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134.実習の日々①

まあ子供達の信心云々はとりあえず置いておく。

信仰とは自然に芽生えるものであって、間違っても強制するものではない。

“我を信ぜよ!さすれば救われん!”など、どう考えても無理がある。


スクリーニングを終えた子供達は、午前中の勉強に戻る。もちろん初歩中の初歩、現代仮名遣いからのスタートだ。

初めはきょとんとしている彼らも、里で暮らしているうちに文字や数字の意味を理解してくれれば有難い。


昼食の後は農作業、家畜の世話、小動物の世話、家事の4チームに分かれて作業を行う。

チーム分けは固定せず、担当もローテーションすることにした。当然武家出身の2人も同じ扱いだ。


本日のチーム分けは以下のとおり。


農作業:小夜、平太、杉、佐助、定六、エステル


家畜の世話:惣一朗、惣二郎、清彦、嘉六


小動物の世話:桃、楓、ちよ、かさね、与一、嘉七、千鶴


家事:桜、梅、椿、棗、松、柳、乙吉、定七、加乃


式神達には臨機応変にサポートに入ってもらう。


農作業の場所は入植者エリアとして準備していた土地。この場所でまさに一からのスタートを切る。

入植者エリアはススキ原の草刈りをしただけの空き地に、ぽつんと家が建っているだけだ。

家の東側には灌漑のために作った貯水池があり、東側の山から用水路が引いてある。


まずは源七げんしち、三太も含めて今後の農地開発について説明する。

源七達は午前中のうちに自分達の家について大工の太夫たゆう親子と打ち合わせを済ませたようだ。

太夫には黒と白がサポートに付き、必要な建材を取り出している。


さて、まずは農地の区画割りだ。

住居区域の南を抜けて、中央の広場を過ぎて北の遊水地に向かう用水路の西側に田を開拓する。

一区画は荒縄と杭で囲った10m×10m、つまり1aアールとする。


「旦那様?耕すにはこの区画割りは狭すぎませんか?せっかく土地があるのですから、もっと広く耕してしまえばいいのでは?」


エステルの疑問ももっともだ。エステルの故郷のリンコナダでは、一つの畑が200m四方ぐらいだった。


「理由はいくつかある。まず一つ目は灌漑、つまり水を引き込むためだ。ここに植えるのは稲だから、成長期に水を貯める必要があるのはリンコナダも同じだろう?」


「はい。ですから川沿いだけで育てていました」


「川が緩やかで、水面に近い川沿いの土地があればそれでもいい。だがこの地の川は急流で、川沿いは切り立った土手になっていることが多い。だから平地で稲を育てる。平地で稲を育てるには、水を引き、そして水を行きわたらせなければいけない。そのためには一つの区画を小さくして、水路を張り巡らせたほうが効率がいい」


「そういう理由なのですね!二つ目の理由は?」


「作物の病気に備えるためだ。作物の病気の一つが病素が土や水、作物に付く虫にくっついて移動するためだ。その移動を制限したり、発病した区画を隔離するのにも狭い区画割りは有効だ」


「なるほど……」


「ただ、作業方法によっては、エステルの故郷のように広大な畑で一気に栽培するほうが効率がいいこともある。だからその土地柄によって農法というのは変えるべきだ」


頷くエステルの後ろで、平太が馬に引かせた犂を通し始めた。

使っている犂は、平太達が改良を重ねた短床犂たんしょうすきだ。


この時代のすきと言えば、一本の棒に鎌形に枝を付け、その犂を一本の綱で馬に引かせるものだ。


短床犂は、犂と馬の間に平行棒を取り付けることで、馬に掛かる力を分散し、馬への負担を減らしている。

また、地面に打ち込む部分の上にも平行棒を取り付け、その上に人が乗って体重を掛けることで、犂を地面に潜らせている。


その結果、従来の隙とは比べ物にならないほど深く、そして早く耕せるようになっていた。


犂を三太がまじまじと見ている。

「これは……こんな棒を間に入れるだけで、犂がこんなにも軽くなるのか!これはすごい!」


「なんじゃバカ孫。でっかい声を出しおって。そんな馬鹿なことがあるか。どれ……うおっ!なんじゃこれは!!」


「だろ!ものすごく楽になるだろ!これなら爺さんが犂を操って俺が後ろでくわを振るえば、あっという間に田起こしができる!」


農業の玄人にも好評のようだ。


犂が荒く起こした土を、鍬を持った子供達がきちんと耕していく。

子供達が使う鍬やすきは刃の部分が全て鉄で出来ている。

子供達の体格に合わせて少々小振りだが、作業効率は先端だけが金属製の風呂鍬ふろくわに劣らない。むしろ先端を鋭利に仕上げることで、ススキの根を斬りながらの作業効率は上がっていた。


「定六!鍬の調子はどうだ?」

近くで作業をしている定六に声を掛ける。

定六は実家でもしっかり手伝いをしていたのだろう。鍬を振るう姿が様になっている。


「はい!とても軽くてしっくりきます!軽いのに草の根をザクザク切れて、作業がとても楽です!」


「まあ俺達がしっかり使い込んで、改良を重ねたからな!この刃の角度が大事なんだぜ!ここがもうちょっとこう……」


杉の得意げな蘊蓄うんちくは置いておいて、次の作業だ。


土地改良に移る。

全体を2mの幅で区切り、表面から60㎝ほどの土を隣の枠に移す。

すると砂利の混じった層が出てくる。この層を取り除くことで、保水性を上げるのだ。


藁で編んだもっこに砂利混じりの土を乗せ、畚に竹竿を通して二人がかりで枠外へ運搬する。

運び出した砂利混じりの土は、畑など水はけを求める場所で活用する。


砂利混じりの層を除いたあとは、その下の粘土層の上に土を戻す。

この作業を繰り返す。


最後に、堆肥をまんべんなく撒き、鋤き込めば完了だ。



一連の作業を見守っていた源七がため息をつく。

「いやあ……若造どもに畑仕事を教えてやるつもりできたんじゃが、これでは教えるどころではないのう……

お主、一体この知恵をどこで身に着けた?」


「死んだ爺さんに教わった。爺さんはそのまた爺さんから教わったんだろう。知恵と言うのはそうやって伝わるものだろう?」


「そうか……てっきり神の力かと思ったわ。大内の旦那から、お主は神威かむいじゃと聞いた。儂は無理だとしても、儂の息子ならばお主のような力が手に入るかの?」


「それは無理。ちょっと年が行き過ぎている。二人の子供なら、もしかしたら……」

作業の様子を見にやってきた黒が、会話に割って入る。


「そうか!孫の子なら大丈夫かもしれんのか!おい三太!はよ儂に曾孫ひまごを抱かせい!」


「無理言うなよ爺さん!俺達だってやることはやってんだ!なあ加津代!」


「ちょっと!子供達の前でよしてちょうだい!恥ずかしいじゃないの!」


そんな二人の会話を聞いて、黒が小夜を呼んでくる。何やら耳打ちしている。

小夜も何かを感じ取ったのだろう。

にっこり笑った小夜が、三太と加津代の腰の辺りに緑の精霊を張り付ける。


「あれ?なんだか急に腰が軽くなったぞ!?」

「ほんとかい?私もだよ!?」


これで気の巡りでも良くなって、子宝に恵まれてくれるといいが。


こうしてだいたい一週間に一面の田を作っていった。

あとは春先の田起こしと追肥、引水をすれは田植えができる。

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