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29.この世界の話②

さて、朝である。


結局昨夜はそのまま社務所の一室にて世話になった。

昨日の晩からは、六人全員が同じ部屋で寝るようになっていた。そのほうが小夜が喜ぶし、別にやましいところもない。


国作りについて寝ながら考えていた。国作りなどと大袈裟なことを言っているが、実態は単なる自給自足の生活かもしれない。多少余計に作った米を年貢として取られるだけの、半農半猟の生活。


つまりそれは元の世界での俺の生活と同じだ。


いや…そんな生活を嫌って、人助けのために博多の街を目指したはずだ。それならば孤児や病身の者たち、飢えに喘ぎ土地を追われた者たちなどに手を差し伸べるべきだろう。そういった者たちのために国を作る。コンセプトはこれでいい。


ではそのために何が必要だろうか。


1.人々に食べさせるための食料確保

これは農業と畜産、多少の漁業で行けるだろう。

幸い農業経験はあるし、コメやダイズ、トウモロコシ、サツマイモ、大根、ホウレンソウといったものなら納屋にストックがある。コンバインや耕運機もあるが数はない。まあ自分の食い扶持+αなら問題ない。


2.人々が生きていくための居住空間確保

まさかテントという訳にはいかない。住居の確保と、それに伴う各種土木工事が必要だ。もちろん農地の整備にも土木工事は欠かせない。

基本的な土木工事の知識はある。だが資材が確保できるだろうか。この世界の、この地域に合った方法を見つけ出さなければならない。


3.人々が豊かに生きていくためのサービス確保

住人が健康で文化的に生きていくには、医療と教育、娯楽の提供が必要だろう。医療については短期的には問題ない。緑の精霊の力が使える俺と小夜がいる。

長期的に見れば、医療技術の発展は必要だし、その技術を使える医者も育てなければならない。

娯楽は住民たちが自ら生み出すものだろう。ただ退廃的な娯楽では困るが。

とすれば問題は教育か。


教育…別に教員免許を持っているわけでもなく、俺の知識は工学関連に特化している。そもそもこちらの世界の教育について、俺は何も知らない。

教育の任に充てられる人材は必要だ。


4.新しい国の治安と防衛

短期的には問題ない。青達式神と、精霊達の力を借りれば、少なくとも悪党どもや近隣との小規模な争いで遅れをとることはない。

長期的にはどうだろう。例えば俺が死んだ後に残された人々をどうやって守るか、これは課題としておく必要がある。


寝ながら考えていたことを、朝食の席で皆に話す。

当然のような顔で本居も参加している。


ちなみに朝食はいわゆる一汁一菜。アジの開きに味噌汁、少々の漬物、麦混じりの粥、一杯の番茶だった。

朝食を運んできた巫女服のまだ若い女性が、何か言いたげな顔で紅を見ていたが、本居はさっさと下がらせた。


「そうですなあ…手に職のある職人や棟梁は引っ張れないでしょうなあ。別に苦労して新天地に行かずとも、彼らの生活は成り立つでしょうからな。

この地で教育者といえば僧侶ですが、それも檀家がいないとそもそも成立せんでしょう。とすれば今できることは小作人を集めること、その前に小作人が入植できる地を作ることですかな」


まあそうだろう。何はともあれ自給自足できる環境を作る事が先決だ。クニの程をなすのは、その後でいい。


「ともあれ、人脈作りは大事です。少弐様のお墨付きが出たら、心当たりの人物に紹介しましょう」

そういって本居は席を立った。さっそく少弐家に向かうらしい。

「少弐様は本日は博多におられるはず。斎藤様は書物でも読んで果報をお待ちくだされ」

そう言い残し、本居が出かけた。


少弐家の屋敷は、元の世界での那珂川(ナカガワ)にあるらしい。安徳台(アントクダイ)に屋敷があり、その南に岩門(イワト)城という居城がある。

もちろん、博多の街にも太宰府にも屋敷はあり、定期的に行ったり来たりしているようだ。


ついてこいとは言われなかったので、青黒コンビと一緒に書物殿に引きこもる。この世界についての学識を深めるには、2人は欠かせない。

紅は小夜と白を連れて、散歩に出かけた。面倒見のよい姉さんで助かる。


数時間も経っただろうか。

書物を読み進めて行くうちに、神話の時代から続くこの世界の建国記が理解できた。おおよそ元の世界の日本書紀や古事記の記述に近い。


また、大陸の諸国家も同じ栄枯盛衰を見せている。宋が金と南宋に分裂し、その金も蒙古によって滅亡した。蒙古の周囲への圧迫はすざまじく、高麗はすでに支配下にある。

これらの情報は、同じように蒙古の圧迫を受ける南宋の商人達から、不安の声として博多の街に伝わってきている。戦乱を逃れるために博多に家族ごと移住する者も増えてきているらしい。


お昼も回ったぐらいに、小夜達と本居が帰ってきた。

「いやあ紅さんは遠くからでも目立つから、便利ですなあ!」

「ああ!?目立つってなんだよ!?別に目立ってねえだろうが!?」

いやお前らそんなやりとりをしながら、往来を歩いてきたのか?そっちの方がよっぽど目立つぞ…

「本居はねえ…」となにか訳知り顔で白と小夜が寄ってくる。

「ありゃ紅姉さんに気があるねえ(笑)」

二人して『へっへっへ旦那聞いてくださいよ〜』とでも言いそうに手のひらを顔の前でひらひらさせている。

そうなのか?まあ紅が嫌がってないなら放っておくが。


本居が俺を見つけ駆け寄ってくる。

「斎藤様!首尾は上々ですぞ!仔細は任せるから好きにしろとの仰せです。年貢も落ち着いたら人頭税分を支払え。ただし最初の1回は少弐家に直接納めるようにとのことです。こちらがその証文」


まさかの『好きにしろ』を引き出してきたのか。

本居…こいつ何者だよ…



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