだろ」

狩猟担当の紅が言う。確かに蛋白質の確保も大事だ。


山羊やぎや豚を飼えれば、食料事情も安定するのだが、そもそも豚は改良種だ。

「山羊とは、図鑑に載っていた毛の白い生き物ですか?この地では見たことはありませんが……」

「山羊なら大陸にいる。捕まえに行く?」

そうか……山羊は中央アジアには広く分布していたはずだ。

遠見と黒の門を使えば、生息地に行って帰ってくることは可能だろう。

いきなり家畜化できるかはわからないが、ダメなら食べればいいのだ。

家畜担当は……紅か?いやいきなり狩りそうだが。


やらなければならないことは決まった。

優先順位をつける。

1.子供達の家を建てる

2.農地、特に田を拡げる

3.生産中の食物を収穫し、2期目の生産を開始する

4.家畜を殖やす


この順番で明日から作業に取り掛かろう。


ちなみに今夜俺のベッドに潜り込んできたのは、小夜と黒だった。

「頑張ったから誉めれ」が理由だった。まあ明日からは忙しくなるし、今夜はたくさん甘えさせてやろう。





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