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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 一年目 二〇XW年十月 シリアルナンバー002 料理姫 里芋《さといも》の場合
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二月目 里芋-3

 既に里芋さといもは調理を終えており、ニコニコした表情で黒板の前に立っていた。

 きっと事前に料理は作り終えていたのだろう。手料理と言うぐらいだから全自動調理器を使っているとは思えない。いや、分散複合サーバーが本体の超高度AI的には調理器も手の内なのかもしれないが。

 ともかく、料理は既に出来上がっているようだ。

 机の上には銀のドームが並んでいる。コース料理のようにナイフとフォークが縦に数本並んでおり、演出としてはそれらしい。


「男子全員分用意されているな。大和やまとも座れよ」

長門ながと君の警告が気になるのだが」

「そんなに心配するなって、緊急事態なら山城やましろがギャラルホルンで警告を発してくるはずだろ」

「それもそうか」


 俺と同じように着席する大和。

 大和を納得させた山城の超能力、ギャラルホルンは俺達の切り札の一つである。山城だけが開眼に成功しているユニーク超能力であり、精神だけを過去に送る事、いわゆる、タイムリープが可能な素晴らしい能力だ。細かな制約はあるものの、何度も山城の能力に俺達は助けられている。



「う、ウギャアアア、止め、ヤメロ、カニが、喉にィィッ、産卵!?」



 ……そうそう、こんな感じに発動するのがギャラルホルン。

 山城が奇声を上げながら転げまわる。口に手を突っ込んだり、喉をきむしる行動を見せてから、最後にはカニのように泡をブクブク吐いて失神した。

 山城がこうなった原因は、彼の超能力の発動条件にある。

 ギャラルホルンは、危機的状況におちいってからしか発動できないのだ。ゆえに、精神は未来の危機を体験した状態で戻って来てしまう。結果、だいたい、八割ぐらいは精神的に瀕死状態で役に立たない。

 山城が悲鳴を上げた時、それは、終わりを告げる角笛が鳴った事を意味する。


「ギャラルホルンが発動したんだね。里芋さといもさん、担架をお願いします」

「はーい、長門君―」


 俺達の警報機が突然鳴り響いて誰もが動けない中、遅れて入室してきた長門と里芋さといもだけが動いた。

 保健室にあるはずの自動担架が何故か奥部屋から現れた。倒れた山城を乗せると、廊下ではなく奥部屋へと連れ込んでいく。


「山城が心配だ。俺が付き添いに――」

「駄目だよ、武蔵君。料理が既に目の前にあるなら、僕達にはデッド・オア・イートの二択しかない。里芋さといもさんの料理から逃げても、最終的には食材に追いつかれるから」


 中腰になった俺を、長門は強い力で無理やり着席させた。

 何が起きているのか分からず皆は黙り込み、調理室は静まり返った。

 だからこそ聞こえてくる、配膳された銀ドームの中のコツコツという音。



「まずは前菜よー。今日のために、南瓜パンプキンに頼んで合成してもらった新鮮なお野菜のサラダを召し上がれー」



 召し上がれと言われても、という目線を里芋さといもに向けるがニコニコと目を細めるだけで察してくれない。

 仕方がない。

 胃を決し……意を決して手の平を合わせていただきますと宣言する。

 すると、音声を認識した配膳ドローンが飛来し、銀ドームを取り払っていく。

 中に隠れていた前菜の姿はついにお披露目された。採れたてである証明に、俺へと向かって噛みついてくる。


「ぬなッ?!」


 嫌な予感がしていたので手が素早く動いてくれた。両端にあったナイフとフォークを装備して緑色の牙を防御する。


「長門君ッ、これは何だ!?」

「見ての通り、サラダだと思う。食虫植物ならぬ食人植物に品種改良されたレタスみたいだね」


 緑の玉が半分に割れて、無数の歯が見えているコレをレタスというか。シリアルナンバー007、萵苣ちしゃの親戚には見えないぞ。





“シリアルナンバー007より、シリアルナンバー002宛

 くしゅんっ。誰かが私の噂をしましたか?”

“シリアルナンバー002より、シリアルナンバー007宛

 していないわー”





 ナイフとフォークをクロスさせて防御しているが、食人レタスの圧が強く押されている。

 劣勢なのは俺だけではない。前菜の奇襲を受けた多くの男子生徒が噛みつかれたり、倒れたりして悲鳴を上げていた。

 そんな中、唯一マナー良く食事を開始しているのは長門だ。

 飛びつこうとしたレタスの口内にフォークを突き刺して固定し、外側から一枚一枚葉を千切っている。


「まだ前菜だから、攻撃力は低いね。食人してくるなら人間が食べても大丈夫だろうし」

「冷静過ぎないか、長門君っ」

「慣れって怖いね。あ、そこにあるドレッシングを取ってもらえるかな、武蔵君」


 ドレッシングを浴びたレタスは動きを弱めた。俺に噛みつこうとしているレタスにもオーロラドレッシングをぶちまけたところ、やはり弱体化している。

 弱点が分かればこっちのものだ。隣の大和やまとの顔に張りついているレタスや、更に隣の上野こうずえの尻を噛んでいるレタスに振りかける。


「しっかりしろ、大和、上野!」

「どうして、前菜がレタス丸ごとなんだ……ガク」

「武蔵。俺は助かったが大和の奴は駄目だ。諦めろ」

「大和ぉーーっ!」


 動かなくなった大和を見て、上野は左右に頭を振る。

 とむらい合戦で大和のレタスにかぶりついて全部食べてやった。うん、凶暴性はともかく、味はかなり良い。

 その後の十分少々におよぶ前菜との格闘結果、男子生徒三十名弱から五名もの犠牲者が出てしまう。


「誰がやられた?」

「大和、十勝とかち陸奥むつ日向ひゅうが備後びんごだ。備後はビンゴゲームをかばっているところを後ろから、クソッ」

「前菜の前にやられた山城やましろを合わせて六人もか。酷いものだな」


 まさか料理クラブのコース料理がここまできびしいものとは思っていなかった。世の学生達は、超能力もなく弱肉強食の中を生きていたとは恐れ入る。

 仲間達を床に安置して黙祷をささげた後、惨劇を作り上げた犯人たる里芋さといもに非難の目を向ける。

 だというのに、里芋さといもは特に表情を変えないまま――、


「前菜の次はスープよー」


 ――などと言い放ち、配膳ドローンが新しい銀ドームを搬入してくる。


「おい、里芋さといも。こんな状況でまだ食事を続けると――」

「スープはねー、ウミガメのスープよー」

「――ウミガメの、スープ?」

「そうよー。二十人分に足りるか不安だったけど、材料・・が足りて良かったわー」


 人工島の周囲は海だ。ウミガメを漁獲しようと思えばできると思うが、どうしてスープにして提供してくるのか不気味だ。ちなみに、最初の犠牲者たる山城が奥部屋に自動担架で運ばれてから、鍋を煮込めるぐらいには時間が経過している。無関係だが。


「さあ、召し上がれー」

「ひぃぃっ、飲んだら自殺しないといけないスープだぞっ」

「山城がァ、山汁にィッ」


 前菜から立ち直った男子生徒達は再び恐慌におちいる。

 黙々と席に座り、スプーンを手に取っているのは長門だけだ。

 里芋さといもの意図が分からず、俺は立ちくす。

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