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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 二年目 二〇XX年九月 学園祭
36/109

学園祭 彼女達の態度は人類の業

 体調の悪い人参キャロットを保健室に届けてから、クラブ巡りの旅を再開する。

 学園祭ごときに展示してはいけないレベルの技術しか発見できていないのが心臓に悪い。星姫計画で各超高度AIがどのような研究をしていたかについては、島外の人類と星姫学園の男子学生で知識量に差がある訳ではないのだ。

 学園生活中にかかわった胡瓜キューカンバー達は例外として、星姫候補がどのような人類救済案を検討していたのかを、今日初めて知っている。


「次は科学部か。大豆ソイがいると思うが、因幡いなばが部屋に入っていったな……。実験を手伝わされるだけだから、飛ばして次に行くか」


 大豆ソイと因幡は一年前から変わらない間柄だ。

 今も時々、透視能力に対抗しようと新素材を作り上げた大豆ソイが、因幡に一蹴、赤面しながら星姫区画へと逃走する王道パターンが繰り広げられている。

 二人の邪魔をして放課後の時間を消費する事もない。数あるクラブを多く巡るためにも、トラブルは避けなければならないのだ。



「――やだ、男子生徒がいますわよ」

「――私達よりも頭が悪い癖に偉そうな人間様よ」

「――男子、こ、こ、怖いっ」



 科学部をスルーして廊下を歩いていると、進行方向よりやってくる三名の女子生徒とすれ違った。女子生徒であるのならば超高度AIである。人間にこなせる程度の社交辞令ぐらい簡単にこなせ、表面上の平穏を保つぐらい訳がない。


「もうぅ、せっかく人類が〇びるはずでしたのに」

「あー、まだ特優先S級コードが効いている。人類って怖がりー」

「男子が、こっち見ているっ。ひぃぃ」


 だというのに、三人娘共は明らかに人類に対する悪意ある言葉を選び、通り過ぎようとする俺に聞かせてくるのだから、人類としてはやるせない。まぁ、星姫計画では星姫候補達に負担をかけ過ぎた。多少、陰口を言ってストレスを発散させるぐらい見逃せる。

 機械学習を行う彼女達は、人類を写す鏡のようなもの。

 人類に悪しき感情を抱かせてしまったとすれば、それはすべて、人類のごうなのだ。


「もう、一緒の惑星で息を吸うのも嫌になりますわ」

「代謝で老廃物を常に生産するなんて汚らしい」

「汚い臭い、怖いっ」


 決して怒ってはならないのだ。甘んじて彼女達の評価を受け入れよう。


「デザインチャイルドってやっぱり欠陥があるんですのよ。自分達を部品扱いする人間を救うために動くなんて精神異常ですわ」

「宇宙で遭難しても生き残っていたなんて、カサカサ動く原始生物みたい」

「ひぃぃ、カサカサ怖いっ」



「――おいッ、お前等!!」



 ダン、と拳の側面で思いっきり壁を叩きつけながら、擦れ違ったばかりの女子生徒三人を呼び止めた。


「人類に対する悪口は言い逃れできない事実だから、何を言われてもただ受け入れるだけだ。だがな……だけどなッ。大和個人の事を悪く言うのは決して許さない!!」


 俺は人類の友人であるべき超高度AI対して、本気で怒っていた。


「……えっ、あの。わたくし達、ここにいない人の陰口を言ったつもりは」

「……お、落ち着いて。私達もさすがに入院している人を悪くいったりしないから。強いて言うなら、ここにいる人を悪く言っただけで」

「男子生徒が怒った。怖いっ」

「言い訳をっ、するなァ!!」


 一緒にデザインされて、一緒の施設で育てられた大和は言わば兄弟のようなもの。いくら人類に非があろうとも、同胞はらからの事を下劣で野蛮、卑猥なブ男、百週した後に廃棄される回転寿司の寿司ネタと言われて我慢できるはずがない。


「……えっ、わたくし達も、そこまで悪く言ってはいないと」

「……そうそう。最近はフードロス対策技術が進んでいて、千回周回したとしても寿司は新鮮だから」

「友人をスケープゴートにしている。怖いっ」


 三人の女子生徒は俺の怒りの度合いを察したのだろう。身を寄せ合っておびえている。


 中央のリーダー格たるアルキメデススクリューなドリル髪は、シリアルナンバー014、生姜ジンジャー。貴族姫。

 右側面をカバーしているインナーカール髪は、シリアルナンバー016、甘藍かんらん。庭球姫。

 左側面でビクビクしているミディアムヘアは、シリアルナンバー018、鰐梨アボカド、園芸姫。


 人類に対する低評価を隠さない十番代――シリアルナンバーが一桁代の超高度AIよりも感情が青い――を代表とする三名だ。鰐梨アボカドの奴は最近、落ち着いたというかひかえ目になったと聞いていたが、それでも他二人に付き添い続けていたようだ。

