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106.台風被害からの復旧

翌日からは領地内の復旧に勤しむ。

といっても、少なくともあと2回は台風がくることが確定しているから、被害の拡大を防ぐ応急処置のほうがメインだ。

メンバーは黒、白、青、平太、惣一朗、椿。桜と梅は交互に出てもらうことにした。


今回の台風で氾濫はんらんしたのは、穂波川ほなみがわ大分川だいぶがわ内住川ないじゅうがわが合流する地点だ。

氾濫というより、堤防を越えて水があふれたわけではないから、溢水いっすいというほうが治水学的には正しいのだろうか。

まあ言い方はどうあれ、原因は複数の川が合流して流れが変化する場所に土砂が堆積し、水深が浅くなって、下流に流せる水量が減ったためだ。

よって、対応策は二つある。

川岸に堤防を築くか、川床かわどこを掘って水面を下げるかだ。


しかし、問題もある。堤防を築くと堤防の外側に水を引くことが難しくなる。水面を下げるのも同じだ。

さて、この現場を見て、黒はどう判断するだろう。

自分で作成した地図と測量結果を照らし合わせながら、黒がしばらく考えている。


「タケル。土の精霊を使って、川床の土砂を掘り出すことは可能?」

「ああ。可能だ。今回は事情が事情だからな。力の行使は無制限だが、行使する力で作り出す物は人力でも時間さえ掛ければ作れる物にしてくれ」

「わかった。青、一時的に水流を調節して、川床を露出させることは可能?」

「そうですね……川幅の1/3ずつなら可能……ですね。ただでさえ増水しているので、このまま全部遮断すれば一気に溢れ出します。半分でも危険でしょう。ただ1/3程度なら、さほど危険もなく実施できるかと」

「それなら、こうする」


黒が出した結論は『川床を掘り、掘り出した土砂を蛇篭じゃかごに詰めて堤防を築く」だった。


そうと決まれば早速作業に取り掛かる。

まずは川の水面の状態から、最も浅くなっているであろう部分を見つける。水流が盛り上がり、大波を立てる部分が馬の背状に浅くなっている。

青の力で水流をブロックしたエリアを作り、その部分の川床を一気に2m程度掘り下げる。

川床が浅い部分で同様の作業を繰り返しながら、大岩や倒木なども一緒に回収する。


穂波川と大分川、穂波川と内住川の合流地点それぞれで、同じ作業を行う。

その結果、延べ200mほどに渡って、川床から掘り出した土砂や岩・倒木が川岸に積み上げられた。

せっかく岩や大きな倒木があるのなら、基材として活用しよう。

川岸に岩を並べ、倒木を杭替わりに打ち込む。

掘り出した土砂を砂・砂礫・石・泥に分け、砂礫と石を蛇篭に入れ、川側に並べていく。

並べ終わったら、蛇篭と岩の隙間を砂と泥を混ぜたもので埋めていく。


あとは笹を植え付け、一気に繁らせる。笹の根が蛇籠や砂の間に張り巡らされ、強固に結び付けられる。

こうして即席ではあるが頑丈な堤防が完成した。

多少歪ではあるが、遠目には自然堤防に見えなくもない。


次は水路に流れ込んだ土砂を回収し、近くの空き地に積み上げていく。これを怠ると結局はどこかで水が溢れてしまう。

水路の処置は住人達も総出で参加させる。

近隣の集落にも使いを出し、同じように水路に流れ込んだ土砂を回収させる。


こういった土砂には山の栄養素が大量に含まれているから、ただ流出させては勿体ない。本来ならブルーシートでも掛けておきたいが、そんな良いものは存在しない。稲刈りの後か田起こしの時にでも鋤き込ませよう。



水路の処置は住人達に任せて、次の被災地である御牧川下流域の中州に向かう。


中洲に住むのなら増水による水害は当然予見しているはずだが、この中洲の集落は特別な備えはしていないようだ。


集落というか中洲全体を堤防で囲ってしまえばいいが、それには莫大な資材が必要だ。

あるいは、田畑が水没するのはやむを得ないとして、石垣などで住居の基礎を底上げすることで増水時の水面より上に持ち上げてしまう方法もある。


いずれにせよ、水没しない面積を増やせば、その分だけ行き場を失った水がどこかに溢れてしまう。

理想的には中州になど住まないほうがいいのだが、長年住み続けたであろう人々にその選択肢は突き付けられないだろう。


さて、当面どうするかだが……

「タケル、人命最優先で考えるなら、避難できる高台たかだいを作ればいい?」

黒が思い切った提案をしてきた。確かにその通りではある。水はいずれ引くのだから、その間に逃げ込める場所があればいい。


「この中州の住民の数はおよそ50人らしい。長期間生活するのならそれなりの広さが必要だけど、一時避難なら一人1㎡もあれば十分と考える」

そうだな。東日本大震災での被災箇所の避難施設の例では、被災直後の避難者一人当たりの専有面積は約1㎡程度だったと何かの記事で読んだ記憶がある。当然ギリギリ寝られるかどうかという広さにはなるが、この際やむを得ないだろう。


「それなら、将来的に堤防を作ることも考えて、川沿いに高さ2mほどの高台を作ったらどうでしょう。幅2mぐらいにしておけば、十分避難場所としても使えると思います」

一連の話を聞いていた平太が提案してきた。

「具体的に構造はどうする?まずは外観からでいい」

黒が確認する。

「はい。住民たちが登りやすくしなければいけないので、内側は階段状にします。梯子をかけてもいいですが、緊急時に梯子まで届くかは不明なので、梯子は備えるだけでいいと思います。外側の川に面する側は水流に耐えなければならないので、突起部は望ましくありません。そこで60°ぐらいの平面にして、笹やくずを生やします」

おや……平太は土木工事の才能があるか。

「タケル。今の平太の提案に私も賛同する。基本コンセプトはその方向でいい?」

「ああ。将来性も見越した良い提案だ。その案で行こう」


「平太。避難場所の内部構造はどうする?」

「まず2m間隔で杭を打ち、杭の間と内側の水平を出してから、石を詰めた蛇篭じゃかごを置きます。蛇篭を積み上げることで、内部構造とします」

「蛇篭を作るのにかなり時間が掛かるが、それは複写すればいいと思う。あまり大きいのを一か所に作っても、避難が大変になるだけだから、中州の四方に作ろうと思う。大きな一か所を作るよりも時間も短くて済む。タケル?それでいい?」

「ああ。よろしく頼む」


こうして、長さ15m×幅15m×高さ2mの避難所が4か所完成した。中州の縁に沿って築いたから、将来的にこの避難所を繋いでいけば中州をぐるりと取り囲む輪中が完成する。

輪中によって減ってしまう遊水量は、別の場所に遊水池を設けるか、河川改修により排水量を増やすなどして補填するしかないが、それは今後の課題としよう。


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