1-5 インターミッション
今日も念じながら一枚千円の星姫カードを開封する。
狙いのカードはいつも手に入らない。人類滅亡まで残り二ヶ月だというのに、このまま俺は滅びてしまうというのか。
「む、この手触りは……レアカード!」
キンピカ加工は独特だ。俺程に食費を削ってカードを購入していると、指で触っただけでもノーマルカードと区別できるようになる。
「武蔵、良かったじゃん。おめでとう」
「ありがとう、と言いたいが問題は誰のカードかだ」
星姫カードは人類滅亡の寸前に行われる総選挙で、どの星姫候補を建造中の星姫に乗せるかを投票するためのチケットになる。誰のカードかは関係なく、一枚のカードで一枚の投票用紙を受け取る事が可能だ。
お気に入りの星姫候補がいるのなら、財力によってカードをかき集めて投票する事も可能なのだ。
不正や工作をしまくれる穴だらけのシステムのような気がするが、伝統的な方法と言われてはデザインチャイルドとしては従う他ない。
「やったじゃん、この子は!」
「言うな!」
同室の同居人、大和の言葉を遮って自分で開封したカードの表をチラ見する。
「…………はぁ。また、外れた。シリアルナンバー015、走り姫こと竜髭菜のレアカードだった」
シリアルナンバー023、人参は本日のメディア向けの仕事をすべてキャンセルしていた。星姫になったとしても人類救済の方法を発見できてない彼女には、もう人気を取る理由がない。
今、人参が歩いているのは星姫の建造区画である。
最高のセキュリティで守られた地下の施設で、全域がシールド加工されているため無線での通信が行えない。量子通信についても量子バリアによって対策済。星姫候補であっても歩いて向かうしかない場所だ。
「ここへの呼び出し理由は何かな、学園では話せない用事? シリアルナンバー001、馬鈴薯」
人参は今日、同じ超高度AIに呼び出されてここにやって来た。
「シリアルナンバー023、人参。私には、人類を救う手立てがある」
超高度AIたる人参が演算負荷により押し黙る。
「協力してくれないかしら」
赤い照明に照らされる地下空間の中で、長い黒髪の星姫候補は不気味に口を歪める。
これにて人参編完了です。
次回より新章となります。