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118.スンからの土産をお披露目する

ムンバイから里に戻ると、すっかり日が暮れていた。

時差は三時間半ほど。ムンバイを出たのが午後3時前だったから、里は午後6時過ぎだ。


「タケルよう、この時差っての、何か損した気がしないか?」

里の入り口に降り立ったから、母屋への道のりは少しある。別に母屋の土間に直接出てもいいのだが、その先に誰かがいるかもしれないという可能性も考えれば、配慮が必要だ。

「損した気?何でだ?」

「だってよう、あっちじゃまだ夕方前だったんだぜ?ところが戻ったらすっかり夜。数時間損した気がする」

「それは完全に気のせい。こちらを昼過ぎに出たけど、あちらはまだ朝だった。差し引きゼロ」

「そりゃわかるんだけどさあ……」

「次に行く予定のヨーロッパの時差はもっとあるのだが、時差に不満があるなら、紅は外れるか?」

「え~なんでだよ。ってか次はいつ行くんだ?」


「中途半端に時期をずらすより、一気に回ったほうがいいかもしれない。どう思う?」

「そうだな。明日から羊やロバの囲いを建ててから……ってしてると、あっという間に一週間ぐらい過ぎそうだからな。次行く所で何を手に入れるかもわからないし、先に行っちゃおうぜ」

「私も賛成。収納に入れている間は時間が止まっているから支障はない」

「そうだね!パパっと終わらせちゃおう!」

「じゃあ決まりだ。黒と白は寝る前に場所の最終選定に付き合ってくれ」

『了解!』


この時間なら皆子供達の家で夕食を食べているはずだ。

ガラリと引き戸を開けると、土間にいた椿が駆け寄ってきた。

「おかえりなさいタケルさ…ん?」

「ん??どうした椿?」

「タケルさんから変な匂いがする……」

「変な匂い?あ、タケルさんおかえりな…ホントだ。変な匂いがする…」


「香辛料の匂い……かな。それじゃ先に風呂に入ろう。今夜の食事当番は……椿か。これは土産だ。軽く炙ってから、献立に加えてくれ。小夜も手伝ってあげて」

『了解で〜す』


風呂から上がって子供達の家に戻ると、紅達も着替えを終えて集まっていた。

羊肉の串焼きも全員に配られ、夕食となった。

平太と惣一朗それから杉の目の前には蒸したイモと串焼きだけが置いてある。何かやらかしたらしい。

というか、串焼きがなかったらイモだけだったのかあいつら。


「なんだか不思議な味がするけど、美味しいね!」

「ちょっと辛いかも……でも癖になる味だよね。もっと食べたくなる」

串焼きの感想を言い合いながら、皆美味しそうに食べている。


「タケルさん!ムンバイってところはどうでしたか?」

小夜が聞いてくる。

「そうだなあ……活気があって賑わっていたな。あとはスンっていう精霊使いがいたぞ」

「え……大丈夫だったんですか?まあ紅姉や黒ちゃんたちが一緒だから、めったなことにはならないと思いますけど……」

「おう!スンとはもう友達だぜ!」

「友達は言いすぎ。紅姉が不愛想とか言ったから怒られるかと思ったけど、最後は笑って許してくれた関係」

「いや黒ちゃん、その関係分かりにくい……」

「でも、初めて見る生き物とか植物がいっぱいだったよ!綺麗な鳥とか、大きな木とか!」


鳥と聞いて、小さな生き物担当の桃となつめが寄ってくる。

「タケルさん!綺麗な鳥さん見たい!」「見たい!!」

「ああ。連れてきてるから、準備ができたら順番にお披露目だ」

『やったあ!!』


「旦那様、今回の収穫物はどのようなものがありますか?」

「まずは胡椒・肉桂・月桂樹の苗木、ゴムの木の枝は品質を見て、場合によっては別の場所に採取に行かなくてはいけないかもしれない。家畜は串焼きになっていた羊と、荷役用のロバ、家畜や家禽ではないがクジャクが手に入った。あとはサトウキビ」


