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141.里が襲撃を受ける

見事に敵大将を討ち取った太郎に、宗像氏盛むなかたうじもりが駆けよってきた。


「太郎!ようやった!大手柄じゃ!!」

氏盛は敵の首に顧みることなく、血に染まったままの太郎の手を取る。


「氏盛様!皆のおかげで、無事に大将首を討ち取りましてございます!」


「そうかそうか!斎藤殿もよくやってくれた!」


「なに、氏盛殿の突撃を見せられてはな」


「まあ若いのにはまだまだ負けはせんよ!」


氏盛が胴丸に囲われた腹を叩きながら胸を張る。


「その方ら!此度の働き大義であった!」

少弐景資(しょうにかげよし)の登場だ。


「ちっ!何にもしやがらなかったじゃねえか」

槍を担いだままの紅がつまらなそうに呟く。

紅の言い分も最もだが、そもそも大将が先陣にいるなど異常なのだ。


「して、これからのことであるが……」

騎乗したままの景資が言葉を続けようとした時、俺達の耳に装着した勾玉が着信音を出した。


「旦那様!里が襲撃されています!」

この声は……青か。襲撃と言ったのか?


「青か!里が襲撃されているだと!?誰に?旗指物は見えるか?」

式神達と小夜、桜と宗像勢の顔に緊張が走る。


「こちら梅!敵の家紋は丸に三つ傘!丸に三つ傘です!」

丸に三つ傘?そんな家門は筑前でも筑豊でも見た事がない。

ここは長老格のこの人に聞くのが一番だ。


「氏盛殿!丸に三つ傘の家紋に心当たりは?」


「なんじゃと?それは名越(なごえ)の家紋じゃ!しかし何故、名越が攻め寄せてくるのだ……」

首を傾げる氏盛を尻目に、紅と黒が動いていた。

馬の背に飛び乗った黒が景資の背後から首筋へ、紅が正面から胸元へ、それぞれ小太刀と槍を突き付ける。


「おい、おっさん。まさか貴様らの差し金か?」


「正直に言えばこのまま殺す。嘘をつけば闇に取り込んで殺す。どっち?」


周囲の少弐勢がどよめくが、おいそれと手出しはできない。何せ敵の本陣に突っ込んだ二人を、少弐勢は目の前で見ていたのだ。

しかし今は時間が惜しい。


「氏盛殿。俺達は急ぎ里に戻る。事後を任せてもいいか?」


「おお。もちろんじゃ。早う行ってやれ!」


「すまない。白!黒!小夜!門で移動するから準備を。紅と桜は初陣組を無事に宗像まで送り届けてやってくれ。凱旋するまでが俺達の仕事だ。油断するな!」


「了解!だけどよタケル。こいつら野放しでいいのか?」

紅が景資の胸元に槍を突き付けたままで言う。


「かまわん。宇都宮勢を追って豊前国ぶぜんのくにに向かおうが、そのまま博多に帰ろうが、俺の知ったことではない。ただしだ、景資殿。よく覚えておいてくれ。俺は俺の身内に手を出すやからに容赦はしない。必ず首謀者の息の根を止める。例えそれが何千、何万の軍を引き連れていてもだ」


顔を真っ青にして馬上で固まっている景資を置いて、黒が開いた門に白と小夜が飛び込む。


「斎藤殿!それがしもお連れくだされ!娘が……娘が!!」

大内義孝おおうちよしたか、加乃の父親である。


「大内殿。娘さんは必ず守る。里に残してきた手勢は歳こそ若いが、そこの桜や紅の弟子だ。例え里が取り囲まれていたとしても、むざむざと破られはせん」


「しかし!!」


「まずは自分の身を守ってくれ。太郎達と一緒に宗像に戻り、そこから紅や桜と一緒に里に来るといい。その時は白を迎えに出す。孝利たかとし利次としつぐが味わった行軍を経験できるぞ」


「しかし…………承知いたしました……娘をお願いします」


「すまん。黒!行くぞ!」


「了解!」




里の中心の広場に飛び出した俺達を、青と千鶴、加乃の3人が出迎えてくれた。


3人ともいつの間に仕立てたのか、俺達と同じ灰色の乗馬服を着ている。

もうこの服が戦闘服だと思っているのだろうな。


「青!戦況は?」


「はい。敵勢はおよそ五百。敵の侵入を察知した時点で、板塀から50mの距離に土塁を展開。入植者達も里に避難しています。現在、椿の白の結界に加えて、定六さだろく定七さだしち兄弟が土塁を維持して侵入を食い止めていますが、敵方にも土系統の陰陽師がいるようで、土塁が一か所崩され、梅と佐助、清彦が迎撃しています。犬走からは平太と杉を中心に与一、乙吉おときち嘉六かろく嘉七かしちの6名で矢を放っていますが、戦果は上がっていません。敵の数が多すぎます」


