七月目 莢豌豆-8
女湯の脱衣所から学生服を怪しまれずに運び出す方法。超能力を用いなくても手軽に実行できる方法がある。
「真犯人が女子生徒であると仮定した場合、真犯人は学生服を自分で運び出した可能性が高くなる」
「女子生徒が制服を盗む理由がさっぱりなんだが」
「理由は一先ず置いておこう。重要なのは犯行できる否か。動機は犯人を確定させてから教えてあげよう」
当たり前過ぎて見落としていたが、入浴前後で着替えを持ち運ぶのは普通の事だ。外から見えない袋を持ち運んでいるのも至極自然な行動である。
「胡麻が入場してから事件発覚までに大浴場から出て行った女子生徒の誰かが真犯人??」
映像を再度確認して注意深く退場した女子生徒の顔を確認して、しっかりとメモに記録する。
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十時四十九分、竜髭菜退場。学生服。空手。
十時五十四分、菠薐草退場。学生服と鉢巻。袋所持。
十一時四分、大豆退場。浴衣に白衣。バスタオルを首に巻いて手には袋。
十一時八分、芽花椰菜退場。浴衣。空手。
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「犯人はこの四人の中にいるのか」
「この四人の中からも絞り込みは可能さ。芽花椰菜は再入場だったため浴衣で入場していて、着替えの入った手荷物を持っていない」
「つまり三人……」
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十時四十九分、竜髭菜退場。学生服。空手。
十時五十四分、菠薐草退場。学生服と鉢巻。袋所持。
十一時四分、大豆退場。浴衣に白衣。バスタオルを首に巻いて手には袋。
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「竜髭菜も手ぶらだね。せっかくの林間学校なのに、浴衣に着替える気がないようだ」
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十時五十四分、菠薐草退場。学生服と鉢巻。袋所持。
十一時四分、大豆退場。浴衣に白衣。バスタオルを首に巻いて手には袋。
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二人に限定された。ここからはどうやって絞り込む。
「菠薐草は二回、大浴場を訪れているね。一度目は何かの用事があって出直したのだろう。行動に怪しさはない」
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十時五十分、菠薐草入場。学生服と鉢巻。袋所持。
十時五十四分、菠薐草退場。学生服と鉢巻。袋所持。
十一時十一分、菠薐草入場。学生服と鉢巻。袋所持。
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「――と言いたいけど、大豆にあって菠薐草にない出来事が決め手だね。間違いない、菠薐草が真犯人さ」
「建築姫が、まさかっ」
「妹が犯罪に手を染めていた。悲しいけれど、お姉さんは探偵姫だから彼女が犯人である理由を示そう」
莢豌豆は何をもって真犯人を特定したのか。大浴場を出て戻ってきただけでは犯人とは言えない。こう言っているではないか。
「菠薐草は着替えていない。おそらく、動機もそれ絡みさ」
「――御用ですよ。シリアルナンバー013、菠薐草! 窃盗の罪で逮捕します」
「離せっ! 生徒会の犬めっ! 俺は悪くねぇ」
「同時に実体の不法改造容疑でも逮捕です。体の見えない所にアームを追加して何を考えているんですか! 実体の腕は二本、足も二本まで。余分なアームは校則違反ですよ」
「うっせぇっ。生徒会がいつもいつも無理な期日で依頼してくるから、手が足りねぇんだよ!!」
真犯人の菠薐草は風紀委員の小麦に連行されていった。林間学校が始まってから風紀委員の出動率が高いな。
無罪が証明されると共に晴れて釈放された俺は、助けてくれた探偵姫にシャバでお礼を言う。
「ありがとう、莢豌豆。今回も救われた」
「なんのなんの。お姉さんにとっては難しい事ではなかったさ。さあ、お祝いに飴ちゃんをあげよう」
チェック柄のマントを揺らして廊下を歩いていく探偵姫に、どうして菠薐草が凶悪事件に手を染めたのか、動機を訊ねる。犯人が捕まってもよく分かっていない。
「菠薐草は実体を違法改造していたのさ。だというのに入浴を強制されて困ってしまった。裸を他の姉妹に見られて違法改造を知られたくなかった。だから、窃盗事件を起こして有耶無耶にしようとした」
なんて自分勝手な理由で事件を起こしたんだ、建築姫。彼女をそこまで追い込んだ生徒会には働き方改革を強く求める。
「胡麻の制服を盗んだのは、他の姉妹相手だとロッカーの開閉ログの消去といった情報戦で必ず勝てる見込みがなかったからだろうね。可愛い妹を狙うなんて酷い話さ」
胡麻は年始の哲学的ゾンビ事件の際にも姉の黒米よりハッキングを受けていたような。不憫な第三ロットである。
動機も理解できて事件はすべて解決だ。
ウィンクと甘い飴だけを残して、莢豌豆は去っていく。事件が解決すれば探偵はただ去るのみなのだろう。
「いや、全部解決していないか」
振っていた手を握り込みながら俺は探偵の背から視線を外して、遠くを見る。
俺を変態扱いした男子生徒共をボコして、ようやくすべて解決だ。被害者の心の解決にはまだ時間がかかる。
合成食料横領事件。
制服窃盗事件。
二つの怪奇事件の解決により林間学校は平和に進行する。誰もがそう勘違いしていた。事件はもう終わったのだと信じていた。
……そんな保証は誰もしてくれていないというのに。
「――キャアアアアアアぁあアッ?!」
事件は三度発生するのだ。悪い事に、三度目の事件ではついに犠牲者が現れる。
怪奇事件の舞台となった湯舟に、白い長髪が広がっている。
髪を辿ったその先で、呼吸の停止した女性が裸体のままピクりとも動かず沈んでしまっている。