「サトウキビ?サトウってあの砂糖ですか?」

誰かと同じ反応を青がする。そう言えば青は甘酒など甘い物が大好きだったな。

「あの砂糖の原料になるものだ。胡椒と一緒に春から栽培したいから、冬のうちに準備を整えておかなくてはな」

「承知いたしました。栽培に適した環境などは、白か黒が学んできたのでしょうか?」

「白に任せて大丈夫だろう。まずは板塀の内側のみで栽培する。というか板塀の拡張が必要かもしれない」

「わかりました。それで、もう一つの目的だった豚の入手については……?」


「それなんだが、今回行ったインド亜大陸よりももっと西に行かないと入手できなさそうだ。たぶんヨーロッパ圏内なら飼育されている豚がいるはずだ。明日の午後から同じメンバーで行ってこようと思う。帰りが遅くなるかもしれないが、連絡は入れるようにするからよろしく頼む」


「え~また同じメンバーなんですか?私や小夜ちゃんの順番は?」

椿が不満そうな声を上げる。

「そうだな……スンの農園なら危険はなさそうだし、行ってみるか?」

「串焼きくれた人のところ?行きたい!!」

「スンもこちらに来てみたいと言っていたし、数時間ずつなら双方が行き来してもいいだろう。たくさんの人の目で見たほうが、有益な物も見つかるだろうしな。春になったら計画しよう」

「わかった!よかったね!小夜ちゃん!」


とまあ話がまとまった所で食事も終わり、大人組は母屋に引き上げる。

その前に桜と梅、椿を呼び、スンのもう一つのお土産を分けるために母屋に一緒に来てもらう。


母屋の勝手口から土間を抜け、囲炉裏の間に皆が集まる。

最近このスペースは子供達の中でも年長組の桜・梅・椿には開放している。他の子供達は仏間と客間までだ。流石に全員に開放すると俺の蔵書からどんな影響を受けるか分からない。

しかし、この三人も時間を作っては黒や小夜が借りている俺の漫画や雑誌を囲炉裏の傍で読みふけっているから、あまり制限した意味はないのかもしれないが。


スンから受け取った袋を開けると、中から色とりどりの石が出てきた。

トルコ石やルビー、エメラルドなどの原石だ。まだ大半が石に埋まった状態だが、丁寧に掘り出せばそれなりの原石になるだろう。

「これは……すごいですね……」

「綺麗……この透き通った緑色とかすごく綺麗」

小夜が透明な緑色の石を取り、光の精霊に透かして見ている。

「なんか……私が市場で見ていたのより、ずいぶん大きいよ?」

白が市場で見ていたのは、原石から掘り出し一次カットされた裸石ルースだった。原石は加工していない分、価格も低いのだろう。その代わり、いざ掘り出したら傷だらけだったり、思ったより小さかったりするかもしれないが。


「どうだろう。この石からそれぞれ一つだけの宝石が作れないだろうか。多少大きさがばらついたりするかもしれないが、小さな石は耳飾りや指輪にしてもいいし、大きさによっては首飾りにしてもいいと思う。今皆が持っている勾玉は複製品だが、これは世界に一つだけの物になると思うんだが」

「それすごく良い!でも上手く作れるかな……」

小夜が真っ先に賛成するが、多少不安そうだ。


「青、水を細く噴出することで、余計な石をうまく削れないか?」

「できると思います。少し練習が必要ですが」

「じゃあ一旦石は青に預ける。方法が決まったら、小夜や椿、桜や梅にも指導してくれ。紅達の分の加工は青に頼む。というか青の練習台に使ったらいい」

「承知しました。誰がどの石にするかは、あらかた形ができてからにしますか?」

「そうだな。たぶんそれぞれ相性のいい石などもあるだろう。形ができてから、じっくり決めるといい」


こうしてスンから受け取った品物のお披露目は終わった。


明日は豚を探す旅に出かける。豚といえばドイツかフランスだが、12月といえば氷点下近くまで冷え込んでいるはずだ。イスラム圏で豚を飼育しているわけがないから、とすれば地中海のイタリアかスペイン、ポルトガルあたりが適切だろうか。


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