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126.リンコナダ 防衛戦②

リンコナダ の北方1kmほどの地点で渡河した敵集団は、渡河した場所で一旦動きを止めた。

どうやら騎馬だけでこちらに向かってくる。まずは様子見あるいは降伏勧告か。


俺はハコブを伴って物見櫓(ものみやぐら)に上がる。


10分もしないうちに現れたのは、10騎の騎馬だった。


先日の豚泥棒と同様に色分けされた長いチュニックだが、一部の者は頭部まで鎖帷子(くさりかたびら)が覆っている。

北から現れた騎馬の集団は、一旦西に向かい、村の外周を杭に沿ってぐるっと一周してから東面で止まった。


これは攻められる面を限定する紅の策の結果だ。もともと西面と南面に開いていた土塁の切れ目を移植した木で隠し、代わりに東面に門を設置した。門の幅は約2m。騎馬で並んで2頭通るにはかなりスピードを落とさねばならない幅に設定した。当然門は固く閉ざされている。

門の両側に櫓を設置し、紅とエステルがそれぞれの櫓に上がる。

ちなみに南面には黒と3人の村人、西面には白と2人の村人と騎乗した伝令役のイザーク。残りの村人20人は全て東面に配置した。


先頭の騎馬が杭の手前で止まり、槍を大地に突き立て、朗々とした声で宣言した。


「この地の民よ!我はエストレマドゥーラの騎士、ヌーニョ・ペレス・デ・イカーサである。本日よりこの地は我らの騎士団の管理下に置かれる!即刻門を開き我らを迎え入れよ!」


