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107.秋のある日

黒や平太、そして住人たちの協力のおかげで、連続して襲来した残り2つの台風は人的被害無しで乗り切ることができた。


黒の天気予報によれば、大陸からの高気圧が勢力を増している。恐らく今年の台風はもう来ないだろう。

刈り入れ時期が近づき、他の集落の稲穂は頭を垂れはじめた。

里の田はようやく出穂を迎えた。このまま行けば他の田よりおよそ一か月遅れで刈り入れが出来そうだ。


各集落の復旧支援に携わった黒・白・青・小夜・桜・梅・椿そして平太と惣一朗はすっかり人気者になっていた。

『桜殿~嫁に来てくだされ~』

『平太ちゃ~ん!うちの壁も直して~』


どこの集落に行ってもこんな感じだが、どうも女性陣を三女神と組み合わせて楽しんでいるフシがある。

つまり青・桜・梅の組み合わせと、小夜・白・黒の組み合わせになるのだが、こうなると面白くないのがどちらにも入れなかった椿だ。

別に椿がハブられているわけではなく、単に平太や惣一朗に交じって作業することが多かったことと、どうもまだ二次性徴と無縁なことが原因だろう。

つまり男の子と思われているわけだが、まさかそんな理由を椿に伝えると大炎上するのは目に見えている。


そんなことを里の母屋で夜に話をしていると、青が静かに語り掛けてきた。

「だ・ん・な・さ・ま?そういうことでしたら私も少々お話が」

改まってどうした?と思って青の顔を見ると、全然静かな顔ではなかった。どちらかというと青筋が立っているほうの顔だ。


「どうして男どもは桜や梅には優しい口調で話しかけるのに、私の前では堅苦しい口調になるのでしょう。というか、私は嫁に来てなど言われたことがありませんが何故です!」


え……そりゃあれだ……


「怖いからに決まってるだろ?安心しろ?俺も言われたことはない」

横から口を出した紅が、火に油を注ぐような発言をする。がどうやら火は油で冷やされてしまったようだ。

「怖い……怖いですかねえ……」

もっともセックスアピールの強い(主に胸と尻で)青と紅が求婚されないということは、もっと違う原因のような気もするが…


「年増だから」

あ……黒……それは言っちゃいかん。


『はああああああ?年増ってどういうことかな?』

ほら見ろ……青と紅がハモるなんて初めて見たぞ。


「だ・ん・な・さ・ま?私は年増ですか??なぜ私の外見をこうされたのですか!」

「タケルの蔵書を解析した結果、タケルの嗜好は青姉の外見年齢と紅姉の外見年齢の間にあることが判明している。青姉は十分“すとらいくぞーん”だと推定される」


黒よ、お前絶対ストライクゾーンの意味わかってないだろう……それはそうと、黒は堕としてから持ち上げるタイプだったらしい。

だがそれで通用するほど青は単純では……

「ほほう?意味はわかりませんが、要するに旦那様の好みには合致しているわけですね?」

「そりゃ合ってるに決まってるだろ?タケルが創り出したのに、わざわざ嫌いな顔に作るわけないじゃん」


それを聞いた青のコメカミ辺りから青筋がスッと消えた。

あれ?意外と単純だったか青姉さん。


「そうですね。旦那様の好みに合っているなら事もなしですね」

そう言った青の目が白・黒・紅を順番に見て、自分の胸元に注がれる。と、青が首を傾げる。

「ああ、それ俺も気になってたんだ」


何やら不穏なコトを紅が言い出す。

「タケル!おっぱいが大っきいのとちっこいの、どっちが好みなんだ?」


青・黒・白、そして小夜がそれぞれの胸元に目をやり、そして自分の胸元に視線を移す。

一瞬の後に全員がこちらを向いた。それはもう効果音を付けるならバッっという一音しかない。


「旦那様?旦那様はもちろん、ふくよかな胸がお好みですよね?」

「何言ってんだ。当然俺みたいなツンと上を向いたのが好きに決まっている!」

「え~なんか掌に収まるぐらいがちょうどいいって、タケル兄さんの持ってる本に書いてあったよ?」

紅は何故時折こういう荒立てるようなことをいうのだろう……


「本と言えば、“寄せて上げる下着”というものがあるらしい。それがあれば皆“だいなまいとぼでぃ”になれるはず?」

「え、なにそれ黒ちゃん、私興味ある!」

「小夜の控えめな胸にも谷間ができる……かもしれない。実は試作してみた。でも支えに使う素材が見つからない。竹では満足な反発力が得られない」


まあ竹では再現は難しいだろう。

薄くすれば弾力が得られず、弾力を確保すれば肌触りが悪くなる。高反発性高分子などがいいのだろが、高分子化学を始めるにはまだまだ資機材が足りない。

今の段階で得られる天然素材と言えばゴムか……南方に行けば自然に生えているだろうが、里に持ち込んで殖やせるだろうか。あるいは海の生き物に目を向ければ……クジラのひげ


「クジラのヒゲとな……??」

あ……声に出ていたか。黒が喰いついてきた。

「ゴムというのも気になるけど、南方で育つなら採集は来年でいい。クジラにヒゲが生えているとは初耳。何か特殊なクジラがいるのか?」

「いや、髭というのは俗称だ。正確には口の周りの皮膚が歯のようになったものだな。大きな口で小魚やプランクトンを海水ごと丸呑みにして、獲物だけを漉し取るように髭状になっているからひげという」


「クジラって海にいるでっかい魚だろ?食えるのか?」

紅はどちらかと言えば狩りの対象として見ている気がする。

「ああ。肉を食うだけじゃなく、上質の脂も採れるし皮や骨も工芸細工に使える。利用価値がない部分は無いぐらいの獲物だな。あとクジラは魚じゃなくて馬やヤギと同じ哺乳類」

「よし、じゃあ俺の仕事だ。黒と白も協力するだろ?」

「もちろん」「谷間のためなら頑張る」


翌日から早速紅達はクジラ狩りの準備を始めた。


黒と白は他の作業の傍らで精霊を飛ばし、玄界灘を上空から監視し始めた。

紅は黒と小夜の協力を得て、もりの制作に取り組んでいる。

まったく、美への追及というか執念は恐ろしい。



俺はそんな女性陣を放りだして、子供達と一緒に秋の実りを収穫する。

山にはシイの実やクリ、アケビなどが大量に実を付けた。

木の根元を探せば、自然薯じねんじょも見つかる。

自然薯とクリは里の作物に加えてもいいかもしれない。自然薯があれば料理の幅が広がるだろうし、クリは正月料理には必要だ。

里の3回目の稲刈りが始まるまでの間、俺達は一時ひとときの実りの秋を満喫した。


領内の稲刈りが終われば、いよいよ本格的に農業指導を始める。

一連の台風からの復旧支援で、里の者たちは領内に十分受け入れられた。この調子で農業指導も受け入れてくれると助かる。

農業指導と並行して、里の稲刈りと秋撒き作物の植え付け、そして冬の備えを始めなければならない。

一気に農繁期となる。

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