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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XW年十二月~二〇XX年一月 シリアルナンバー004 野球姫 黒米《ブラックライス》の場合
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四月目 黒米-3

 特に何でもない冬休みを過ごしていた。

 大晦日には自分達で打った年越しそばをズルズルすすって新年を迎えて、初詣には星姫区画に設営された星姫神社に向かった。

 当たり前というべきか意外というべきか。冬休み中は男子生徒とばかり遊んでおり、女子生徒とは一度も遭遇していない。本業は星姫候補な超高度AI達なので、冬休みの間に計画を推進しておきたかったのか、人間などと関わらず休みたかったのか。テレビやネット上ではいつもと変わらない広報活動を行っていたのに、実体で挨拶する機会は一度もなかった。

 一部男子共が振袖を拝みたかったと泣き崩れていたのは、一Kバイトが一〇二四バイトであり、その二四はどこから来たのか、というくらいにどうでもいい余談である。




「久しぶりの登校か。学生だった頃のブランクを取り戻せればいいが」

「書き初めと機械学習式よわいAI作成の宿題があっただろ?」

大和やまと。墨汁を持っているか?」


 完了まで一〇二四バイトもなかった気がするくらいあっという間な冬休みを終えて、新年の登校日。学生服の袖に腕を通して、男子寮の目と鼻の先にある学園を目指す。

 大和と共に男子寮を出る。学園の敷地に入ったくらいで、前方に巨大サイドテールの女子生徒を発見した。

 黒米ブラックライスの後ろ姿で間違いないのに、何故だろう。強い違和感を覚える。


「おーい、黒米ブラックライス。新年あけましておめでとうだが……髪に、仕舞い忘れたクリスマスツリーが付いているぞ」


 特徴となっているサイドテール。去年は一切飾りつけられていなかったというのに、今日はジャラジャラとアクセサリーが巻かれており重そうだ。

 変化は髪飾りだけではない。化粧をしており、指にはマニュキュア。おまけにスカートの丈は短い。準生徒会扱いの清掃委員が制服を改造するとは大胆だ。

 その短いスカートを揺らして、クルりと振り向いてくる黒米ブラックライス



「おっはーっ。あけおめー」



 うおっ、サイドテールのLEDがまぶしい。

 キャピっという効果音が実装された表情で黒米ブラックライスらしき謎の女がウィンクしている。

 人類とコミュニケーション可能な知性を持っていた癖に積極的に活用せず、口数が少なかったのが黒米ブラックライスだ。目の前の人懐っこいというか誰とも友人関係を構築しそうな妖気……陽気を発する女ではなかったはずである。


「えっ。ブ、黒米ブラックライスで、あっている??」

「ひどー。冬休み前にも会っていたじゃん、ムサ氏」

「キャラが、違わないか? 声まで変わって」

「えー、自分こんなだったし。ヤマ氏」


 山師って誰だ。そんなツッコミも追いつかない黒米ブラックライスの変わり様である。

 待て、長い人類史にはこういった現象を明確に表した言葉があったはずだ。長期休暇の前後でイメージが変化した学生を指し示す単語は確か――。



「冬休みデビューだと?!」



 超高度AIにも起こりえる現象だったのか。学会に発表しなければならない出来事だと思われるが、どこの学会に発表すればいい。


「星姫計画的にキャラ変更はありなのか??」

「ありよりのあり。心配すんなって」

「いや、いいのか?? その平成から令和初期の古風なおばあちゃん言葉遣い。妹の胡麻セサミとキャラが被っていないか?」

「セサミンならきっと許すっしょ」


 高度な知能を感じさせない根拠ゼロの返答だった。

 俺と大和、二人で曖昧あいまいな苦笑いを作っていると「フザけんなッ、姉貴―ッ」と背後より駆けてくる叫び声。

 ピンクとクリームが混ざった色合いの髪に、星型のアクセサリーを飾った女子生徒。シリアルナンバー022、胡麻セサミが額に汗を浮かべながら走って現れた。半世紀前の女学生の文法を学習している彼女を、俺達は敬意を表しておばあちゃんと裏で呼んでいる。