「ハコブさん、エストレマドゥーラとはどこかの地名ですか?」

俺は一緒に櫓に上がっているハコブに尋ねる。

「あの山の向こう側がエストレマドゥーラですが、この地はセビリアの領地です。エストレマドゥーラの領地になったとは聴き及びませんな」


そうか。既成事実を作ってしまおうという事だろう。ならばまずは事実確認だ。


「紅、“事実確認のために使者を街に出す。半日待て”と伝えろ。白、イザークに自分の任務を復唱させてから、西門から出せ」


「こちら白!了解です!イザークさんに事実確認のためにセビリアに行ってもらいます!イザークさん!聞こえましたか?貴方の任務を復唱してください」

「俺の任務は、この地の領主交代が事実かどうか確認して、どちらにせよ衛兵団か騎士団を連れてくることです!」

「OKです!お早いお戻りを!いってらっしゃい!」

イザークが西門から出て行くのを、物見櫓の上から見送る。


「なにい?使者だと?そんな者は必要ない!!いいからさっさと門を開けろ!」

「いいえ、きちんと確認せねばなりません!」

「やかましいわ小娘が!小娘ごときに何がわかるか!」

「小娘などではありません!私はこの村の代表者の娘エステル。父が臥せっているので代理を務めております!」

エステルとイカーサと名乗った騎士が押し問答をしている。しかしエステルの声もよく通る。


「使者は出発しました!半日もすれば結論が出るでしょう。それまでお待ちください!」

「なに?すぐに追いかけて殺せ!」

イカーサが左右の騎士に命じ、1騎ずつ左右に別れて追いかけ始める。


「黒、マーキングは終わっているな?」

「もちろん。いつでもいける」

「白、騎士の集団から見えない場所で、イザークを追いかけている騎士2人を捕らえられるか?」

「殺す?殺しちゃダメ?」

「殺しちゃダメな方法で」

「わかった。ちょっと待ってて」


白が長弓を持って西門の近くから狙いをつける。

次々と4本の矢を放ち、黒を誘って西門から出て行った。


「お前達が放った使者とやらは、もうじき始末されるだろう。その知らせが来るまでは待ってやる」

イカーサが自信たっぷりに宣言し、馬を降りて休憩に入る。




だが1時間待っても、イザークを追いかけた4人の騎士は帰ってはこなかった。

当然である。その2人は白と黒の手によって村に運び込まれ、小夜が治療している。

イザークは今頃セビリアに到着し、騎士団か衛兵団に話を通しているだろう。


「遅い!追いかけていった2人は何をしている!」

イカーサの怒鳴り声に紅が大声で絡んでいく。

「おおかた返り討ちにでもあったんじゃねえの?」

「返り討ちだと!?我が栄光あるエストレマドゥーラの騎士が、村人如きに返り討ちになど合うわけがないわ!」


「へえ、栄光ある……ねえ。そういえば数日前に森にいた豚泥棒もあんたらと同じ服着てたなあ。ありゃ栄光ある豚泥棒ってことか?」

村人がどっと笑う。


「なにい!貴様!我らを侮辱するか!」

イカーサはだいぶご立腹のようだ。

「豚泥棒に豚泥棒と言って何が悪い!そもそも何故に使者を始末しようとする?セビリアに知られると何かまずいのか!」


「うるさい!それはそうと、同じ服を着た豚泥棒を見かけたと言ったな?そいつらはどこに行った!」

「ああ?知らねえよ?豚にでも喰われたんじゃねえか?」

また村人達が大きな笑い声を上げる。

「うちの豚達は盗人なんて喰わねえよ!」

「おう!薄汚れた盗人どもなんかより、森に落ちたドングリのほうがよっぽど旨いからな!」


「我が戦友が数日前から姿を見せぬ!さてはお前らが害したか!」

「だから俺らが見たのは豚泥棒だっつーの。やっぱりお前らの仲間かよ!さてはお前は豚泥棒の親分か?」


「貴様ら!もう許さぬ!全員騎乗せよ!この村を蹂躙する!」

イカーサの声に8人の騎士が立ち上がり、外していた鎖帷子くさりかたびらのフードを被り騎乗する。

しかしあの重たい鎖帷子を身につけたまま軽々と騎乗するなど、相当鍛えているのだろう。

騎士達は地面に刺していた槍を抜き取り、各々穂先を一振りして土を払うと、杭の外側で一列横隊を作る。


「へえ、ようやくやる気になったか!弓隊構え!杭より内側に入れるな!」

紅の指揮でエステル以下の弓隊15人が矢を番える。


「はん!弓隊だと?たったそれだけの人数で何が弓隊だ!片腹痛いわ!我ら栄光あるエストレマドゥーラ騎士の突撃というものを見せてやる!突撃ストゥールモ!!」


「撃て!!」

紅の号令で15名の弓達が矢を放つ。一斉にではなく、わずかに時間差をつけている。


射手の数は攻撃側のほぼ倍、しかもイカーサの無駄な口上のおかげで、隣り合った射手同士で誰を狙うか相談する隙が生まれ、敵1名に対し2名の射手が対応できた。その結果がわずかな時間差での一斉射撃。


そのおかげで、騎士が一本目の矢を槍で払った瞬間に次の矢が顔面を襲う。

二本目の矢を無理やり躱しても、態勢を崩したところに第三・第四の矢が襲う。

しかもたかが30mの距離では馬の出せる速度など知れている。杭の位置から幾らも進めずに、騎士達は顔面に矢を受けて次々と落馬した。


唯一の例外はエステルのみが狙っていたイカーサだ。

エステルの放つ矢を四度まで躱し、ようやく周囲の騎士達の状況に気付く。



「これは!どうしたことだ!お前ら何をやっている!なぜ我が栄光ある騎士達が……!」


「おいおっさん!そろそろその“栄光あるなんとやら”って聞き飽きたぜ!お前さんのお仲間が地べたに這いつくばってんのは、お前さん達が大したことないからだろ!さっさと尻尾を巻いて逃げ出しな!」

「そうだ!俺達は負けねえぞ!」

「自分達の村は自分達で守るんだ!」


「貴様ら!!今に見ておれ!!」

イカーサは馬首を巡らして、北へと向かい駆け出した。


とりあえず第一波は凌いだようだ。



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