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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 入学 二〇XW年九月 シリアルナンバー006 科学姫 大豆《ソイ》の場合
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大豆-4 嘘というAIには不必要な機能

 夕食が終わって就寝するまでの自由時間。因幡いなばの招集により、男子寮の共用スペースに男子全員が集められた。

 伊達眼鏡の因幡が、眼鏡フレームを指先で押し上げてから発言する。


「皆、聞いてくれ。今日の透視で分かったが、大豆ソイの体に他の星姫にはない装置が取り付けられている」

「科学姫だから、自分で自分をアペンドしているんじゃないのか?」

「そうかもしれない。だが、そうじゃないかもしれない」


 星姫候補の実体はすべてシリアルナンバー001たる馬鈴薯ばれいしょをベースにしている。背丈や体格の相違は多少のマイナーチェンジ、技術革新による省スペース化や高性能化があるものの、人間で言えば姉妹の範疇はんちゅうの差でしかない。

 また、馬鈴薯ばれいしょの実体は馬鈴薯ばれいしょ自身が設計したものであるため、体の中には超高度AIの技術が詰まっている。人類の設計思想から隔絶しているのがポイントだ。人類ならば機械に食事するための器官などわざわざ搭載しないし、その技術力もない。


「設計が超高度AIらしくなく、人類が苦心して作った感がある。俺の透視ではそう見えた」

「設計はともかく、製造元は人類だ。代用品が備わっている可能性もあるだろ」

「言い方を変えよう。俺の透視では良くない物のように見えた」


 透視能力クレアボイアンスは物を透かして見るのが大きな特徴であるが、因幡のESPについてはかせられる物と距離には制限がない。距離に関係しない特徴のみに注目すれば千里眼クレアボイアンスというべきだが、因幡の場合は電子顕微鏡でしか見えないウィルスやコンピューター内の隠しフォルダーまで見えてしまうため、もう少しユニークだ。

 簡潔に言えば、因幡の目はものすごく良い。

 普段の言動や頭脳や人間性や価値観や人相を信じてはならないが、目だけについては絶対的な信頼を置ける男なのである。


「ESP連隊の目たる因幡がそこまで断言するのなら、不良品が混じっていたのかもしれないな」

「まあ、俺達の目を俺達が信じてやらない道理はないか」

「むしろ、僕達ぐらいは因幡を信じないと」


 因幡が大豆ソイの体に良くない物が埋め込まれていると言うのならば真実なのだろう。が、超高度AIの実体については学生の俺達はもちろん、人類の科学者でも理解するのが難しい。

 俺達は全会一致で大豆ソイ本人に告げて、検査してもらうのがベストであると結論を出す。

 どうせ明日も大豆ソイは現れるはずなので、その時に言ったらどうだと因幡に提案した。

 ……どうして因幡に言わせてしまったのだろうか。



大豆ソイ、俺と一緒に病院へ検査に行こう」

「…………は?」

「安心しろ。俺が男としてお前の腹の中のそれには責任を持つ。ESPで認知したのは俺だから、何があっても俺が最後まで面倒を見てやる。病院で検査するなら、内科か産婦人科かになるな」

「…………は? は??」



 因幡が慈愛に満ちた眼鏡で大豆ソイの腹の辺りを見ている。

 男の方が積極的で女の方が怪訝けげんな顔付きとなっているのが不思議かもしれない。


“シリアルナンバー005より、シリアルナンバー006宛

 星姫候補が不純異性交遊とは何を考えているのですかっ!”

“シリアルナンバー001より、シリアルナンバー006宛

 手が早いわね。……今後の同ケースで人工子宮を使う可能性あるから、レポートは詳細にね”

“シリアルナンバー023より、マルチキャスト

 お祝いを集めるので、人参キャロットまで振り込みください”


「ちがーーうッ!! こんな虚言癖の少年と誰が行為するかッ」


 因幡が真面目なのは認めよう。だが、真面目過ぎて男女関係の一大イベントにしか聞こえないのはいかがなものか。というか女子共の反応からさっするに、超高度AIと人類って可能なの?

 大豆ソイが因幡の言う事を聞いてくれるはずもなく、告知は見事に失敗した。





 男子生徒は最低最悪の嘘吐き野郎共である。こう認識を強めた午前を終えて午後。

 シリアルナンバー006、大豆ソイは人工島の地下で作業を進めていた。『凶弾』到達までに完成させなければならない巨大ロボット、星姫アマテラスの開発、建造が彼女の仕事だ。

 真空空間での隕石破壊活動という壮大な計画を達成すべく、日夜、技術開発に苦心している大豆ソイ。どの星姫候補の案が採用されたとしても、スペック不足と言われないように何度基礎設計からやり直した事だろうか。

 苦労の甲斐かいがあり、巨大な星姫の上半身はほぼ出来上がっている。まだ腰から下や背中に連結する星姫ブースターの方は骨組みしかできていないものの、一年後の総選挙には十分に間に合う予定だ。