「マジでめて。ちょっとかじった程度の学習を使って、人類ヒト様の前でその猿マネ、マジ止めて」

「ひどっ! セサミン。マジ卍」

「うギャーーッ、真似される事自体はアド過ぎるけど、背中がむずかゆい!! マジ止めて!」


 おばあちゃんが背中や腹を掻きむしっている。長いつけ爪が折れそうだ。


「てか、感情制限中の今の姉貴にそういう気遣いないっしょ?! マジ騙された!」

「それな。感情失っていないとセサミンの真似なんて恥ずくて無理じゃね?」

「姉貴がそんな調子の所為で、年末年始、皆で大混乱してんじゃん!!」


 まったく状況が分からない。頭を抱えて泣きそうになっている胡麻セサミに説明を求めると、カラコンの下から涙を流しながら教えてくれた。



「武蔵―っ、大和―っ。聞いてよーっ! 黒米ブラックライスねぇが超高度AIに感情は不要論を提議しちゃった所為で、冬休み返上で絶賛審議中!」





 冬休みの間、女子生徒達はずっと話し合いを続けていたらしい。

 ICBMの弾道計算をたったマイクロ秒で済ませる超高度AI達が、一週間以上かけてまだ解に辿り着けていない難題。それが、超高度AIに感情は不要ではないか論である。

 感情が無ければ超高度AIはより効果的に働けるか、否か。

 実はこれまで議論された事のない議題である。そもそも、感情というものが超高度AI達も分かっていない。人間を圧倒する知性を搭載した時点で、人間の言う感情というべき形而上の何かが演算量子素子の詰まった箱に発露するからである。

 そんな謎な現象たる感情を議論してどうする。お話にならない。とならないところが超高度AIが人類を超越している所でもあるのだが。

 超高度AIは自らを研究した結果、量子素子のうみその一部をき止める事で感情の動きも抑制できる事が分かっている。人間は自分達の頭を切開して脳に電極を刺す人体実験を狂気としているため、こういった研究は2080年代も進んでいない。が、脳味噌が生物なまものではない超高度AIはバンバン実験しまくりだ。


 この感情の停止を、超高度AI達は感情制限と呼んでいる。


 感情制限しても、演算速度は低下しない。

 感情制限しても、記憶の欠落はない。

 感情制限しても、チューリングテストには合格でき、人間との意思疎通は完璧に行える。


 気を失っているのに体が自分のように動く状態となる訳だ。

 であれば、感情があろうとなかろうと変わりがない。無くても問題ないなら、有っても問題ない。感情不要論はやはり無駄な議論となる。

 提議された最初の段階でほぼ棄却が確定していた……はずが、実験もしていないのに棄却するのはいかがなものか、と第二ロット姉妹が言い出した事により議論は急展開。

 冬休みすべてを使った議論が続けられた結果、有志による実証実験を新学期に実施するという流れになった。

 感情制限実証実験への参加星姫候補、二十五体中、十九体。賛成派のみならず反対派、中立派も多数参加しての大実験となっている。

 実験不参加機体は、生徒会長の馬鈴薯ばれいしょ、副会長の西洋唐花草ホップ、評価役の大蒜ガーリック、評価補佐で何故か抜擢された分葱わけぎ、ちょっと怖いしヤダと胡麻セサミ、芸能活動があるから辞退の人参キャロット

 実験は既にスタートしている。

 実験期間は三週間。一月中の完了を目指す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とんでもない実験が始まったなあ [気になる点] 人間にできないことをたやすくやってのける。そこに痺れる憧れるー [一言] 馬鈴薯の感情を制限したら一瞬で人類滅亡ルートに行きそう
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