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11.行商人を助ける

最初は見捨てようかと思っていた。行商人が戦力になるか不明だし、そもそもこちらには小夜がいる。小夜を人質にでも取られたら、抵抗のしようがない。

しかし、小夜が先に気づいた、しかも顔見知りがいるというなら、話は変わってくる。

短い付き合いだが、小夜の性格上、見捨てるという選択肢はないだろう。だが…大丈夫だろうか。相手は5人。恐らく人殺しを何とも思っていないだろう。万が一にも負けて小夜を奪われでもしたらと思うとゾッとする。


しかし小夜は今にも飛び出しそうになっている。仕方ない。殺さない程度になんとかしよう。


黒い精霊の窓を広げ、行商人の背後数メートルの地点に出る。小夜も連れて行く。顔見知りなら一緒にいたほうがいいだろう。木の裏に隠れ、様子を見る。

行商人を挟んで反対側に、追い剥ぎ5人が現れたのがわかった。行商人の一行はまだ気づいていない。

恐らく追い剥ぎの頭だろう。太刀を持った一人が立ち上がり、仲間に向かって大声を上げた。


「野郎ども!久しぶりの獲物だ!全員ぶっ殺せ!!」

『おう!』と残りの4人も立ち上がり、一斉に行商人に駆け寄る。

飛び起きた行商人達は腰が抜けているのか、尻餅をついたまま後ずさるしかできない。

「おおおおお助け…!!」やっとのことで、まだ若い一人が声を上げて嘆願しながら土下座するが、追い剥ぎ5人はニヤニヤしながら包囲を狭めてくる。

小槍持ちが土下座している若者の首に槍の切っ尖を突きつけた。

「お頭!最初にぶっ殺すのはこいつでいいか!」

どうやら槍持ちがいちばん血気盛んなようだ。

「ああ、最初の血祭りはそいつだ!」

頭が吠えると、槍持ちは凶悪な笑みを浮かべて槍を引き絞った。

いかん…これは殺される…仕方ない。

俺は近くの小石を拾い、風の精霊も使って飛ばした。狙いは槍持ちの右手と左の鎖骨付近。

寸分違わず命中し、嫌な音とともに槍持ちは槍を落とす。

「ぐわあああっっっ」槍持ちの右手は鮮血に染まり、そのまま膝から崩れ落ちる。小石は右手の肉を貫通したようだ。恐らく鎖骨は砕けているだろう。もっと小さい石なら鎖骨を貫き動脈を切っていたか。


とりあえず一人は無力化した。隠れていた木の陰から小夜と一緒にゆっくりと出て行き、頭とおぼしき追い剥ぎに声をかける。

「ちょっと訳ありでな、行商人の兄ちゃん達に助太刀するぜ」

そう言って小夜に行商人を下がらせる。行商人の一人が小夜に気づいたようだ。いや感動の対面は後にしてくれ。


俺はゆっくりと槍持ちが落とした槍を拾う。

頭らしき追い剥ぎが太刀を右肩に乗せて進み出てきた。

「ガキが!イキってんじゃねえぞ!ぶっ殺すぞ!!」

…ガキ?いや年はお前の方が下だろう。どうみても20代半ばで、しかも背が低い。身長150cmぐらいか?老けた中学生に見えなくもない。ヒゲモジャのヤンキー中学生。殺気らしきものは出しているが、罠にかかったイノシシほどでもない。ちょっと笑えてくる。

「なに笑ってやがんだコラ!」

「頭!ぶっ殺そうぜ!!」

いや本当にヤンキーの集団だ。身構えていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

手にした槍を軽く振ると、右手で石突の手間を、左手で槍の中ごろを握り、左前で構える。左半身中段の構え。罠にかかったイノシシに止め刃を刺す時の基本の構えだ。空気がピンと張りつめていく。

4人の追い剥ぎが少しずつ移動し、俺を取り囲む。俺の左側には太刀持ち、右側には小太刀持ち、正面に太刀を担いだ頭、その後ろに隠れるように、小太刀をぶらさげた男がいる。俺の背後には、小夜と行商人が木の陰に隠れてこちらを覗いている。

双方の距離は約2m、踏み込めばどちらも間合いに入るだろう。


張りつめた空気に耐えられなかったか、太刀持ちが左側から突っ込んでくる。袈裟懸けの打ち込み。だが刃筋が低い。身長が合っていないのだ。

中段の構えから上半身を時計回りに回し、同時に石突を後ろに滑らせる。ちょうど左利きの剣士が抜き打ちを逆回転させるイメージ。槍の石突は寸分違わず太刀持ちの鳩尾に突き刺ささり、その場に崩れ落ちる。

俺はそのまま右側の小太刀持ちとの距離を詰め、2歩進んだところで中段の構えから本来の刺突を繰り出す。狙いは右手首内側。正段に構えた小太刀の下をかいくぐり、手首を内側から切り裂く。

穂先を引きながら右足を踏み出し、反時計回りに半回転する。小太刀持ちの首に槍の柄を叩きつけ、呆然としている頭のほうに吹き飛ばした。

これで残り2名。槍を振り、穂先についた血を吹き飛ばす。追い剥ぎの頭に正対し、再度構える。

次は右前中段の構え。対人戦、特に太刀を持った相手に相対する時に有効とされる構えだ。右手から伸びる槍の長さは太刀と同じ程度。太刀から繰り出される斬撃を払い、あるいは流し、返す勢いで切りつけることに主眼を置く。

「こっ…このガキいいい!!」叫びながら追い剥ぎの頭が袈裟懸けに振り下ろしてくる。先程の太刀持ちより数段早く重い斬撃。俺は左足を一歩踏み込みながら左手も突き出し、槍の柄で太刀の握りを受け止める。身長差があるからこそできる芸当だ。

左足を軸に、右足で頭の鳩尾あたりを思い切り蹴飛ばす。頭は背後にいた小太刀持ちを巻き込み、派手に吹き飛びながら後方の木に激突した。


追い剥ぎ達が動かなくなったのを確認し、ゆっくりと後ろを振り返る。

全員無事のようだ。小夜が駆け出してくる。





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