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27.櫛田神社にて

さて…山笠の起源を聞いているうちに、櫛田神社に到着した。神社の参道には左右にところどころ屋台のような店が出ている。売っているのは串焼きや五平餅のような食べ物だ。

小夜と白がおねだりモードに入る。

『タケル兄さん!お腹空いた!!』

同じタイミングで振り返って口を揃えるんじゃないよ…

袖口を弄り、一掴みの1文銭を小夜に渡す。

「好きなもの買っておいで。ただし皆のを忘れるなよ」

受け取った小夜と白がダッシュで去っていった。少し遅れて黒が追いかける。

白と黒は小夜の護衛を忘れちゃおるまいな…


参道を少し離れた場所で、皆で車座になって昼食にする。小夜が買ってきたのは人数分の肉の串焼き。どうやら鹿肉らしい。そういえばしばらく鹿肉は食っていなかった。血抜きが甘いようにも感じるが、なかなか美味い。

白のチョイスは五平餅のような焼き団子だった。蒸した雑穀の粉を米粉で繋ぎ、団子状にして串に刺し、味噌を塗って焼いている。これも美味い。


「美味しそうですなあ」

突然背後の草むらから声を掛けられた。若い落ち着いた男性の声だ。

振り返ると薄い緑の狩衣姿の男が立っていた。切れ長の涼しげな瞳、きっちり纏め上げた黒髪は、立烏帽子に収められている。右手の(シャク)で自分の右肩辺りをポンポンと叩きながら、人懐っこい笑顔を浮かべている。

「いやあ春の陽気に連れられて、朝から界隈を散歩しておったら、何やら精霊どもがざわめいておりましてな。精霊どもが集まる中心に向かったところ、貴殿らがおられたので声を掛けた次第で」

そう男は車座に加わりながらそう告げる。

図々しくも青と紅の間に割り込んだ。たいそう図太い性格だ。まあ特に害はなさそうだし、ここは流そう。

「申し遅れました。私はこの櫛田神社で宮司をしております、本居忠親(モトオリタダチカ)と申します」男はこちらに一礼して名乗る。

「俺は斎藤健(サイトウタケル)。田舎から出てきたばかりですので、ご無礼あればご容赦願いたい」


本居と名乗った男は、相変わらずの笑顔で俺の周囲を見やる。

「して、この女性の方々は斎藤様のお連れ方かな?」

「ああ、右回りに青、紅、黒、白、そして俺の妹の小夜だ」

「ほほう、そちらの方は妹君でしたか。とするとその他の方々は斎藤様の…式神ですかな?」

こいつ…一目で見破ったか。


「はっ!いい目してんなあ!」そう紅が串焼き肉をむしゃむしゃと頬張りながら言う。

「まあうちらも隠してはなかったけどな!」

そう言う紅に黒が応える。

「そもそも紅姉は目立ち過ぎ。格好はともかく、そのガサツな話し方は改めたほうが良い」

「そうかなあ?紅姉さん格好いいよ?」これは小夜の感想だ。白は微妙な表情を浮かべている。


「本居様、本居様は先ほどご自分が宮司であると仰いました。神職は本来、我らが式神であることなど気づけないもの。陰陽師でもない貴方様が、何故我らにお気づきになられましたか?」青が問いかける。

「いや…本居家はもともと地方の武家にすぎませぬ。御先祖が仕えておりました主人がこの地に登った時に、皆の拠り所になるよう寺社を建立いたしました。当家はその時に神職を拝命致した次第。故に古くからの神職と異なり、我が身には武家たる血が色濃く流れております故、皆さまにも気づいたのです」

ほう…神主や宮司と陰陽師は違うのか…言い方が違うだけで、同じようなものだと思っていた。


「斎藤様のお考えは世の常です。人々は自分達で解決できない問題が起きると、神仏に祈ります。疫病や飢え、怪異や物の怪、失せ物や戦勝祈願などです。

陰陽師や祈祷師は託宣(タクセン)や占い、星読みや医術などの技術でもって人々を救います。

ですが我ら神職や僧は本来神仏に使え、神威(シンイ)や仏の慈悲を人々に説き、神仏に触れる機会を与えるもの。人々を直接救うのではなく、あくまでも神仏にすがる機会を与えるものです。しかし、きっかけは神仏に祈っている以上、世の人々にとってその違いは些細なことに過ぎますまい」

とすると、神職や僧侶には物の怪や怪異を払うなどの力はないということか?

「例えば物の怪が現れたとしましょう。

陰陽師は物の怪を直接自らの力や技術で倒します。

我ら神職は神威を借り、場を清めることで、物の怪が立ち行かなくします。故に先ほど青様が仰られたように、我ら神職は必ずしも式神を操ったり怪異や精霊を見る必要はございませぬ。もちろん一部にはその両方を併せ持つものもいるようですが…例えば斎藤様のような御仁ですな」

本居は手にした笏で俺を指す。

「やっぱりなあ。この本居って野郎は只者じゃねえな。タケルの持ってる神威(カムイ)にも気付きやがった。タケル、あんたは自分で気づいていたか?」

紅が俺に振ってくる。カムイ…?何のことだ?

神威(カムイ)と言い神威(シンイ)という。言い方は違えど同じ意味です。旦那様は以前不思議な光に導かれ、そのお力を得られたとか。その不思議な光こそが神々であり、それによって神威(カムイ)を得られたのでしょう」そう青が解説してくれる。

「なるほど…そんなことがございましたか。それならば納得できますなあ…」と本居が自己完結している。

「よし!斎藤様!我はあなた様が気に入りました。我が櫛田神社にご逗留なされよ!いろいろと語り明かしましょうぞ!」


こうして俺達は博多に知己を得た。



いよいよ博多の街に入りました。独特の言い回しや地名には極力振り仮名を打ちますが、打ち忘れにはご容赦ください。

なお、地名や人名、事の由来などはあくまでフィクションです。

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