番外編②:リンコナダ防衛戦の戦後処理
タケル達とエステルが去ったあと、リンコナダの村内はイカーサ達が連行してきた近隣村落の男達とセビリアからの援軍、そして生き残り拘束された襲撃者達とでごった返していた。
「この村の代表者は誰か!」
村の中心部、物見櫓の下で大声で呼びかけるセビリアの騎士。鎖帷子の上に着用したチュニックは赤と黒に染め分けられ、腰に直剣、左手に十字架を形どった大盾を持っている。
「私でございます」
ハコブが進み出る。
「ふむ。其の方、名は?」
「ハコブと申します」
「我はセビリアの騎士、ガルシア・ロドリゲスである。この度の襲撃に対し、見事この村の防衛を果たしたこと、実に大義であった」
「ははっ」
ハコブが頭を下げる。
「しかも襲撃してきた不逞の輩が、卑怯にも盾として引き連れてきた者どもには傷一つ付けることなく、更には倒れた不逞の輩どもの介抱までしておるとは……まさに神の御心に適う行いであろう!」
「ははっ」
ハコブが更に頭を低くする。
「よい。何も其方らを責めているのではない。顔を上げよ。他の者達もだ。皆!胸を張れ!」
ロドリゲスの号令で畏まっていた村人達が顔を上げる。
「セビリアの騎士達よ!彼らを称えよ!この村を守り徹した戦士達に祝福を!」
ドッという歓声が響き渡る。騎士達が声を上げ、槍で大地を鳴らし、剣と盾を打ち鳴らし祝福する。
「さて、此度の防衛戦であるが、我々騎士が数名守りについていても困難を極めただろう。実は救援はもはや間に合わぬものと思いながら馬を走らせておった。到着するころには村は蹂躙されておろうとな。しかし実際はこの有様だ。一体何があった。詳しく聞かせてはくれぬか」
ロドリゲスはハコブを伴って物見櫓の下にある木製のベンチに腰掛ける。
周囲には騎士達と村人が集まってきた。
「どこから話せばいいのやら……実は一週間ほど前から豚の数が減っているのではないかと言い出した者がおりまして、村の有志を募り、森の様子を見に行きました……」
ハコブがゆっくりと事の経緯を話しはじめる。
「森で起きたことは、実際にその場に居合わせた者がお話したほうがいいでしょう。ルカ、アーロン、それにイザークとダビド。お前達が見た事をロドリゲス様にご報告申し上げよ」
「はい。数日前に我々は森で豚を襲っている者どもを見つけました。我々も襲われ殺されそうになった時に、光輝く4人の方々が現れ、あっという間に賊を聖なる炎で焼き尽くしてしまいました」
「なんと!光り輝く者だと!しかも聖なる炎と申すか!」
「はい。見た事もないような、青白く輝く炎でした。あれはまさしく神の御使いで在らせられましょう」
「その方々が人の姿をとり、我らに話しかけられました」
“大いなる災いが汝らの村に近寄っておる。信心深き其方らを見捨てるのは神の御心にそぐわぬ。汝らが求め、自らを助くべく立ち上がるのであれば、我らは汝らに手を貸そう”
「そこで我らは神の慈悲にすがり、決死の覚悟で武器を手にした次第でございます」
「その方々は我らに戦い方をご教授されました!」
「その方々の号令で放った矢は、寸分違わず敵を撃ち抜きました!」
「襲撃者どもの卑怯な手を見抜き、捕らわれていた我らの同胞と襲撃者を分断する土の壁を一瞬で作り出し、我らの同胞をお救いになられました!」
「そして、倒れた襲撃者どもに救いの手を差し伸べられ、人の法で裁く機会をお与えになりました!」
ルカ達の報告を聞くロドリゲスの握る拳が震えている。
「なんと……それはまさしく神の奇跡ではないか……」
近くで聞いていた他の騎士達もざわついている。
神の奇跡だ……神がこの村を御救いになられたのだ……すごいぞ、神の奇跡を目にするとは……
「よろしい!本件は我が職権においてヴァチカンに奇跡認定の申請を行う。結果如何に関わらず、この村は聖別されたものとみなす!これは我、ガルシア・ロドリゲスの名において宣言する!」
ロドリゲスの宣言で、再度の歓声が沸き上がる。
「さあ皆の者、復活祭の準備もまだであろう。セビリアから物資を運ぶ。葡萄酒にハム、パンもだ。存分に味わい、神の奇跡に感謝を捧げよ!」
こうして、リンコナダ防衛戦は奇跡認定を受け、今後は生き残った襲撃者、とりわけイカーサを中心にエストレマドゥーラの関与が厳しく追及されることとなった。
リンコナダをはじめとするセビリア近隣の村々は、セビリアとの結びつきをより強固とし、都市国家の様相を見せるようになる。
救援要請のために馬を走らせたイザークをはじめ、リンコナダを守り切った村人の一部はそのままセビリアの騎士となり、各村に常駐し防衛の指揮を執るようになる。
だがそれはまた別の機会に語られるかもしれない。




