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101.ピクリン酸からDDNPを合成する

さて、いよいよ有機化学実験っぽくなってきた。

コールタールを掘り起こしているときなど、およそ化学実験とは無縁の雰囲気だったが、ここからは白衣の似合う作業になる……といいが。


コールタールから得られたフェノールの結晶に硝酸を加え、加熱する。

するとフェノールがニトロ化され、2,4,6-トリニトロフェノールつまりピクリン酸となる。


このピクリン酸に水酸化ナトリウム水溶液を加え中和すると、ピクリン酸ナトリウムとなる。


この作業を小夜と黒にやってもらっている間に、次の工程で使用する硫化ナトリウムと塩酸、亜硝酸ナトリウムを準備する。


まず、塩化ナトリウムNaClと硫酸H2SO4を500℃以上で加熱し、発生するガスを水に吸収させる。

これで硫酸ナトリウムNa2SO4と塩酸HClを得る。

NaCl+H2SO4→Na2SO4↓+2HCl↑


次に、得られた硫酸ナトリウムをコークスで還元し、硫化ナトリウムとする。

Na2SO4+4C→Na2S+4CO


亜硝酸ナトリウムは硝酸ナトリウムNaNO3を鉛と一緒に加熱し、生成した酸化鉛を高温で濾過すれば得られる。

NaNO3+Pb→NaNO2+PbO


こうして得られた硫化ナトリウムと塩酸を使い、DDNPを合成する。


まずピクリン酸ナトリウムを硫化ナトリウムで還元し、ピクラミン酸ナトリウムとする。

このピクラミン酸ナトリウムに塩酸を加え、亜硝酸ナトリウムでジアゾ化すると、沈降物を得る。

沈降物を濾過し、水洗してから乾燥させると、さらさらとした軽い黄色の粉末となる。


これがジアゾジニトロフェノールつまりDDNPだ。


では、この粉末を使って雷管を作る。


まずはDDNPを湿らせ、暴発の危険を抑えた状態で珪砂の粉末を混ぜる。

この混ぜた原料を一円玉ぐらいの大きさに成型し、冷暗所でゆっくりと乾燥させた。


ここからは小夜と黒のお待ちかね、爆破実験だ。

乾燥を終えた成型物を河原に持って行き、やじりを外した矢に取り付ける。

その矢を小夜が弓につがえ、10mほど離れた岩に狙いを定める。


「撃ちます!!」

小夜の放った矢は狙いたがわず岩の中心に命中し……


ドンッ!!


良い音で起爆した。まずは成功だ。


「タケル?苦労して作った割には爆発が小さい。少し不満……」

黒がいぶかにこちらを見ている。

雷管というものを説明はしていたが、理解はしていなかったのだろうか。


猟銃の弾薬を取り出し、説明する。

「今作っていたのは雷管と言って、綿火薬や黒色火薬を爆発させるための起爆薬だからな。雷管は弾薬のこの部分のことだ」

そう言って黒と小夜に弾薬のキャップ部分を示す。円筒型の薬莢のお尻にある、厚さ5㎜ほどの部分だ。


「銃から弾丸が発射される仕組みは、まず撃針が弾薬のお尻にある雷管を叩き、その衝撃で雷管中の点火薬を起爆させる。その起爆が引き金となり、薬莢内の発射薬が起爆する。そして先端の弾頭部分が飛び出す。ここまではいいか?」

「いい。だからちょっとの爆発でいいってこと?」

「そうだ。その代わり、起爆する条件が大事だ。例えば落としたりぶつけたりするだけで爆発するようでは困る。しかし一定の条件下では、例えば撃針でピンポイントを叩いたりすれば確実に起爆しなければいけない。だから、ここから先が腕の見せ所だ。DDNPに混ぜる材料や比率、雷管の構造によって、信頼性が変わってしまう。それに発射薬と炸薬との組み合わせも考えなくてはな。しばらく検討が続くぞ」


ここで黒が首を傾げて確認するように聞いてきた。

「ってことは、またトライ&エラー??」

「そうなる。その検討を黒と小夜に任せたい。どうだ?」

「任される」

「もちろんやります!!」


二人ともさほど大きくない胸を張って応えてくれた。

とりあえず感謝と期待を込めて、二人の頭をワシワシ撫でる。

あと、さほど大きくない胸と表現したのは絶対に秘密だ。



里への帰り道、少し先を歩く小夜と黒の会話が聞こえてくる。

「でもやっぱり、ズッガーン!!とかドッカーン!!って大きな爆発のほうが気持ちいいよね!」

「そう。ちょっと期待外れだった。火薬の代わりに、あの"ぴくりんさん"とか"でぃでぃーえぬぴー"ってのを詰めてみたい。きっと気持ちいい」

「黒ちゃんもそう思うよね!タケルさんは怒るかもしれないけど、こっそりやっちゃう?」

「やっちゃう?ちょっとなら実験の範疇。作り方はメモに残した」

「でも怒られるかなあ……怒られたらどうしよう……」


怒られるとわかっていてもやってしまうのが若さなのだ。

しかし怪我だけはするなよ……


結局、黒と小夜はやらかした。里の馬がびっくりして走り出すぐらいの爆音を轟かせてしまった。

まあ怪我をしなかったのは幸いではあったが。

青にこっぴどく叱られながらも、また季節柄の夕立に会いながらも、二人は半月ほど掛けて炸裂弾と榴弾を開発した。


あとは炸裂弾や榴弾を撃ち出す銃や砲の開発だ。

少しずつ暑さが去り、秋の気配が感じられる。もうすぐ台風シーズンがやってくる。


去年の台風シーズンは、この地域では飢饉が起きるほどの水害があったらしい。

今年はどうだろうか。

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