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129.里に帰りエステルを紹介する

里に帰った俺達の到着点は例によって南門の外だ。


家に近いところに突然現れると、誰かと鉢合わせするかもしれない事から定めた自主規制。

実際には勝手に黒の門を使う事もないのだから、気にしなくてもいいのかもしれないが。


母屋へ帰る道すがら、エステルの処遇について打ち合わせる。

「紅が面倒見ること。お前が引き込んだも同然だから、当然だろ」

「でもタケルに付いてきたんだぜ?」

「だぜじゃない!」

「タケルさん、やっぱり私は迷惑でしたか?今からでも放り出されたほうがいいのでしょうか……しくしく」

そんな擬音で泣く奴初めて見たぞ……

「あ〜あ、タケル兄さんが泣かした〜」

「青姉に言ってやろ〜」

全く抑揚のない声で白と黒が茶化してくる。

「タケルさん?エステルさんを虐めるのはダメですよ?」

小夜まで敵に廻るようだ。


「わかったわかった。エステルは里に受け入れる。ただし週一か月一でリンコナダに帰ること。里では里の流儀に従うこと。この2点は絶対守ってもらう。いいな?」

「承知しました!では紅さん!よろしくお願いしますね!」


「おう!任せろ!早速だがタケルよ。明日母屋を改造してもいいか?」

「はい?何故だ?」

「いやさ、俺達5人で同じ部屋じゃん?ここにエステルまで入るとちょっと手狭なんだよね。だから俺達の間でも年長組と年少組で分けたほうがいいかなって」

「ちょっと待て、エステルも母屋で暮らすのか?そこは女の子達の家だろう?」

「最終的にはそうするさ!でもしばらくは検疫ってのが必要なんだろ?」


ああ……そう言ったのは確かに俺だ。

「だったら仏間か客間を使え。子供達の勉強時間には起きてるだろうし、子供達が増えれば別の建物を使い始める。母屋の部屋を使う事もないだろう」

「わかった!じゃあ今夜からそうする!」


あ!青に帰ると連絡するのを忘れてた……

「青姉には連絡しといたよ!女の子の家と母屋のお風呂沸いてるから入れって!青姉も女の子の家にいるって!」

さすが小夜。よく気が効く。


とりあえず女の子の家に寄って、青と桜・梅・椿に帰還を報告する。

それから女性陣はそのまま女の子の家で風呂に入り、俺だけは母屋で風呂に入る。

これは男女別というよりも、単に母屋の風呂のほうが小さいからというだけだ。

女の子の家は、最初から複数人で入ることを前提とした広さになっている。


のんびり風呂に浸かってから出てくると、囲炉裏の周りで青が夜食の準備を終えていた。

卵入りの雑炊、鰹節かつおぶしと椎茸の佃煮、そして温かいお茶。

数日しか経っていないのに、何故こんなに懐かしいと感じる匂いなのだろう。


「青姉!お腹すいた!」

土間の勝手口をガラリと開けて、小夜と白、黒が入ってきた。

「タケル!」

最後に紅が入ってくる。

「おう!もう上がってたか。ちょっといいもん見せてやるから、向こう向いてな!」

紅が何やら企んでいるが、ここは乗っておこう。


「いいぜ!タケルこっち見な!」

振り返るとそこには……きらきらと輝く金髪の美少女が立っていた。

肌は透き通るように白く、頬にほんのり挿した赤みが色気を増している。

着ている服は紅の寝間着のようだ。

「エステル……なのか?」

「はい、旦那様」


「いやあ、驚いたぜ!エステルを風呂に入れるとさ、どんどんお湯が汚れていくのよ。小夜と俺で直接水を温めてどんどん入れ替えて、石鹸も使ってめっちゃ洗ったらよ!こんなのが出てきちまった!」

