15.老陰陽師の弟子になる
いやちょっと待て、いきなり弟子になど困る。教えて欲しいことはたくさんあるが、今さらこの歳で滝行などする気はない。
慌てる俺を見透かしたかのように、じいさんは笑いながら続けた。
「弟子と言っても形だけじゃ。悪党どもを召し捕った事といい、その雰囲気といい、儂の弟子というコトにしておけば、まあ丸く収まるじゃろう?陰陽師の弟子なら、術が使えるのも当然じゃし、儂の護衛に鍛えさせたと言えば、お前さんの武術も説明が着く。役人には儂が鍛えるだけ鍛えたから、諸国を回って修行させておったと言っとくわい。ほれ…全員顔を出さんか」
じいさんがそう言うと、急に俺の背後に人の気配がした。振り向くとそこに3人の人影があった。
「右端の背の高い太刀持ちが持国天、その隣の鉾持ちが増長天、左端の棍棒持ちが多聞天じゃ。全員儂の式神…まあ護衛役じゃ。ちなみに広目天は儂の身の回りの世話も任せておる。まあ全員合わせて四天王と呼ぶ者もおるな」
式神…全員が俺ぐらいの身長の美男子だ。革作りの甲冑姿。持国天は長い黒髪を風になびかせ、切れ長の瞳の偉丈夫。増長天は茶色っぽいミディアムヘアに白い鉢巻。多聞天は収まりの悪い髪を黒い布で巻き、筋肉質の肩には棍棒を担いでいる。
3人は俺の周りに集まると、口々に話しかけてきた。
「こいつが広目天が言ってたガキか?」
「妙な気配のやつが近づいてくるとは聞いていたが…」
「けっこう鍛えてやがんなあ、ちょっと手合わせするか?」
そんな感じで捲し立ててくる。割とざっくばらんな、言ってみれば頼り甲斐のある兄ちゃんという雰囲気だ。広目天はさしずめ美人のお姉さんか。
「これこれ、手合わせは今度にせんか。タケルが困っておるわ」
じいさんが助け船を出す。
「タケルは式神を見るのは初めてか?」
もちろん始めてだ。
「ふむ…光の精霊は見えているだろうに」
光の精霊さんにそんな使い方があったのか?
何度かチャレンジしたが、結局光の精霊だけは使い方がわからなかった。
「よろしい。そういうことなら式神の作り方を教えてやろう。お前たち少し下がれ」
そういうと、じいさんは四天王達を下がらせ、俺の背後に立つ。
「なに…理を理解しておるお前さんなら簡単じゃ。光の精霊を集めながら、使役したい式神の姿を思い描くのじゃ。両足を肩幅に開け。腹の底から息をしろ。ゆっくり鼻から吸って…口から吐け…ゆっくりじゃ…集中するのじゃ…」
じいさんはゆったりとした口調で俺を促す。
合気道の呼吸法の要領だろうか。俺はゆっくり集中力を高めていく。
じいさんの声が心に染み渡っていく。
「姿形はなんでもよい。人の姿じゃろうが聖獣の姿じゃろうが、どっちでも強く思い描けるほうにするのじゃ。お前さんは人型の方が楽かもしれんのう…」
確かに人型のほうがイメージしやすい。聖獣と言われても、麒麟や龍ぐらいしかイメージできない。龍…そういえば四天王のほかに、四獣と言われる聖獣がいなかっただろうか。いやそれではイメージが掴めない。やはり人型のほうがよさそうだ。
「式神の能力も一緒に思え。なにが得意か、知恵か、武術か、獲物は何がいい、どんな背格好じゃ、髪の色、肌の色、思い描いた能力に合わせて、他の色の精霊の力も借りるのじゃ…」
じいさんの声に合わせて、俺はイメージを膨らませる。人型…小夜の遊び相手にも護衛役にもなれる女性がいいだろう。いやしかし小夜と同じぐらいの背格好では、小夜が二人いるだけになってしまう。いっそのことじいさんのように複数人にするか…区別がつきやすいよう、背格好から違うほうがいいだろう。獲物はなんでもいいが、武術は修めておいてほしい。きっと精霊の力も使いこなすだろうから、護衛としては十分だ。
強く、優しく、華やかで…今の俺では小夜に与えてあげられないもの。水、火、風、そして黒、それぞれの精霊に力を借りよう。
集まっていた光の精霊が、徐々に形を作っていく。
「そこじゃ、お前の思い描いた名を呼べ」
俺は光に向かって名を叫ぶ。
「青龍、紅龍、白龍、黒龍!」
光の精霊が一際強く輝き、4箇所に集中する。
光が薄まると、そこには4人の人影があった。




