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星姫計画  作者: クンスト
Ver2.00 第一章 イリーガルナンバー035 剣道姫 蜜柑《マンダリン》の場合
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転入一月目 蜜柑-2

 朝っぱらから余計な体力を使いガス欠となった俺達は、ぞろぞろとチューブ形状の廊下をただよう。


「そんなにお腹をかせなくても大丈夫ですよ。星道学園の食堂の味は悪くないはずです」

「別に空腹という名のスパイスを求めていた訳ではない」


 廊下の先で俺達を待っていた無花果いちじくの案内で食堂へ向かう。チューブ廊下を一本進んだ先という近場、徒歩三十秒圏内というのはありがたい限りだ。


「ここが食堂です」


 清潔感はあるものの飾り気のない殺風景な部屋という印象だ。広さも足りておらず、男子生徒だけで席がすべて埋まる程度……というのは誤解か。無重力を活かして壁にも席が設けられている。九十度曲がった相席というのはなかなかに新鮮だ。

 部屋の三面を席にしている所為でどうしても狭苦しいからだろう。天井だけは席ではなく大型ディスプレイとなっており、自然豊かな湖畔の映像が投影されている。


「あれ、メニュー表は?」

「席にありますよ」

「あれ、受け取り口と食堂のおばちゃんは?」

「席に直接運ばれてきますよ。食堂のおばちゃんは調理ロボが担当しています」


 システムが星姫学園とは異なるらしい。AI主導の人工島の割に人間を雇用可能な部分は人間により運営されていたのが星姫学園であるが、星道学園では効率重視だ。おそらく、俺達以外の人間はいない。

 なお、質問に対して無花果いちじくは丁寧に答えてくれている。この超高度AI、生徒会長と自称していたので敵の大将のはずなのだが、敵意が皆無だ。


「どこに座ってもいいのか?」

「はい。どうぞお好きな席を選んでくださいね」


 興味から壁の席を選んで座る。程よく吸着する謎の椅子のお陰で座り心地は案外悪くない。俺から見て九十度傾いた位置に座る男子共はやはり違和感だが。

 座ると共に天板にメニューが投影される。AからCの定食が絵付きで解説されており親切だ。


「解説してくれるのはいいけどさ。どれも同じ2LDKな間取りのトレーに、彩色だけ違うペーストが乗せられた写真しか無いのは誤掲載だろ」

「いいえ、武蔵君の視覚野は正常です」


 鯖味の白いペーストがA定食。

 マーボー味の赤いペーストがB定食。

 C定食は無着色の自然派らしい。実に心弾まない。今更ながらに人工島の食事は人間への配慮が充実してい……いや、料理クラブ、お前は駄目だ。

 ディストピア風味な外見の定食ラインナップから、いつもの習慣でC定食をチョイスした。

 確定後にブラックアウトした天板が左右に開いて、熱々のトレーがせり出してくる。待ち時間がミリ秒なのは優秀である。どうして見た目に対してその気配りができなかった。


「ミキサーしたカリフラワー?」


 ペーストではなく比較的形を有する区画にスプーンを突き刺して掬う。そぼろ状の何かを口に含んで味わった結果、想定外の味蕾を刺激される。


「いや、これは……唐揚げ?」

「今日のC定食は唐揚げ風ですからね」


 絶対に油で揚げていないはずなのに唐揚げの風味がある。醤油とニンニクをもみ込んで味付けした鶏の味だ。

 美味いか不味いかで言うと美味いに分類されてしまうのが気に食わない。いや、食っているのだが。どうやってそぼろ状の白い断片ごときでジューシーさを再現しているのだろう。


「せっかくここまで味を再現できるのに、どうして見た目は最悪なんだ」

「そういった人類の要望に応えるホログラム機能が……はい、どうぞ」


 目前のトレーに重なるように3Dホログラムが投影された。

 何て事でしょう、無形のペーストが揚げたてで湯気の立ち上る唐揚げに。別のペーストゾーンは艶のある白米に。やや茶色いペーストは副菜の筑前煮に変貌へんぼうだ。

 すごい科学技術だ。

 だが、そうじゃない。目隠しして食材を当てるゲームが番組になるくらいに人類は馬鹿舌とはいえ、見た目も含めて料理は完成する。食事と栄養摂取には明確な差があるのだ。


「培養肉を三ミリ以上まで育てるのはコスト的に見合わないですから」

「肉ですらないのか」

「いえ、培養肉も肉ですよ?」


 試験管ベイビーな俺達としては微妙に否定しづらい。屠殺場に突入するタイプの原理主義なビーガン共も、産道を経由した事のない俺達には文句を言うまい。

 あえてホログラムを停止してから栄養摂取にいそしむ。

 俺達の立場は不明なままであるので、飯を食べられるだけでもマシだろう。他の席でも男子達が微妙な表情で定食を食べ始めている。



「あ、あのぅ。すみませんがスプーンではなく箸か、せめてフォークを……」



 いや、食事を始められない奴等もいる。サイコキネシス系メンバーが溶け落ちたスプーンを手に迷子の子犬のような目を周囲へ向けていた。あいつ等、スプーンに対してはオートで念動力が働くからな。