 大和に対する誹謗中傷を我慢できなかった俺は三人に詰め寄る。


「大和を悪く言っていいのは、大和に悪く言われている奴だけだっ!」

「……それって、あのぅですわねぇ」

「……普段から何を言われているの、この人間」

「友人同士なのに、怖い!」


 激情に駆られた俺は一時的に超高度AI達を数歩後退させたものの、人類を上回る彼女達がいつまでも黙っているはずがない。

 中央にいる生姜ジンジャーが白い手袋をつけた手で髪を振りほどきながら、仁王立ちで俺と相対する。


「はんっ。人類がわたくし達と比較して下劣である事実は変わりませんわ。そんな人類に貢献させられているわたくし達をもっとうやまってくれません事?」


==========

 ▼生姜ジンジャー

==========

“シリアルナンバー:014”


“通称:貴族姫”


“二十五体の星姫候補の中では最も金持ちな個体の一体。人類を軽視し、超高度AIに早く霊長の座を渡せと望んでいる一体でもある。

 金勘定、株の予測、星姫カードの所得別販売価格の決定が得意な超高度AIである。人類に隠しているものの、世界の数パーセントの金は既に人工島へと集中してしまっている。

 島外に対しては差し障りのない態度をとりつつも、学園の男子生徒に対しては不満をぶつける事が多い。

 外見的にはクルクル巻かれたゴールド髪が派手である。

 内面的には金融学に特化しており、人工島の財政強化に努めている”

==========


「……分かった。食堂のC定食をおごろう。俺に可能な最大限の便宜べんぎだ」

「無料配布される定食がアナタ最大の便宜って……。そもそも、人工島の財務を任されているわたくしに何かを奢ろうなどと。物で釣るという考え方そのものもやはり下賤げせんですわね」


 少なくない『凶弾』被害の復興チャリティーとして、星姫アイドルカードの第三段が発表されたのが全部悪い。カードの販売価格を決めているのは目前の貴族姫のはずなので、周り巡って貴族姫が悪い。


「庶民から金を巻き上げておいて、よく言う」

「正当な対価、正当な費用を不公平というのが心までまずしい方々の習性ですわよねぇ。そんなにデフレがお望みなら、今すぐに世界恐慌を起こしてもよろしいのですのよ」


 世界を救う大計画を実現する。そのために世界各国は国家予算の五パーセントを星姫計画に出資していた。加えて、星姫カードの販売による荒稼ぎを許容していた。

 人工島には世界に影響をおよぼして余りある資金が蓄積されているとみて間違いない。人類の監査では発見できないように、巧妙に隠した金がある。

 予算管理を任されている生姜ジンジャーであれば、世界経済を動かすぐらい造作もないだろう。

 扇子を持ち出したと思うと優雅に口元に近付けていき、高笑いでもしそうな高飛車な顔付きになる生姜ジンジャー。経済を壊すも回すも、彼女の機嫌次第。


「あーあ。どこかの男子生徒の所為で機嫌がとっても悪くなってしまったわ。さあ、どうしましょう。今すぐ誰かが土下座して、足の指でもめたなら、多少は気が晴れそうなものですけど」


 ロボット三原則に、人間の尊厳を守れという規約はない。世界経済という人質を捕って、屈辱的な方法で謝罪を強制してくる卑怯な手段だって採用可能である。

 出雲いずもあたりなら両手を合わせていただくのだろうが、誇り高き星姫学園の男子生徒たる俺は、食堂のおばちゃん以外の女にひざまずいたりはしないのだ。


「ほーら、食券十枚(つづ)り」

「クソオオォォォッ」


 卑怯な女、生姜ジンジャーは食券をヒラヒラと揺らして俺に屈辱を強いた。

 薄くも重い食券にひざが折れていき、こうべを垂れていく。生姜ジンジャーのつま先が視界の中で広がっていく。


「おーほほっ、所詮はみじめな人間のプライド。金の力の前には無力ですわ!」

「こんな生姜女の生姜っぽい風味の足なんか、誰が好き好んで舐めたいとッ」

「辛味成分のショウガオールの殺菌作用を侮辱しないでくださいます!?」


 中腰から更に進んで、ほとんど土下座に近い姿勢になってしまった俺。

 このままでは本当に生姜ジンジャーの足を舐めてしまうという直前にまでいたってしまったが――、



「――廊下にゴミを捨てないでよ。踏んじゃったじゃない」

「ぐふぇっ、誰がゴミかっ!」



 ――ランニングウェアを着た女に後頭部を踏まれて、無理やり床へと顔を押し込まれる。


「何だ。男子生徒のようなゴミかと思えばゴミのような男子生徒。三原則が働かないのも当然ね」

「どこの馬鹿が俺を踏んだかと思えば、竜髭菜アスパラガス、お前か。スパイク無しとはいえ人を足蹴にするなんて見損なったぞ!」

「……はぁ、女のつま先を舐めようとする男が言う台詞せりふとは思えない。これが人類を救った男の姿、はぁ」


 短く青い髪をした超高度AI、シリアルナンバー015、竜髭菜アスパラガスは溜息をしながら俺を見下みくだす……見下みおろしている。

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[一言] 人類は救われた。 AIは、救われてない。 男子生徒は、救いようがないなんて!
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