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13.悪党どもを役人に引き渡す

宰府にはその日の夕刻頃に着いた。本来なら日が陰る前には着く見込みだったようだが、悪党どもの歩みに合わせたことと、こちらにも小夜がいたから仕方ない。

そういえば行商人の3名がしきりに勧めるので、服を着替える事にした。紺色の作務衣は目立つそうだ。確か作務衣は寺の住職などの作業服だっただろうか。そもそも身長で目立つのだ。わざわざ目立つ格好をすることもないだろう。


彦兵衛が商いのために運んでいた古着のなかから、小袖と袴を一揃い頂戴する。柿渋で染めたような茶色の袴と、矢羽柄の小袖。袴の裾は足首で縛り、脛巾を付け草鞋履き。烏帽子もあったが、これは固辞した。

小夜は俺の周りをクルクル回りながら「似合ってるよ〜」と喜んでくれている。


問題はリュックサックだ。たぶん小袖の袖下からでも必要なものは取り出せるが、何でも袖下から取り出しているのも違和感しかない。

仕方ないので、彦兵衛から使い古しの麻袋をもらい、袋の中に黒い精霊を集め、4次元ポケット化する。

リュックサックごと麻袋に放り込み、口を荒縄で縛って背負うことにした。

「そんなに目立つ格好ではなくなりましたな」とは弥太郎の感想である。


さて、宰府の街中が見えてきた。大通りに沿って、木造家屋が立ち並んでいる。ほぼ全てが1階建てで屋根は板葺き。昔ながらの長屋が連なっている感じだ。

ところどころに物見櫓を備えた衛士の屯所がある。

街の中心部に数件の寺があり、街の東側に政庁があった。いわゆる条坊制で碁盤の目のように区画整理されているが、街中を貫く御笠川の影響で、ビシッとした碁盤の目にはなりきれておらず、政庁から離れるとだいぶ入り組んだ小路のようなものもあるそうだ。

街中の要所には、朱色の衣に黒塗りの長弓を持ち、太刀を履いた衛士が立っている。弥太郎の話では、治安は悪くないとのことだった。


さて、到着時の俺達一行である。先頭に最年長の彦兵衛、彦兵衛は悪党の一人が持っていた太刀を腰に履いている。彦兵衛が握るのは、悪党5人を数珠繋ぎに縛った荒縄、その左右にそれぞれ小太刀を履いた権太と弥太郎、そして最後尾からは俺が槍を担いで睨みを効かし、俺の陰に隠れるようにちょこちょこと小夜がついてくる。

悪党どもはさすがに観念したのか、重い足取りでゆっくりと歩いている。


ただでさえ目立つのに、彦兵衛が大きな声で「儂らを襲った悪党どもを、こちらのタケル様が召し捕ったぞー!!」などと叫んでまわるものだから、それはもう目立つ。

街の門に着く頃には、俺達一行の周りには大きな人だかりが出来ていた。


門に着くや否や、騒ぎを聞きつけた衛士の一団が人混みを掻き分け近づいてきた。

衛士達は揃いの褐衣姿。色は朱色で、黒塗りの太刀を履いている。集団の中の一際大柄な偉丈夫が進み出てきた。

「其の方らが召し捕ったという悪党どもはこいつらか!」

さっそく彦兵衛が説明しているが、時間も時間ということで詳しい調べは明朝からになったようだ。

悪党どもはそのまま衛士達が連れて行くらしい。

残った数人の衛士が、集まっていた人混みを散らそうとしている。俺たちもその場を離れることとした。


人混みを避けながら政庁から離れた下町を目指す。中心部から離れると、碁盤の目状の条坊は崩れて行くが、その方が活気があっていい。行商人やこの街の商人達も、下町に集まっているそうだ。


「ほう…在野の陰陽師か」

突然傍らから声をかけられた。振り返ると、一人の老人が立っていた。

紺色の狩衣に立烏帽子、あご髭が白く伸びている。老人と言ったが、背筋も伸びており、見た目50代ぐらいかもしれない。どことなく死んだじいさんの若い頃に似ている。

「俺のことか?」思わず答えてしまう。

老人はニヤリと笑いながら続ける。

「お前さん以外に誰がおるんじゃ…いやそっちの嬢ちゃんも素質はあるようじゃが…お前さんその気は修行によるものではないな。天賦の才か?もしかして生まれながらに精霊達が見えるのではあるまいな」

老人は真っ直ぐに俺の目を見ながら、それでもニヤニヤした表情は崩さず質問を重ねてくる。

「じいさんは…陰陽師なのか?」

「まあ陰陽道は嗜んでおる。お前さんちょっと寄っていけ。ああ…そっちの兄さん達に用はない。適当に嬢ちゃんの相手をしておれ。一刻ほどしたらあの屋敷まで迎えに来い」

そう言うと、老人はスタスタと近くの家に入って行く。

近くにいた彦兵衛を捕まえ、じいさんが何者か聞いてみる。

「あのじいさんはここらじゃ名の知れた陰陽師でしてね、何でも都じゃ1番の使い手だったらしいです」

俄然興味が湧いてきた。ここで接点があったのも何かの縁だろう。弥太郎に小夜を頼み、じいさんの後を追う。


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