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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XX年三月後半 シリアルナンバー008 探偵姫 莢豌豆《フィールドピース》の場合
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七月目 莢豌豆-1

新年明けましておめでとうございます。

新春特番はじまりました。読んで楽しんでいただければ幸いです。

 生暖かな湯に白くて細い、長い線が扇状に広がっている。


 綺麗に見えるだろう。

 鮮やかに見えるだろう。

 安らいで見えるだろう。


 であれば、湯床に沈む彼女も少しは報われるかもしれない。

 長髪を大きく広げながら、裸体で沈んだ彼女も少しは慰められるかもしれない。





 春うららかなる人工島は三月下旬。桃色の花が咲き乱れる季節の到来だ。

 つい先日までの寒さは急にどこかへと去っていき、エルニーニョな海流から立ち昇る湿気をびた空気により気温は急上昇し、外の気温は暑過ぎるくらいだ。

 太平洋を航行する人工島は北半球のみならず南半球に移動する事もあるので、季節は不規則に変化する。海での暮らしは曜日感覚を失わせるというが、人工島での暮らしは季節感さえ失わせるもののようだ。


「だから、金曜日カレーは大切なんだな。金曜日にコリアンダーを摂取する事により老廃物の排出を促進して、充実した土日を迎える事で曜日感覚を保つと」

「万年C定食の武蔵むさしに無関係な話して、どうした?」


 曜日や季節感覚はともかく、俺の腹時計はそこいらの原子時計よりも正確だからな。無関係にもなってしまう。


「校舎の中は空調が効いているとはいえ、外は熱帯性気候そのものだ。冬服から衣替えするべきか」

「……いや、天気予報によると今夜から気温がまた下がる。天気が荒れるらしい。波浪警報も出ていて沿岸付近は進入禁止のようだぞ」

「警報にかかわらず、戦闘の復旧工事で通行止めが続いているんだが」


 パーソナル端末で天気予報を見た限り、大和やまとの言う通り夜から下り坂だ。桃色の花びらに埋め尽くされた通学路も週末を待たずに散ってしまうな。残念である。

 予報では気温は二十度近くから一気に下がり、嵐が過ぎ去った後も氷点下になるという警告が出ていた。


「んっ? 体感温度はマイナス20℃以下??」


 冬が少しぶり返したのであれば氷点下もありえると言いたいが、警告されている気温が少々低過ぎる。というか経験した事のない寒さだ。いったい、人工島はどこへ向かっているのか。

 疑問の答えはパーソナル端末に送られてきた通知により判明した。

 人工島は補給物資積み込みとメンテナンスのため、秘密港――人類が知らないという意味での秘密――へと向かっている。

 場所は、南極大陸。

 サウスポートと超高度AI達が呼ぶ港が、氷の大陸には存在する。




「星姫候補って、巨大ロボットと星姫カードばかりを作っている訳ではなかったんだな、大豆ソイ

「酷い誤解を受けているようね。誰が選ばれても救済案を実現できるように世界中で同時進行的に準備を進めています」


 明かされた寄港地について詳しそうな女子生徒を探したところ、教室内に科学姫を発見した。特徴たる紫色の髪よりキューティクルが失われてやや疲労しているように見えるが、どうしてだろう。


「サウスポートに寄港した後は人工島のオーバーホールが待っています。演算しただけでも憂鬱になる作業量なのに、半月しか時間がないなんて」


 科学姫だけあって人工島の内部構造にも詳しいようだ。似た感じの悲壮感を建築姫の菠薐草ほうれんそうも漂わせている。ただ、あっちはもっと激しくて、犬歯をき出している。そっとしておいてあげよう。


「南極なんて物資補給に問題のありそうな場所に港を作るからでは?」

「『凶弾』の直撃確率が一番低くて、かつ、地球上で唯一人類の手が入っていないフロンティアという意味では好立地です。二十四時間稼働している採掘ロボットが資源をかき集めているので補給は気にしなくてもいいはずです」


 それ、南極条約的にどうなんだ。


「超高度AIは条約に調印していません。話を戻して立地のメリットを更に語れば、南極の低温環境に耐えられず島の下に住み着いた隣人が引っ越す事も期待しています」


 星姫計画の発令まで数か月という忙しい時期に人工島のオーバーホールをいた犯人は、今も俺達の足元に引っ付いているらしい。ヘラヘラと笑っている犯人の母親、南瓜パンプキンへと女子生徒の殺意が向かっていた。

 寄港地での補給とメンテナンスは二週間を予定している。島の広さを考えれば恐ろしく短い滞在期間だ。超高度AIにとっても短い納期なのでよっぽどだ。

 いや、人類救済の希望の島が人類の前から消える時間としてはむしろ長過ぎる。世界各地で大混乱と暴動が発生するぞ。


「対策は行っている。ダミーの人工島を本来の航路に浮かせているから、二週間くらいなら問題なく誤魔化せる」

「人工島のダミー?」

「スケールは多少劣おとるが、外観はかなり似せた島がある」


 大豆ソイは気楽に秘密情報を明かすようになったな。それ、人類に話してよかったのか?



「……学友ですので」



 男子生徒へと歩み寄ってくれた発言に、大豆ソイ自身が照れていた。




 降って湧いた南極行きに、まだ若い少年心が大いにくすぐられる。

 二〇XX年になっても南極は秘境の地位を維持している。寒くて交通の便も悪い。開拓するには不向きなため人類に踏み荒らされる事のなかった広大な大陸。冒険先としては非常に魅力的な場所ではないだろうか。


「人類の代わりにAIが荒らしまくっていそうだが」

「そんな現実の話はしていない。ロマンの話だ」

「寒いばかりの土地だろ。観光名所がある訳でもなし」

「分かっていないな、大和。南極には様々なロマンが今も息づいている」


 真っ白な外見の謎のUMA、南極ニンゲン。

 地下世界アガルタへと通じる巨大な深穴。

 登山者を誘引して捕食する狂気の山脈。

 科学技術全盛の時代においても、氷河の中には未だに多くの謎が取り残されているのだ。


「創作や空想ばかりだ。非科学的だぞ、武蔵」


 大和の発言を聞いていたのだろう。教室にいる超科学の結晶たる女子生徒が「エスパーが科学とか言ってら」という感じのヒソヒソ声をつぶやく。

 ばつが悪くなったのか、大和はロマンを否定するような無粋な真似を止めた。


「南極楽しみだなぁ」


 氷の大地に想いをせていたからだろうか。人類には聞こえない量子通信が騒がしくなった気がする。俺の思い上がりでなければ、特に生徒会長付近の席が騒がしい。


“――シリアルナンバー001より、マルチキャスト

 南極滞在をどのように工夫すれば私の人類達が楽しめるのか、プラン作成と提出を終わりのホームルームまでに行ってください。なお、最優先タスクでお願いします”

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