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22.博多に向かう

宰府の街の中心地は必ずしも政庁ではない。

政庁は中心部の東側、元の世界では四王寺山(シオウジヤマ)とも呼ばれる山の山裾にあり、政庁の前を太宰府街道が走っている。街道の出発点は宰府の街より北にある博多の街。

四王寺山を北寄りに越えるルートが天満宮の前で合流し、そのまま米の山へと続く峠道に入っていく。俺達が悪党どもを捕らえた峠道だ。

俺達は太宰府街道を北に向かう。

街道の西には牛頸山(ウシクビヤマ)という脊振(セフリ)山地に連なる低山が隣接し、四王寺山と牛頸山の間に挟まれたようなボトルネック部分がある。

この場所には元の世界で水城(ミズキ)と呼ばれる土塁があったはずだが、何故か今は影も形もない。


確か水城が築かれたのは、大和朝廷の時代だったはず。きっかけは朝鮮半島で百済(クダラ)が滅んだこと。当時の大和朝廷は百済を支援するために朝鮮半島へ出兵したが敗退。そのまま百済を滅ぼした(トウ)新羅(シラギ)が侵略してくるのを恐れた大和朝廷は、太宰府防衛のため、この地に『水城』を、そして四王寺山に『大野城(オオノジョウ)』を築かせた…だったか。その結果、四王寺山は大城山とも呼ばれていた。築城には百済からの亡命者が相当活躍したらしい。


この地に水城が築かれていないということは、そもそも朝鮮半島での戦乱がなかったということだろうか。


そんなことを考えながら、街道をのんびり進む。


街道の左右には田畑が広がり、農耕主体の生活であることが伺える。

田畑のうち山側のおよそ半分程度には麦が実っていて、ところどころで刈り入れを行なっている姿が見える。中途半端な二毛作。たぶん秋に排水した水田のうち、水はけのよい場所にのみ小麦を撒いているのだろう。排水技術が確立すれば、食料事情は改善するかもしれない。


田畑の中に10〜20軒程度づつの集落があり、集落の周囲はその境界を示すように笹がぐるりと取り囲んでいる。

「なあ…なんで集落が笹で取り囲まれてるんだ?」

そう青に尋ねる。

「集落を笹で取り囲むことで、その中は擬似的に山中と見なされます。山には神々が宿るもの。故に山中と見なされた集落にも神々が宿ると考えられます。神罰を恐れる者たちは手出しができなくなるでしょう」

立派な土壁や城壁を築くより、信仰心に頼って集落を守るか。

「手出しされることを恐れるということは、集落間の争いや悪党どもの襲撃があると言うことか?」

俺は重ねて問う。

「ああ…これからの季節は水を巡る争いも起きるし、秋になれば米泥棒も出る。食いっぱぐれた悪党どもは定期的に襲ってくるし、物の怪も出る。こういう集落にとっては死活問題だろうなあ」

そう答える紅に、青が同調するように続ける。

「秋も過ぎると年貢の取り立てもあります。ほとんどの農民は小作農です。だいたい収穫の半分から六割程度は、荘園主か名主に年貢として持っていかれます。その取り立ては大層厳しく、不作の年には米だけでは所定の年貢米に見合わず、身売りしたり夜逃げするしかない集落もあります。身売りした者たちは奴婢(ヌヒ)となり、まさに牛馬の如く働かされます。夜逃げした者たちは悪党になるか、まだ開墾されていない土地まで落ち延びるしかありません」


牧歌的にも見える田園風景だが、実際は俺には想像もつかないような厳しい現実があるのだろう。小夜の両親を犠牲にし、小夜自身も死の淵に追いやった集落が異常なわけではなかったのだ。


そんな小夜は、白と黒と一緒に並んで歩いている。何が楽しいのかしきりに笑っている。

俺と2人で歩いていた時は、こんなには笑顔ではなかった気がする。やはり同性の、しかも同世代の気を置けない友人は必要だったのだろう。


そんな道中を2時間も歩いただろうか。

博多の街にはおよそ半日で着くとのことだったので、だいたい道中の半分は過ぎたところだ。

少し小高い丘の上に、板塀で囲まれた集落が見えてきた。この辺りの集落は平地で笹で囲われた集落ばかりだった。しかも煙を上げている家があるようだ。

もっと近づくと、次第に状況が飲み込めてきた。

悪党どもに集落が襲われている。

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