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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XX年三月 シリアルナンバー021 生物姫 南瓜《パンプキン》の場合
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六月目 南瓜-1

ゴールデンウィーク特番

南瓜編となります。

 人類を巨大隕石『凶弾』より救う術を探るべく、超高度AIの無制限演算が許可されたAI特区、人工島。

 運用開始からまだ五年と経過していない最先端の島である。島民千人弱に対して、稼働しているAIは五千、あるいは一万を超えるとも言われる。

 すべてがAI管理された島だ。科学で満たされた島であるため他の要素が入り込む余地などありはしない――超能力を操る男子学生などはバランも同じなので目を反らす。

 ……では、大いなる疑問が沸くのだが。

 目前に現れた巨大イカ、クラーケンの触腕はどんな科学技術の結晶なのだろうか。


「で、出たぁぁあっ!?」


 スクープ。南洋に浮かぶ人工島に出現する怪物クラーケン。

 海岸沿いの島民がランニングや散歩で親しんでいる遊歩道。そこからほど近い人工の海岸より、吸盤を有する軟体生物の触腕が現れている。二メートルや三メートルなどというダイオウイカごときの長さではない。海から現れている触腕だけで十メートルはありえる。海から遊歩道まで伸びているのに、まだ胴体が現れないのだから驚きだ。


「ほ、本当に出た! こんなにでかいなんて、イカ焼き何個分だ」


 海を見下ろしていたはずが、覆いかぶさるように伸ばされる触腕をいつの間にか見上げてしまっている。

 科学全盛の島でどうして怪獣級のUMAと遭遇する羽目になってしまったのか。それは昼休みにある噂を聞いたからである。



 ――数時間前、食堂にて


 星姫学園七不思議。

 これだけ科学の恩恵を受けている島に住んでいるというのに不思議は生じる。多くは見間違え、勘違いの産物でしかない。だからこそ本気で検証される事なく放置されていき、不思議は不思議として居残り、数を増していく。


「まだ春先なのに、七不思議で盛り上がるって気が早いな」

「八月には『凶弾』なんてリアルな恐怖が来るんだぞ。今しかもう盛り上がれるタイミングがない」


 人類のなんと余裕がない事だ。

 七不思議を言い出した出雲いずもを中心に、俺と大和やまと備後びんご因幡いなば。合計五人がつどう。


「具なし味噌汁が七不思議入りするような星姫学園七不思議に、期待はできないな」

「ビンゴー」

「いやいや、最近島内でも噂になっているんだって。目撃証言もかなりある」

「ネット検索しても出てこない目撃証言か」

「一部の主婦の方々が井戸端で噂しているんだよ」


 まるで検閲でもされているかのごとく検索ヒットしない七不思議。昼飯のさかなになるかも怪しいな。



「海に現れるんだよ。巨大クラーケン」



 クラーケンって、大航海時代の産物だったか。大型船を複数の足で羽交はがめにして海に沈ませる巨大イカの怪物だ。

 昔の航海事故率の高さから、船がクラーケンのような怪物に襲われているに違いないと人々は空想していた。が、現代の海に船を沈ませるような巨大イカが生息していない事は分かっている。せいぜいがダイオウイカ。七つの海よりロマンは失われて久しい。


「巨大イカの生息地は深海って聞くぞ」

「いや、浅瀬から足を伸ばしてくるって話だ」

「こっちは帆船とは比較にならない巨大な人工島だぞ」

「足だけでビルみたいな大きさだって話だ」

「ビンゴー?」


 明らかに話が盛られている。

 きっと真相は、偶然、深海から現れた巨大イカを岸近くで発見した、くらいなのだろう。それだけでも十分、ローカルニュースになる話題性はあるが。うまくいけば全国ニュースで十秒くらい報道される。