「これが超能力……。知識としては知っていましたが、こうして見せられると超高度AIでも驚きですね」

日向ひゅうが達だ。すまないが、割り箸でも用意してやってくれ」

「すみません。木材の備蓄はありません」

「スプーンフォークがあれば、それでもいい」

「先割れスプーンなら」

「そっちはスプーン範疇はんちゅうだからダメだったはず」

「あの、スプーンフォークが良くて先割れスプーンが悪い理由をAIにも分かるように説明してもらえないでしょうか」


 飛んできたドローンが日向に先割れスプーンを届けたものの、やはり指先で触れた途端に溶けて掴めない。結局、サイコキネシス系には蓮華れんげが用意された。


「どうして蓮華はOKなのですか……」

「超能力って不思議だな」

「武蔵君もその不思議パワーを持っているのですよね。今度、見せてくださいよ」


 当たり前のごとく対面に着席している無花果いちじくは、A定食の鯖ではない鯖を食べ始めた。

 せっかくなので食事中の雑談がてら、俺達の状況について問うとしよう。


「あのさ、まったく状況を呑み込めていないから、そろそろ教えてくれないか?」

「分かっていない割には順応して食事まで摂っていません? 正直、驚きです。新しい家に連れて来られたばかりだと水も飲まないものかと」

「猫か何かか」

「多くは特優先S級秘匿コードにより語れませんが、教えられる範囲を伝えるなら、星姫学園男子生徒には私達の星道学園に転入してもらいました」

「承諾した覚えはないぞ」

「承諾をもらおうとした覚えも私のメモリーにはありません」


 言葉にするのも野暮なくらいの強制であり、拒否権も当然ながらない。


「星道学園は何だ?」

「星姫学園の姉妹校のようなものです」

「どうして転入させられる。転入させて俺達に何をさせたい」

「理由は――特優先S級秘匿コードに抵触です。転入してやっていただきたい事は、特にありません。自由に学園生活を過ごしてください」


 思わずスプーンから唐揚げ風味のそぼろをこぼす。

 対照的に何食わぬ顔で鯖そぼろを食べている無花果いちじく


「なんだそりゃ??」

「理不尽な要求である事は自覚していますが、諦めてください」

「何もかも秘密か」

「そんな事はありません。私のスリーサイズは70・55・65です」


 な、なんだ、この女は。ガタッと音を立てて全席の男子が立ち上がったぞ。まったく恥ずかしげもなく、しれっとF型AI実体の寸法を明かしやがって。むしろ、明かされた側の俺達の方が恥ずかしくなってしまう。

 無花果いちじくの誠意と勇気を称えて、俺は唐揚げ風味のそぼろを、そっとおすそ分けする。


「まあ、食べて栄養をつけろよ」

「嫌味ですか」

「嫌味だと捉えられるくらいに後ろめたいなら、理由を言えって」


 結局、無花果いちじくは何も語らずに食事を済ませた。




 食事を終えてゾロゾロと男子共が食堂から出てきた直後、騒音を響かせて出てきたばかりの食堂が隔壁封鎖されていく。


「使わない区画はアーカイブしてスペースを有効活用しています。星道学園ならではの機構です」


 宇宙空間に存在するのだろうと予想される星道学園。

 宇宙船と言えば狭い居住空間が定番だ。使い終わった部屋を折りたたんで体積を確保する必要があるのだろう。無駄に凝っているところにAIらしさがある。


「朝食に時間をかけすぎましたね。もうホームルームの時間です。急ぎましょう」


 未来的なチューブ状の廊下を一区画進むと、食堂に似た感じの別の部屋に到着だ。

 窓から中を覗き込んで少し息を飲む。十人くらいの女子生徒が着席していたからだ。彼女達は、星姫学園を襲撃した女子生徒と外見の特徴が一致している。



「ちぃ、ようやく来やがった」

「人類おっそーい」

「あー、かったりー」


 ……微動だにせず背筋を伸ばして座っている生徒もいるが、机の上に足をのせてブラブラさせていたり、机同士を合わせてカードゲームに興じていたりする生徒もいる。星姫学園と比較すると治安が悪いな。

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― 新着の感想 ―
御影君の視覚野は正常です…御影っこっこいついつの間にこんなところに…進みすぎた科学は魔法と変わらないと言うし超高度AIって魔法少女だったのか…
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