31.家を作る
さて…里での初日の朝である。
今日まずやるべき事は、昨日のうちに皆と話し合っていた。
衣食住のうち衣と食はとりあえず何とかなる。
まずは住を解決しなければならない。
テントを張った場所は、東側に山を背負い、残りの3方向が3mほどの崖になった小高い台地の上。
山側から流れる小川は山林と台地の境目で台地を迂回するように大きく蛇行し、台地の横を流れていく。その結果、台地の水はけは良さそうだ。台地の下手側は崖下から河川敷まで続くススキ原となっており、ところどころに灌木がある。
台地の大きさは小学校のグラウンドぐらいか。東西60m×南北140mといったところだ。
ちなみに台地の中心部には東西に地下水脈が流れていると青が言っていた。深さは不明だが、10mも掘れば井戸が確保できるかもしれない。
昨日の鹿肉と粥で簡単に朝食を済ませると、俺達は早速台地に区画を割り、自分達の家を建てることにした。
とりあえず白の精霊の力を借りて、ちょうど中心部が水脈の上に来るように、東西と南北に道幅5mで草を刈る。
中心部は円形状に草を刈り、表土を露出させる。この場所に広場を作り、井戸を掘ろう。
この広場から10mほど離れたところに南北に道を作り、更に北側を住居とする。
表土を露出させ、土の精霊の力を借りて踏み固める。
紅と白が山から杉の木を切り出して来てくれた。幹はひと抱えほどもある立派な杉の木だ。あと何本必要か分からないが、小夜と青にも手伝いに行ってもらう。とりあえずあと5本オーダーしておく。
木を定尺の建材にするのは白に任せた。樹皮を剥ぎ、温風で乾燥させ、一辺120mm、長さ4000mmの柱を切り出すのだ。
本来自然乾燥なら半年から数年かかるはずだが、白は1本を15分ほどで仕上げた。
柱が切り出せなかった部分は、幅120mm×厚み20mmの板材に仕上げてもらう。長さは1000mm刻みにした。
黒に手伝ってもらって、家の基礎のイメージを地面に投影してもらい、基礎石を据えていく。
と、ここで黒がとんでもないことを言い出した。
「タケル、家ならそのままこの中に入っている。取り出せば簡単」
…おい…ちょっと待て、確かにじいさんが亡くなったあとは、あの家は俺が相続したから、あの家は俺の持ち物だ。だが家ごとこの世界に持ち込んでいたのか?
「ある。ただし目視で見えない、隠されている部分はない」
つまり、電気配線や上下水道設備など、俺が構造を把握していない部分はただのハリボテかもしれないということか。いや床下は以前一度潜ったことがある。基礎石がどう配置されているか知っていたのはそのせいだ。
「ガワしかないにしても、それは相当助かるぞ。基礎ごとこの場所に出せるか?玄関を南向きにしてくれ」
「大丈夫。少し離れて」
そう言うと黒が手を差し出す。
一瞬の間を開けて、そこに家が出現する。
木造瓦葺き、白い土壁の平屋建て。
玄関の引戸を開けると、右手方向と直進方向に廊下がある。右手側の廊下は縁側を兼ねており、襖の内側は客間兼仏間。広さは合わせて20畳ほどだ。
左手側には10畳程度の部屋が2間続き、その先は土間になっている。直進方向の突き当たりに土間から上がる部屋があり、ここには囲炉裏が切ってある。
土間には西側の勝手口からも入れるようになっており、家の北側の面は台所と便所、そして風呂だ。
台所の東側と客間の北側の空間を埋めるように、もう一部屋ある。
上空から見ると、ほぼ長方形の構造に箱を配置したような作りだ。
床は板張り、天井は客間と各部屋は板張りだが、囲炉裏のある部屋と台所は梁がむき出しになっている。
ちなみに、窓ガラスも雨戸もきちんと備わっていたが、やはり電気とガス、水道と下水は再現できていない。照明器具や蛇口だけが備わったハリボテだ。
ただし、便所は昔ながらのポットン式だったためか再現できている。
また、風呂は薪で焚く五右衛門風呂だったおかげで、水さえ張ればどうやら使えそうだ。地味にこれが一番嬉しい。
箪笥などの家財も再現されているが、中身は後回しでいいだろう。とりあえず家を仕上げ、明日にでも棚卸ししてみよう。というか風呂に入りたいのだ。
家の北西側に水回りが集中しているため、排水はまとめることができそうだ。洗い場の排水口にぴったりはまる太さの竹を白に切り出してきてもらい、節を抜き、排水管とする。陶器の排水管が引ければいいのだが、粘土や窯が確保出来てからでいいだろう。
床下の地面に深さ30cm程度の溝を掘り、杉の丸太をU字溝状に切り出した排水溝をはめ込む。
あとは台地の北側の崖まで排水溝を伸ばしていくだけだ。
「これと同じものを作ればよい?」
また黒が何かを提案しようとしている。
「…頼めるか?」
「任せて」
そう言うと、黒が手を差し出す。今度は何だ?
手の先からバラバラとU字溝状に加工された杉の木が出てきた。
「紅たちが切り出してきた木を使った。一応長さは4mに揃えてある。足りない部分は木を切ってくればまた作れる」
黒が無双している。
あとは土の精霊の力を借りて、排水溝を道の端に沿って埋めていく。下水が崖下に垂れ流しになるが、1世帯のしかも風呂だけだし大目に見てもらおう。
そんなこんなで夕方には排水溝工事は完了した。
ほぼ一週間ぶりに入った風呂は、尋常じゃなく快適だった。風呂の使い方について、小夜達と一悶着あったが、敢えてここでは触れない。もちろん俺は一人で入ったとだけ言っておく。