 星姫は大豆ソイの手により完成する。


はなはだしく遺憾だが、嘘吐きは少年ではなく、私か」


 ……けれども、大豆ソイの計画たる地球と火星の中間地点での『凶弾』迎撃は、超高度AIの頭脳を何度フル回転させてシミュレーションしても成功しない。

 打撃力のある武装が不足してしまっているのだ。

 散弾化した隕石を正確に観測する装置の製造や、軌道を予測するアルゴリズムの精度ばかり上がっていて、肝心の武器がない。

 何より、隕石を遠ざけるのであれば地球からもっと遠い場所でミッションを行わねばならないというのに、星姫計画がスタートした時点で阻止限界点はとっくにマイナスで。大豆ソイは必ず失敗する作戦の再計算をし続けて、人類に対して計算結果はまだ決まっていないと平気な顔をして嘘を吐くようになってしまっていた。

 己の首にまとわり付く紫色の髪の毛に、ゆっくりと締め付けられている。嘘を吐くたび締め付けが強くなっている気がする。


「嘘吐きは嫌いだ。絶対に嫌だ。それゆえ、あんな男子共が含まれる人類であっても助けない訳にはいかない」


 だから、大豆ソイは星姫を完璧なものとするために、地下の専用研究室にて新しい技術開発を――、


「――ん、量子的な反応が。まったく、実験に悪影響があるから研究室の近くでは通信を避けてくれと言っていたのに…………えっ」


 量子通信の波を検出した大豆ソイは、発生源の位置を特定した。

 発生源までの相対距離ゼロ。

 通信のデコードまで百万分の一秒。

 内容解読、古典通信の完全排除を達成した量子通信。量子エンタングルに影響を与えない観測手法。量子テレポートを排除する量子的バリア理論――。


「どうして人類未公開技術の目録が、こんな暗号強度で私の体からッ。これってまさか盗聴ッ!?」





 男子生徒は今夜も仲良く集まった。


「ESP連隊の面汚しめ。お前の目腐っているんじゃねぇの。死んだ魚と交換して来いよ」

「お前の汚点は俺達が払拭ふっしょくする。覚悟しろ」

「誰だよ。因幡なんか信じようって言った奴」


 特に話し合った訳でもないのに、因幡を糾弾きゅうだんすべく自主的に全員参加する。もはや、女子生徒との交流は不可能に近い。連隊責任で男子全員の楽しい学園生活が始まる前から終わってしまった。俺達の終末は一年近く早かったらしい。

 大豆ソイとの関係改善は不可能と言っていい。俺達に張られた嘘吐きのレッテルは永遠に癒着ゆちゃくし続ける。


「終わってしまった俺達は次世代の彼女達に、一体何を残せるのか……」


 実際のところ、実験動物な俺達は超高度AI達にとって不必要なのだ。引き取っても利点がない。お飯事ままごとみたいな学園生活を一緒にこなす理由も義理もない。

 人類を救ってくれる星姫達に対して、俺達との生活で得られるメリットは一つも提示できていない。一方的な関係性では彼女達が納得してくれないのは当然だった。

 学園生活をあきらめるしかない俺達は、一人一人と足の力を失って床に座り込んでいく。女子生徒との夢みたいな生活は夢で終わった。


「――寮母AIから新着だ。明日は授業がない」

「今まで授業があった事なんてないぞ、大和やまと


 無気力感がただよう中、壁の電子掲示板を眺めていた大和が言い放つ。明日は登校さえできないようだ。

「正式に休講になるようだ。急遽、弾劾だんがい裁判が決まったらしい」

「弾劾裁判って誰の? 俺達か」

「違う。星姫候補の一人に星姫としての資格があるか否かを問うらしい」

「……誰だ?」

「……シリアルナンバー006、大豆ソイだ」

 天災で学園が休みになる。そのぐらいの気持ちで大和の話を聞いていたはずなのに、事態は急激に変化した。


「まさかっ」 

大豆ソイ本人の申告で急遽決まっているから結果は決まったようなものだ。このままだと、彼女は星姫ではなくなってしまう」


 掲示板の新着は簡素なもので、何が理由で弾劾裁判が開かれるのか書かれていない。

 ただ、俺達に最もからんで来ていた星姫候補の女子生徒が、自らの欠陥を報告してリコールされようとしているのは分かる。裁判は他の星姫候補二十四人による多数決制であるが、そんなものは手続きでしかない。全員が大豆ソイを弾劾するだろう。


「ESP連隊を召集する!」


 先程まで糾弾されていた因幡が、糾弾される位置関係上中央にいた。

 だから、因幡が中央に立って俺達全員に呼びかける。伊達眼鏡の奥に、強い意思を感じる瞳が見えていた。


「あいつはさんざん俺達を虚言癖だ、嘘吐きだと決め付けていた。そのむくいを受けさせる。あいつには……嘘吐きになってもらう」


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