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38.隣の集落について

住人達全員に食事が行き渡った事を確認して、俺達も食事にする。

同じすいとんを食べることに、恐らく意味がある。

食べながら、各家の代表者とその親達高齢者に話を聞く。


この集落は近くの神社を祀りながら、炭焼きと稲作、畑作を行い生活してきた。

年貢は炭で納め、農作物の足りない分は近隣の集落との物々交換で補う。

物々交換の対価は主に木炭と毛皮、鮭の遡上時には漁をし、干物も作る。

そうやって長年生活してきたらしい。

高齢者の若い頃は人口30人足らずで安定していたので、農地の開墾にも力を入れる必要がなかった。木炭の生産のほうが実入りが良かったのだ。


人口が増加し始めたのは10年ほど前。

ある家族で双子が生まれたことをきっかけに、残り4家族でも次々と子供が誕生した。

しかも一家の長だけでなく、その娘にも子が生まれるといった具合で、あっという間に人口が増えた。


輪をかけて、去年の夏の大水で4基あった炭焼き窯のうち1基が流され、1家族の長は窯と運命を共にする。

これで木炭の生産が3/4に減少、田畑も水害に遭い去年の米の収穫は10石程度。

年貢は木炭で納めていたから、減少した木炭の生産量では年貢を納めるとほぼ在庫が枯渇。

物々交換で食料を確保しようにも、近隣の集落も水害に遭っていたから、全く入手できず。

更には5家族のうち炭焼きを行わず狩猟を生業にしていた一家の長が、崖を滑落し死亡。

まだ若い長男では父親ほど獲物を獲れず、こちらも手詰まり。

こうしてたった半年で困窮する集落になってしまった。


年長組がまじめな話をしている横で、黒がもう一回すいとんと重湯を作り始めている。

次は鹿の干し肉を入れ、卵とじにするようだ。全く気の利くお母さんだ。


それにしても、行き当たりばったりというか何ともいい加減な運営をしていたものだ。

これでは青の言うとおり、遅かれ早かれ破綻していただろう。

今まで長い間生活が成り立ってきたのは、石高と人口のバランスが取れていただけのこと。

俺たちのクニ作りに教訓とするならば、食料自給率は100%を超えるよう運営すること、食料備蓄を増やすこと、そして年貢や物々交換の対価は可能なら食料以外の物で行うことだろうか。


それはさておき、目下この集落をどのように立て直すかだ。

ある一家の代表者である喜平が発言する。

「石高を増やせばいいのだろう。今から皆で開墾し、田畑を増やせばどうだ」

ああ…王道ではある。ただし、今から開墾していたのでは到底間に合わない。すでに春の植え付けは終わっており、秋の収穫まで農作物が取れない半年間があるのだ。

少ない大人たちで山野草を集め、狩りを行い、川で漁をしながら開墾を行う。到底不可能だ。

もちろん失った田畑の復旧と開墾は必要だ。

だがそれを今から行っていたのでは、集落の崩壊は防げない。

炭焼きのリーダー格である松太郎の意見。

「炭焼き窯を治せば、今年の年貢分は今からでも確保できる。まずは炭焼き窯を治すべきだ」

ああ。産業の復興は大事だ。今年の年貢を納められないと、冬にはひどいことになる。

逆に本来の木炭の生産量を確保できるなら、今年の冬の物々交換は捗るだろう。

だが、それも即効性はない。今飢えた住民を救う目的は果たせない。

最後の代表者である伝次郎が、俯きながら言う。

「働き手にならない子供たちを…口減らしするしかない。うちの一番小さい子は昨日死んだ。あと3人いなくなれば、うちはやっていける…お前たちの家も何人か子供を減らせば、前の生活に戻れるだろう?子供はまた作ればいい。でも俺たちが死ねば皆死ぬ!」

ほかの2人の代表者と高齢者、そして村長も一堂に黙り俯く。反対意見はない。

「ほらごらんなさい。結局そういう結論に行き着くのです。人口整理が必要と私が言ったとき、あなた方はどうしようとしましたか。あの殺気は私たちに向けられたものですか?それとも自分たちの家族に向けたものですか?」

青が冷静に、しかし滲み出る怒りを抑えきれずに言う。

小夜がぎゅっと俺の袖を掴んでいる。


「村長さん。今の意見は皆の総意ということでいいですか?子供たちを本当に…殺すつもりですか?」

村長はしばらく黙ったあと、天を仰いで応える。

「仕方ない…仕方ないんじゃ…この集落を絶えさせるわけにはいかん…」

「ならば、その子供たちは俺が引き取ります。乳幼児もいるので、乳母になる女性も合わせて引き取りましょう。対価は秋の収穫までの食料支援。支援できるのは麦と雑穀を合わせて10石。一括でも毎月2石づつでもいいです。狩りや漁の獲物が余れば一緒に届けましょう。いかがですか?」

そう村長に尋ねる。村長達の目に希望が灯る。

「それと、一旦引き取った子供は成人してもお返ししません。預かるのではなく、引き取るのです。俺の小作人として使うのでそのつもりで。子供たちが望めば里帰りは認めますが、あなた達が里に踏み入るのは許しません。それでいいですか?」

「はい…人買いに出そうが、奉公に出そうが、口減らししようが…結局は二度と会えない子供たちです。異存はございません」

村長がそう言い切る。各家の代表者たちも同意する。

「では決まりです。人選は任せますが、決まったら一人ずつ連れてきてください」

そう代表者たちに伝え、皆を解散させる。


小夜と式神たちを少し離れた場所に誘い、車座に座る。

「皆、勝手に決めてしまい、すまん」

そう謝ると、皆が口々に言う。

「旦那様、私が考えていた救済策と同じです。どのみち人手は必要でしたし、何の問題もありません」

「いやどんな奴が来るか楽しみだな!でもこの集落の連中に獲物をおすそ分けするのか?なんか嫌だな…」

「タケル兄さん、助けてくれてありがとう!小夜も農作業頑張るよ!」

「白も頑張って子供たちの面倒みる!でもタケル兄さんに甘える時間が減るのは嫌だ…」

「タケル…家事が大変になるかな…」

皆おおむね好意的な意見だ。

「みんなありがとう。どんな子供が選ばれてくるか、今から一人ずつ面接するが、基本的には里の囲いの近くか外に家を建て、自分たちで生活してもらうつもりだ。生活の上で黒には迷惑はかけない。むしろ農作業計画や里の拡張で迷惑をかけると思う。よろしく頼む」

そう頭を下げると、皆口を揃えて応えてくれた。

『任しとけ』全く頼もしい仲間たちだ。


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