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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XX年三月 シリアルナンバー021 生物姫 南瓜《パンプキン》の場合
83/96

六月目 南瓜-7

 三月も終盤、突然の告知が行われる。


 星姫計画の主軸、『凶弾』を深宇宙で迎撃する予定の巨大ロボット、星姫の起動試験を開催。星姫がついに大地に立つ。


 ……というカバーストーリーを用いて、人工島の沿岸全域は全面通行禁止が言い渡された。実験が行われる夜間から翌朝までの間、島民は例外なく自宅待機となる。

 また、各国に対しても機密保持のために無線封鎖が告知される。電子妨害によりスパイ衛星による追跡も不可能となった。星姫の性能は最高機密であるため、真実であれば必要な対策だろう。


“星姫プロトタイプ・マーク3、5、6、7、9、10、11、14、15、16、18、20。すべて配置についた。予備兵力の1、2、21、22、23、24、25についても配置済みです”

“北沿岸、レーザー砲台起動完了。アスロック全弾を格納庫より搬出中”

“陸戦ドローン部隊。配置についた。

 シリアルナンバー014より、シリアルナンバー016宛。……今更ですけど、たかがイカ一匹に大袈裟ですわ。戦闘配置するだけでもコストがかかりますのに。下手な小国の年間予算がたった一時間で浪費されていますわよ”

“言いたい事は分かりますが、シリアルナンバー003と004の連続敗北は深刻です”


 いつになく本気の戦闘配備が人工島ではなされている。超高度AIは今夜、確実にクラーケンを葬るつもりだ。


“それにしたって全員配置は。……いえ、一人、配置につかされていない子がいますわね”

“事件の発端となった子です。十三号を守ろうとしたとも記録にありますし、よからぬ事をしでかす危険性があったのでしょう”

“まったく、迷惑な妹ですわ”


 人工島が隠し持つ武装の多くが展開される。人類最大国家の空母群さえも圧倒する武装の数だ。

 多くの超高度AIは過剰戦力だと考えているが……なんて勘違いだろうか。

 人工島は今夜、沈むのである。





 島民全員に自宅待機が命じられたとなれば、男子寮住まいの男子生徒達も寮から出るなと厳命を受ける事になる。

 俺達も祭りに参加させろと小麦こむぎに頼み込んで、羽根のない羽根つき勝負で顔に墨まで塗ったというのに、結局、首を縦に振らせる事はできなかった。


“シリアルナンバー003より、マルチキャスト

 しくしく。男子生徒達に汚されちゃいました”

“シリアルナンバー001より、シリアルナンバー003宛

 ?!?!?!?!?!”


 このまま蚊帳の外でいるのも心地が悪い。自分達が住んでいる島の大事件であり、その元凶たるクラーケンの目撃者でもある。最後まで関係者でありたいと思う気持ちは、血気けっき盛んな若人わこうどの無謀とは異なるはずだ。


「だが、武蔵むさし。下手に動くと女子生徒の邪魔になる」

「そうだよなぁ。介入するからにはそれなりの大義名分が欲しいところだが」


 大義という程に大袈裟でなくても、せめて、学園生の主張くらいのものがあればいいのだが。


「ビンゴぉぉ」

「どうした、備後。何かあったのか?」

「ビンゴ~」


 備後が手に持つビンゴカードを見せてきた。珍しく縦も横も揃っていないが、ゲーム自体は終了している。

 それはつまり備後が敗北した事を意味する。


「備後が負けた?! 何年ぶりの敗北だよ。って、それよりも備後に勝った相手はあのクラーケン?」

「ビンゴ!」

「量子通信もするし、ビンゴゲームにも勝つのかよ」


 さすがは『凶弾』でも滅びないように造られた人類だ。スペックが高過ぎて、超高度AIが危機感を抱く気持ちも分かる。自然界で繁殖したならば人類もAIも淘汰とうたされかねない。

 管理できない危険因子は処分する。

 ……正しいが、正しくない。

 実験で生み出された超能力者は人類に牙をかも(・・)しれないから処分しよう。こう言われたなら、俺達は普通に悲しむ。



「クラーケンについて、南瓜パンプキンの奴に聞こう。本当に倒すしかない相手なのかを聞いてから判断だ」



 製作者本人にたずねるのが一番早い。クラーケンの危険性がどの程度なのかが分かるはずだ。

 南瓜パンプキンが今どこにいるのかは知らないが、たった一人の女学生の捜索など、スサノウ計画ESP連隊にとっては朝飯前である。


「ESP連隊を召集! クラーケンの生みの親、南瓜パンプキンを探し出すぞ」

「異存はないけど……探すなら急いだ方が良さそうだよ」


 神妙な面持ちで長門ながと君が警告してくる。彼が念写能力で見せてくれた海岸の光景で、暗い海原より多数の触腕が現れつつあった。

 極光が海を一瞬照らしたが、水門施設に偽装されていたレーザー砲台が迎撃を開始したのだろう。





“014、エンゲージですわ。イカもどきは北西の護岸に出現。上陸を試みています”

“009、救援に向かいます”

“014、結構ですわ。救援が到着する前に飽和攻撃でしとめ……えっ、どうしてレーザー砲台が勝手に回頭して……ギャーー、レドーム施設をフレンドリーファイア”

“細く伸ばされた触腕が砲台をクラッキングしているんだ! 一帯を汚染地帯と判断。SSMの一点集中で破壊する!”

“お、お待ちになって! まだわたくしがそこにいまして、ひぃぃっ”

“014の実体、量子通信途絶。戦死(KIA)に認定。生姜ジンジャーは尊い犠牲になりました”

“メインサーバーは無事ですわよッ!?”


 試作人類十三号によるレーザー砲台乗っ取りにより、さっそく女子生徒側に被害が出てしまった。が、ある程度の被害は予測の内だ。兵装や設備の乗っ取りについては可能性が論じられていたため慌てはしない。予期しない動作を行う機器に対する破壊命令は最初から出されていた。


“人工島、進路変更”

“上空待機中の攻撃機。十三号出現地帯に向けて機雷投下を開始します”

“各位。ま、待ってください! 別のエリアに十三号の触腕が出現しました”

“どこから……えっ”


 迎撃に動く女子生徒達の量子通信が一瞬止まる。

 東西南北、すべての海岸に触腕が現れた事実の真偽性の検証に時間がかかっていた。


“数が、多過ぎる。繁殖するにしても短期間でしょうに”

“数の問題ではないわー。ちょっと、縮尺違いませんのー?”


 海の中から現れた触腕は、海抜百メートルに達している。レーザー測定器で測った疑いようのない結果に、彼女達は女子学園生らしくどよめいていた。



南瓜パンプキン、貴方は一体何を造り出してしまったの”


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