そう言えば夏場に水浴びする程度だと言っていたな。


「ちょっと紅さん!旦那様の前で恥ずかしいから止めてください!」

「あれ?エステルさんちょっとキャラ変わってません?」

「というか、初めてのキャラかもしれない。こっちのほうがタケルに受けるかも?」


「お前らなあ、とりあえず夜食喰って寝ろ!」


その夜は久しぶりにぐっすりと寝た。時差8時間は思いの他きつかったのだ。


翌朝、朝食の席で皆にエステルを紹介する。


「エステル、14歳です。タケルさんのお嫁さん候補です。よろしくお願いします!」


子供達がドッと歓声を上げる。

歓声の内訳はこんな感じだ。

パターン1.「ちょっとタケル!お嫁さん候補ってどういうこと!」

パターン2.「というか私達と同じ歳!?」

パターン3.「金色の髪綺麗!ちょっと触らせて!」

パターン4.「美人の姉ちゃんが増えた!!」


まあ、あとは若い人同士でよろしくやってもらおう。


さて、本格的な年越し準備の前に、今回の海外遠征で手に入れた生き物達を何とかしなければならない。

黒の収納で眠っている状態とはいえ、何週間もそのままでいいというわけでもないだろう。


まずは里の敷地の東側の山を少し切り開き、温室を建てる。

温室と言っても全面ガラス張りなどではなく、普通の飼育小屋と柵を作ってから、その周りを白の結界でドーム型に覆ったものだ。豚用、羊用、ロバ用、そしてクジャク用の4棟を建設した。

それから、胡椒や肉桂、月桂樹やゴムの木を育てるための畑を簡単に耕し、これも白の結界で覆う。


準備が終わった場所から、式神達と小夜・エステルの5人で手分けして豚や羊をそれぞれの小屋に放し、胡椒や肉桂の苗木を植え付ける。サトウキビも合わせて植えてみた。サトウキビには青が相当期待している。


羊やロバはこのまま春まで飼育していれば、自然と環境に馴染んでいくだろう。

豚はもともと温帯地域で飼われていたから、あまり気にしなくても良さそうだ。エステルの意見を聞いてから、放牧するか豚舎で育てるか考えればいいか。


昼食の後で里の子供達を呼び寄せ、今回連れてきた動物や植物を紹介する。


「は~いみんな!これが豚さんですよ~。美味しいお肉になりますよ~」

エステルが張り切って豚を紹介している。


「なあタケル。あの説明正しいのか?」

「ん?美味しいお肉になるのは間違いないだろう?というか家畜が一気に増えたが、家畜担当の紅としては面倒見切れるか?」

「だからエステルを連れて来たんだろ。羊やロバはヤギや馬みたいなもんだろうから、心配はしてないんだけどな。豚ってイノシシみたいなものって言っても、イノシシをちゃんと飼っているわけでもないしな。イマイチ自信がなくてよ」

あれ……そういう打算が働いてたのね……


あとは餅つきやって、年越し蕎麦を打って……

「あの……明日は太陽の復活祭だと思うのですが……そういったお祭りはやらないのでしょうか?」

エステルが聞いてくる。


「そういやリンコナダでも復活祭がどうのって言ってたな。ありゃなんだ?」

「はい。そろそろ一年で最も太陽が出ている時間が短い日がくるでしょう?その日を無事に切り抜けて、また太陽が出ている時間が少しづつ長くなっていくのをお祝いするのが、太陽の復活祭です!夜になると大きな焚火をやって、御馳走を食べて、贈り物を交換し合って、楽しく過ごすんです!復活祭が終わると、もう新年です!」


「えっと……つまり……」

説明を聞きながら黒が首を傾げる。

「冬至とクリスマス、それに新年のお祭りがごっちゃになっているんだろうな」


「タケル。クリスマスって何?」

「あ……あんまり突っ込んだことを言うと、全世界のキリスト教徒を敵に回しそうだが……要は昔のローマ帝国で信じられていた太陽神ミトラを崇める“不滅の太陽の誕生日”に、キリスト教の救世主であるイエスの誕生を祝う日をくっつけてみたものだ」


「ふーん……面白そうだから、やる?」

「お!面白いことならやるぞ!何やるんだ?」

「タケルさん!私もやりたい!で、何やるの?」

面白いことと聞いて、子供達も含めて皆が集まってくる。


お前らな……まあ娯楽も大事か。年が明けて入植者や子供達が増えると、負担が掛かるのはこの子達だ。

それにエステルの歓迎会も必要だろう。

娯楽の一環として、餅つきや蕎麦打ちをやるのもいいか。


「よし、じゃあ冬至のお祭りでもやるか!」

俺がそういうと、皆が歓声を上げた。


「メインは青、紅、エステルの3人に任せる。白、黒、小夜の3人と桜・梅・椿も協力してくれ。その他の子供達も大掃除とかやることがたくさんあるぞ。みんな頑張れ!」

『はい!!』

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