「今のところ怪我人はいません!梅姉さんがかすり傷を負っていますが、本人は大丈夫だと言っています!」


「わかった。白!椿達に代わって結界の強化と維持を。落ち着いたら戦域管制を頼む。敵勢の厚い場所と薄い場所を見極めてくれ。黒と小夜は榴弾の準備だ。実戦投入できるか?」


「もちろん。こんなこともあろうかと、“ぐりっどまっぷ”も作成済み。早速準備する」


グリッドマップと来たか……いつの間にそんなものを準備していたのだろう。捕鯨砲を作った時点で、迫撃砲の完成は近いと思ってはいたが。


「俺は物見櫓ものみやぐらに上がる。千鶴と加乃はチビ達の面倒を見てやってくれ。千鶴の兄貴達も加乃のお父上も無事だ」


「わかりました!ご武運を!」

千鶴と加乃が女の子の家に向かって駆け出した。


「青、紅と桜の穴を埋められるか?」

青と一緒に物見櫓に走りながら問い掛ける。

戦さと言えば紅が先陣を切り、白と黒が続く。最近は桜や梅の武芸も目を見張る物がある。

その一方で、青が修練以外で実際に武器を持って戦う姿を見たことは、乙金の集落以来なかった。

その青が、両腰に履いた大小の太刀の柄を叩いて言う。


「お任せください。私も今回は少々怒っておりますので」


「わかった。状況によっては最前線に出てもらうかもしれない」


「承知いたしました」


青の短い、だが確固たる答えを聞きながら、物見櫓の最上段に上る。


物見櫓から見る里の田畑の風景は一変していた。


板塀のある台地の裾から10mほどの距離に、横一直線に高さ3m強の土塁が築かれている。

土塁の中央付近が内側に向かって突き崩されており、崩れた場所から侵入してくる敵を梅と佐助、清彦が斬り伏せている。

土塁の外側は……敵が埋め尽くしている。五百?いや一千に近いかもしれない。一体敵は何を考えている。


「タケルさん!榴弾準備できました!」

小夜の声が耳元に飛び込んできた。

振り返ると、腰までの高さの金属筒と三脚を組み合わせたような物体を、広場の中心部に据え付けていた。


「わかった!白!管制行けるか?」


「大丈夫!結界の強化完了!板塀までは敵は近づけないはず!黒!グリッドの指示行くよ!」


「いつでも!」


「ホの三!」


「ホの三。了解。仰角60°、方位角270°。調整完了!」


「角度確認!タケルさん!行けます!」


「よし。射撃開始!」


「射撃開始!」


黒に命令を伝えた小夜が、手の平で耳を塞いでしゃがみ込む。

黒が砲弾を筒の先端から落とし込み、小夜と同じように耳を塞いで伏せる。


一瞬の間の後で、ドンっという大太鼓を叩くかのような音と共に、筒先から砲弾が飛び出した。

そのまま放物線を描いて塀と土塁を飛び越え、敵右翼の只中に落下した。


炸裂した砲弾が、空中に鎧姿の敵を3人ほど空中に吹き飛ばし、その数倍の敵を飛び散った破片で打ち倒した。


「初弾命中。次弾、チの九!」


「次弾、チの九!」


「チの九、調整完了!」


「撃て!」


「発射!」


今度は敵中央の後方で砲弾が炸裂した。

白は敵を逃がすつもりはないようだ。それもそうか。逃げ散った敵が野伏になって村々や商人を襲うのはよくある話だ。まとめて投降させるか、さもなくば全滅させるでもしないと、近隣住民に被害が出る。


そのまま連続して10発の榴弾を放ったところで、砲射撃を止めさせる。

敵の密集隊形が崩れ、だいぶ散り散りになってきた。

敵が密集していないと、榴弾の効果が薄くなる。あとは弓矢と銃で狙撃するか、あるいは斬り込むかだ。


「旦那様。私が出ます」

青が左右の腰に履いていた大小の太刀を抜きながら進言してきた。


「わかった。各員!青が出る!青!頼む」


「承知いたしました」

青が物見櫓からふわりと浮き上がり、そのまま滑るように飛翔して敵の只中に降り立った。


そこからは青の独壇場となった。

舞いでも舞うかのように、両手に持った太刀で変幻自在に敵を斬り伏せていく。

胴丸や兜も青の前では何の意味もないようだ。まさに“触れるだけで斬れる”かのような切れ味を見せていた。


「綺麗……」

土塁によじ登った梅が感嘆の声を上げているのが勾玉越しに聞こえてきた。

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