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19.宰府での夜(式神達との会話③)

さて…そろそろ小夜が眠そうになっている。昨夜から夕刻までは悪党どもとの一件で気が休まることもなかっただろうし、気丈によく耐えていたと思う。

式神達に聞きたいことは山ほどあるが、いずれ明らかになっていくだろう。

今まで自重してきた元の世界の道具や知識も、こいつらと一緒にいる時ぐらいは惜しみなく使っていこう。


「そろそろ寝る準備するぞ〜」

そういって麻袋からシュラフを取り出す。2つしか持っていなかったはずだが、6つ出てきた。ただし、内4つの手触りが違う。2つはポリエステルの生地だったが、残り4つの手触りは…木綿か。色も黒色ではなく紺色に近い。

「生地の素材がわからなかった…タケル!ぽりえすてるとは何だ!」

ああ…解析結果も石油化学製品には太刀打ちできなかったか。

「まあ細かいことは気にするな。そのうちじっくり化学の講義をしてやる」

「本当か!いつだ!」

いや黒は本当に探究心旺盛だ。白が若干引いている。

木綿の掛け布団のようなシュラフは、年長組で使うことにして、元の世界のシュラフをちびっ子3人組みに渡す。封筒型のシュラフは2つをファスナーで繋ぎ合わせれば子供3人は寝られるだろう。ファスナーの使い方は…白も黒もわかっているらしい。白がしきりに開けては閉じて遊んでいる。

「白〜あんまり勢いよくやると生地挟んで動かんくなるとよ〜」

「は〜い(笑)」

聞き分けが良いのは良いことだ。


さすがに男女混合で寝るのも気がひけたので、奥の間に女性陣5人を追いやる。

しばらくバタバタしていたが、どうやら寝静まったようだ。


思えば激動の数日間だった。

元の世界で恐らく命を落とし、不思議な光に導かれて今の世界にきた。

この世界には文化の違いはあれど複数の人間が生活し、社会的な暮らしを営んでいる。

行政も機能し、治安も悪くない。

そういえば、スラム街のようなものが博多の街にはあるそうだが、ある程度人口があれば仕方のないことだろう。


俺は精霊の力を借りられるが、こういう人間は多くはないようだ。元の世界で習い覚えた武道は、今の世界でも通用した。少なくとも悪党を討つ程度の力はあった。もちろんちゃんとした修練を積んだ武道家のような人間に通用するかはわからないが、究極的には狙撃すれば済む話だ。


…これは相当チートなんじゃないだろうか。


こういうチート能力を一切封印して、ひっそりと生きていくことも難しくはないはずだ。生まれ落ちた山に籠って、自給自足で一生を送る。小夜と、そして4人の式神達。俺の寿命がどれくらいかわからないが、きっと老後の心配もないだろう。決して悪くはない。


しかし、それでいいのだろうか。不思議な光は一体何のためにこの世界に俺を転生させたのだろう。俺には何かやるべきことがあるのだろうか。


例えばこの力を使って、一国一城の主人になるような…ないな。俺にはそんな気概も器もないのは、そう長くもない会社勤めで身に染みている。


街で暮らすか?陰陽師の弟子になったことだし、精霊の力を多少借りれば、いくらでも需要はあるだろう。

病気や怪我の人を癒し、農業指導をし、悪党を追い払い、孤児や浮浪者に職を与え、そんな人助けをしつつ、老後は惜しまれながら生涯を閉じる。

そういえば大学の頃に青年海外協力隊に応募しようかと真剣に悩んだことがあった。悩むぐらいなら覚悟が足りないと悟って断念したが、これはそのチャンスがもう一度巡ってきたのではないだろうか。

たぶん人生をやり直すのなら、そして自分にその能力があるというのなら、そうすべきではないだろうか。


そんなことを考えているうちに、俺も深い眠りに落ちていった。



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