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17.宰府での夜(式神達との会話)

ちょうどそこへ小夜達一行が戻ってきた。

「三善の旦那!お久しぶりですなあ」

そう言ってじいさんに声をかけたのは彦兵衛だ。

小夜が駆け寄ってきて、俺の首に飛びついた。

「タケル兄様!弥太郎さんに串焼き買ってもらいました!美味しいんですよ〜!」

さっそく何か買い食いしてきたようだ。買い食い?通貨経済が成立しているのか?小夜の話では専ら物々交換だったはずだが。まだまだ疑問が増えていく。

「そっかあ。よかったなあ!」

ずり落ちる小夜の腰に手を回し、支える。

「それはそうと、小夜に紹介したい人達がいる。一緒に旅をしてくれる仲間だ」

そう言いながら、小夜を地面に降ろす。

青龍達が俺達の周りに集まる。

「俺の妹の小夜だ。こちらは青龍、紅龍、白龍、黒龍、小夜?みんなお前のお姉さんや友達と思って仲良くして欲しい」

小夜は一人ひとりを順番に見て、深々とお辞儀をする。

「タケル兄様の妹の小夜です!兄がいつもお世話になってます!」

いやほんの半刻も前に作った式神だがな…しかし俺の分身のようなものだし、別にいいのか。

「青龍です。旦那様にお仕えするのと同様、小夜様にもお仕えします」

「紅龍だ!紅姉さんって呼んでくれ!よろしくな小夜!」

こちらはえらくフランクだ。まあ皆んなのお姉さん役を期待しよう。

「小夜ちゃん小夜ちゃん!白龍と黒龍だよ!よろしくね!」

「…よろしく…串焼き美味しかった?…」

白龍と黒龍は思った通りの挨拶だった。黒龍も別に人見知りというわけではないらしい。意外と食いしん坊か?直ぐに3人で集まって談笑し始める。


「自己紹介は上手くいったようじゃの?ところで、お前さん方は今宵の宿はどうする気じゃ?」

ああ…全く考えてなかった。小夜と二人なら河原で野宿でもよかったのだが。

「それなんですが、うちに泊まって貰おうと思ってたんですが、さすがに6人ではちょっと…」

と言っているのは弥太郎。まあそれはそうだろう。

「なんじゃ、それならうちの離れを使えばいい。部屋も2つあるし、囲炉裏も中にある。少々古いが、快適じゃぞ?」

そう言ってじいさんが庭の片隅を指差す。隣の家かと思っていたが、どうやらじいさんの家の一部らしい。

「タケル様、今夜は三善様に甘えられたら如何ですかな?食事は当家で準備しご持参いたします」

そう彦兵衛も言ってくれるので、ご好意に甘えることとする。

「タケルよ…部屋が別だからと言って、一人ずつ呼び出すたりするなよ?」

だから余計なことを言うんじゃないよじいさん。小夜がきょとんとした顔で見ているじゃないか!


それはさておき、今夜はじいさんの離れを借りることにした。引き戸の玄関を開けるとかまどを備えた土間があり、その右手に板張りの部屋があった。手前の部屋には囲炉裏が切ってあり、奥の部屋とは縁側で繋がっている。

俺たちは土間にあった炭で囲炉裏に火を入れ、囲炉裏の周りに腰を降ろす。さっそく室内を探検していた小夜と白、黒が奥の部屋からイグサで編んだ座布団を持ってきてくれた。

そうこうしているうちに、権太が湯気の上がった鉄鍋を持ってきてくれた。鍋は朝一で取りに来るので、玄関先に出しておいてくれという。

相手をしていた紅が、鍋を囲炉裏に掛けてくれた。


ちょっと話し合った結果、流石に青龍・紅龍などとはお互い呼びづらいので省略することにした。

(アオ)⇄旦那様

(ベニ)⇄タケル

(シロ)⇄兄様

(クロ)⇄タケル

小夜(サヤ)⇄兄様

こんな具合で落ち着いたようだ。紅と黒が俺を呼び捨てにすることに青が若干苦言を呈していたが、紅と黒の口調からは妥当だろう。年少組3人は、年長組2人を青姉、赤姉と呼ぶらしい。それなら蒼袮・朱音などに名前を変えるかと提案したが、流石にそれは改変し過ぎと青に怒られた。


青達が式神であることは、離れに入った時点で小夜に話した。流石に弥太郎達がいる前ではまずいと感じたからだ。小夜は薄々気づいていたようで、あっさりと受け入れた。


鍋の中身は鯉こくだった。ぶつ切りにした鯉の味噌汁だ。ゴボウと団子が一緒に煮込まれ、セリが散らしてある。青が皆の分を木の椀につぎ、箸を添えて回してくれる。

「いただきます」

『いただきます』

皆声を揃えて言ってくれた。こんな人数での食事は何年振りだろう。山を下る時は、悪党どもを連れていたのでのんびり食事をする気分でもなく、弥太郎達が持っていた干し飯と干し肉を齧りながらで済ませたらのだ。

「そういえば素朴な疑問なんだが」

そう前置きして、青に尋ねる。

「式神も食事をするのか?」

「はい旦那様、私たちも人間と同じ身体構造です。消化器もあれば呼吸器も生殖器もあります。人間と全く同じように扱っていただいて構いません。ただし、式神は周囲の精霊からエネルギーを吸収できるので、食べなくてもかまいません」

そうか…ん??消化器?呼吸器?生殖器…この時代にそんな言い方するか?エネルギーは明らかにおかしいだろう。しかも小夜も特に疑問を感じていない。


「なあ…少し前から気になっていたんだが…みんなの話している音と、唇の動きが合っていないように感じるんだが、どういうことだろう?誰か説明できるか?」

「それは白と黒の能力だよっ!!」

そう白が元気に返事してくれる。黒は団子をハフハフしながら頷く。

「えっとねえ…兄様が何か喋るでしょ?そしたら黒が兄様の言葉の意味を私に伝えて、私がみんなの理解できる言葉に変換して風に乗せるの!

みんなが話す言葉は、兄様の耳に届いた時点で、黒が兄様の知識も借りて変換してるよ!」

「タケルは私たちが知らない言葉をたくさん知っていて面白い…」

超高度な同時通訳か。それも相互に違和感を感じさせないほどの。どおりで何の問題もなく意思疎通できるわけだ。試しに同時通訳を切って話をしてみると…酷かった。いや雰囲気は何となくわかるのだが、まったく会話が成立しない。東北や沖縄のおばあちゃんが全力で喋っているような感じだ。いや同時通訳万歳!




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