 ワザワザ真偽を調べるまでもない。


「まったくクオリティの低い七不思議だな。……で、目撃地点はどこだ?」


 中間試験くらいしか行事のない三月の学生は暇を持て余しているのだ。冒険心をくすぐってくれるのであれば真偽など気にしない。

 本日の放課後はこの五人でクラーケンの目撃地点。人工島の北の海岸遊歩道の調査だ。




「――海岸遊歩道は亀裂の補修工事のためにしばらく立ち入り禁止です」


 帰りのホームルームで、狙ったかのごときお達しが我等の生徒会長より下された。

 生徒会長の癖に教員や学級委員みたいな事ばかりしているな。我等の生徒会長。




 釘を刺されたくらいで学生は止まらない。バイクを盗んで走り出す、のは普通に犯罪で退くが、立ち入り禁止の海岸遊歩道を迂回して人工海岸に向かうくらいは造作もない。

 ホームルームが終わると共に海岸を目指した五人衆。

 まだ三月ながら緯度の低い南洋を人工島は航行しているため、あまり寒さを感じない。


「ここにクラーケンは住んでいるのか?」

「住んでいないと思うぞ。ここでイカを捕まえた事はないからな」

「武蔵の狩場に皆を連れてきてどうする。クラーケンを探しているんだぞ」


 そう言うが、学園の近場の海岸っぽい人工海岸はここしかない。他は整備されていたり岸壁みたいな場所ばかりだ。探すなら砂浜のある場所ではなかろうか。

 ぶーぶー言うだけの大和には発見できなくても、その他三名の強力な超能力ならばクラーケンの一匹や二匹、簡単に探し出せる。


「出雲、念聴能力を使ってエコーロケーションだ」

「俺はイルカと違って音の反射を捉えている訳ではないんだが」

「因幡は透視能力で海を探すんだ」

「ふ、任せておけ。魚も透かす俺の透視能力で探してみせよう」

「備後はビンゴゲームを持ったな。クラーケンの生息数をまずは占うぞ」

「ビンゴー」


 出雲は耳を立てて、因幡は伊達眼鏡をクイっと動かし、備後は携帯型の簡易なビンゴマシーンを回し始める。

 さっそく成果が出たのは備後だ。引き当てた番号は『1』である。


「おお、一匹か。やはりここにクラーケンは住んでいるみたいだな」

「ビンゴっ」

「……ちょっと待て。ビンゴゲームに『0』はなくないか??」


 大和の意見は聞いていない。お前は釣り竿でも垂らしているのだ。

 それから一時間ほど粘ってみたが、特にイベントは起こらない。出雲は「クラーケンの音ってどんなのだ?」と言うだけ。因幡は「オーシャンブルーさえ見えない。無色透明だ」と訳分からない事を言うだけ。備後は「ビンゴー」と毎回、『1』を引き当てている。


「そろそろ帰らないか?」

「そうだな。飽きたから帰るか」


 大和の釣果もなく、皆の退屈がピークに達したのでクラーケン調査はお開きとなったのだった。

 釣り竿のリールの糸巻き音が軽快に鳴り響く。学生服から砂を払って撤収だ。



「――あれ、急に重く。うわっ?!」



 リールの音が突然止まったかと思うと、逆転を開始した。


「どうしたんだよ? 大和」

「馬鹿みたいに重い。すげぇ力で引っ張られていくぞ」

「大物だな。刺身にして食うから絶対に逃がすな」


 浅瀬に見えるがここはどこぞの外洋である。何かの手違いで大物を釣る事だってありえる。

 余程の大物のようで、リールの糸は余りがなくなり釣り竿本体が海中へと引かれていく。大和だけでは支えきれず手を離しかけたために、俺も参戦だ。


「全員、手伝え! 釣りあげるぞ!」


 野郎五人の力を結集するが、それでも釣り竿は海へと引っ張られていく。

 魚ではなく島の下にあるスクリューにでも糸がからまったのではないか。そんなオチがありえそうな巨大な力だ。安い釣り竿の強度では耐えられずに壊れてしまう。いや、その前に糸が限界を迎えてしまう。

 糸が切れて、全員が砂浜に倒れ込んだ。


「ああ、夕飯が逃げ――」


 逃がした魚は大きかった、などとくやしがる必要は特にない。

 俺達と綱引きしていた対戦相手が、ご丁寧に水柱を立てながら姿を現したからである。

 巨大過ぎるゲソが陽光に照らされながら現れるものだから、一瞬、シーサーペントか何かと勘違いしそうになってしまった。が、吸盤だらけのフォルムを目撃したので考えを改めるのも早かった。


「――で、出たぁぁあっ!?」


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