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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XX年三月後半 シリアルナンバー008 探偵姫 莢豌豆《フィールドピース》の場合
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七月目 莢豌豆-4

 厨房を目指した俺と探偵姫、莢豌豆フィールドピース

 せわしなく働く仲居ロボットが来た方向を辿たどって厨房を発見できたのはよかったのだが、目的地より間延びした深刻な声が聞こえてくるではないか。



「事件だわー。困ったわー」



 この声は里芋さといもの声で間違いない。彼女が困っているなんてよっぽどだぞ。


「ワトソン君、事件のようだ。どうやら君の言う通り、事件は会議室でも現場でもなく、厨房で起きていた」

「誰がワトソンだ。ついでに言うと、俺は事件が起きる前に解決したかったのであって、事件を探していた訳ではないぞ」


 世でうたわれている探偵姫であるが、俺は彼女の実力を知らない。学園ではただ飴をくれる気前のいい女でしかない。もしかすると、ただの噂でありキャラクター付けかもしれない。妹姫の芽花椰菜ブロッコリーという事例もある。

 何やら騒がしい旅館の厨房にお邪魔すると、里芋さといもが何も乗っていないまな板を前に困っていた。

 若女将の人参キャロット、エプロン姿の甘藍かんらんも集まっている。


「本当に困ったわー」

「いつ無くなったのでしょう」

「倉庫は施錠されていたはずでは? 開閉ログも記録がありません」


 様子と断片的に聞こえてくる言葉から察するに……夕飯の食事にされそうになった活きのいい食材が逃走したのだろう。命が奪われずに済んで良かった。



「違うわー。倉庫に保管されていたはずの食材が消えていたのー」



 こちらに気付いた里芋さといもが説明してくれたのだが、俺の想像した通りではなかろうか。


「生きた食材ではなく、長期保存用のお料理3Dプリンタのカートリッジが無くなっていたみたいで」

「カートリッジ?」

「はい。炭水化物や脂肪といった合成食材の詰まったカートリッジです。厨房の横にあるパントリーに相当数保管されているはずなのに、一箱も残っていなくて」


 人参キャロットいわく、倉庫から料理の材料たる合成食材カートリッジを紛失してしまったそうだ。

 確かにそれは困った問題だ。俺達は謎の合成食材から作られる原材料不明の疑似料理を食べさせられそうになっていたのか。名前だけ聞くとディストピア飯そのものだ。何らかの負荷を押し付けられるタイプのカートリッジの可能性すらある。


「安全性は保証しますよ。お肉じゃないのにお肉の味がしますし」

「ほ、本当に安全なのか、それ?」


 おかしいな。女子生徒の中でも人参キャロットは安牌のはずなのに不安を覚える。将来的に海岸で歌を聞かされてキレられそうな怖さをオレンジ髪に見たぞ。


「培養可能な合成食材は倫理観の問題をクリアしながら味も保証。衛生面や安全面、長期保存性さえも担保。それでいて専用3Dプリンターで染料と香料を用いて出力する事でどんな食材も再現可能。シェルター生活にこれ以上ないものですよ」


 若女将のプレゼンを聞くと確かに良さそうに思えてきた。いいでしょう、この見た目、余裕の新鮮さだ。などと3Dプリンターの出力サンプルを見せられてしまうと食欲を促進されてしまう。


「怪しいものではないと?」

「当然です。技術的には大豆を使った代替肉の延長にあるものですよ」


 我等の歌い姫の言う事だ。ここは素直に騙されようではないか。

 食材の安全性について騙されたところで、厨房で何が起きているのか事情聴取だ。

 紛失した合成食材カートリッジは袋形状。未使用状態なら自立するくらいに中身が詰まっている。身近な類似品は栄養ゼリーになるだろうか。

 カートリッジは数種類あって一セットごとに箱詰めされている。その箱が倉庫に山積みされていたはずが、発見時にはすべて無くなっていたそうだ。


「倉庫はどこにある?」

「厨房の奥にあります。いちおう、暴徒に奪われないように鍵が付いています。発見時も施錠されていましたよ」


 見せてもらった倉庫は食材の一時保管庫である。面積は厨房の半分もない。細い部屋で、移動用の道と棚しかない。


「出入口は一つだけか」


 空調用のダクトは存在するが、そこから大量にあった箱をすべて運び出すというのは現実的ではないだろう。

 つまり、この事件は――、



「――密室盗難事件、だろうか」



 莢豌豆フィールドピースはクスりと笑いながら事件を宣言した。

 密室盗難事件。聞き慣れない言葉であるものの、出来事を正確に表している。施錠された倉庫から大量の合成食材カートリッジの喪失。数え間違えはありえない。

 盗難とは穏やかではないが、実際に倉庫は空っぽだ。今晩の夕食が作れないという被害が出ている。


「困ったわー。お夕飯を作れないわー」

「別の保管庫に予備はないのです?」

「少し遠くて。速達でも間に合うか分からないわー。緊急事態―」


 曲がりくねった……曲りなりにも料理姫なので、里芋さといも忸怩じくじたる思いなのだろう。心中察して余りある。


「緊急事態だからー、生物の死骸を合成食材に変換する機械を――」

「総料理長は心を痛めておられますっ。あちらでお休みください!」


 若女将が総料理長を連行していった。これ、盗まれて正解だったのではなかろうか。

 超高度AIに対する不信感を強めていると、ふと、視線を感じた。

 厨房に残っている副料理長、甘藍かんらんの視線である。



「犯人は、貴方では?」



 ……ハハ、この同級生、何言っちゃっているの?


「おいおい、甘藍かんらん。人類嫌い勢だからって言いがかりは止めてくれ」

「人類に失望しているのはその通りですが、今は関係ありませんわ。最重要容疑者が貴方というだけの事です」

「どどど、どうしてっ?!」

「動機があり、手段があるからですわ。盗まれて安心したという表情をしましたよね?」


 マズい流れが俺へと来ていないか。


「犯人は現場に戻る。人類のテンプレート行動でもありますわ」

「俺に超高度AIが施錠した部屋に侵入する技術はないぞっ」

「貴方になくとも、貴方のお友達にはありますよね。そして、お友達も貴方と動機を共有する。怪しい材料の夕食を食べたくないという強い動機がありますわ」


 男子生徒の超能力があれば密室窃盗のような奇怪な犯罪もお手のもの。ノックスの十戒もあったものではない。

 特に瞬間移動の超能力者の薩摩さつまが共犯ならば、甘藍かんらんの言う通り犯行は可能だ。というか、合成材料を事前察知していたら実行していただろう。


「そ、それでも俺はやっていないッ」

「未成年にも使える自白剤はありますわよ?」


 黙秘権すらないというのか。超高度AIは容赦がないな。

 量子通信で風紀委員に通報されてしまった。最重要容疑者として連行されようとしている。弁護士を呼んでくれ、主犯は大和で俺ではないと訴えるのみである。



「……今泉君は犯人ではないよ。お姉さんが今から推理してみせよう」



 弁護士は現れなかったが探偵は現れた。

 莢豌豆フィールドピースはいつの間にかチェック柄のマントを羽織って、黒いパイプをハミハミしている。


「あの、俺は今泉君ではなく」

「彼は犯人ではない。理由は飴のように甘い。彼が犯人であれば密室にする必要性がないからさ」

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