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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 入学 二〇XW年九月 シリアルナンバー006 科学姫 大豆《ソイ》の場合
29/96

大豆-1 AAA

パニック部門、日刊一位になっていた記念です。


星姫学園入学当日からの話となります。

新たにスポットが当てられる星姫と男子生徒をお楽しみいただければ幸いです。

 今日から始まる学生生活。

 紆余曲折の逃亡生活が終わったと思えば、何故か人工島に新設された星姫学園へ入学する事になっていた。今日から学生となる俺達にも理由はさっぱり分からない。


「超高度AIには人類へのボランティア活動が義務付けされています。それは星姫計画をになう星姫候補とて例外ではありません。男子生徒の受け入れは、超高度AIにとって必要な奉仕活動であると女子生徒は自覚願います」


 現状、分かっている事はわずか。

 まず、スサノウ計画で製造されたデザインチャイルド三十名弱が全員、星姫学園の男子生徒となった事。

 そして、空から降ってくる人類滅亡を回避するため日夜計算し続ける超高度AI二十五体が全員、星姫学園の女子生徒となった事。

 IoL(人生とインテリジェンス)が開始している時代にしては一教室あたりの生徒の数が多い事――というか学園の生徒全員が一つの教室にそろっている。生徒の半数はAIだというのに教師は人間しかいないというのが時代錯誤なのか未来的なのか。

 そもそも、世界で一番知能の高い星姫候補が今更授業を受ける必要があるのかという疑問については、丁度、入学と共に生徒会長に就任していた黒髪の女子生徒が説明している。


「男子生徒の皆さんは特殊ない立ちにより、他人との集団生活を経験していません。将来の社会復帰のためには、デザインチャイルドである貴方達でも一般人と変わらない生活が送れるという立証と実績が必要となります」


 怪しげな研究で製造された俺達を人工島の外にいる人間達は恐れている。人間全体をうらんでいるのではないかと不安がっている。人類を救う計画の部品として生まれた俺達がそんな事するはずがないのに、なかなかに慎重だ。

 各地に分散して逃走していた俺達を保護したのは良いものの、刑務所に入れておく訳にもいかない。一般的な学園や施設が俺達の受け入れを拒否してしまうのは当然で、政府は俺達のあつかいに苦労していたようだ。

 そんな中、星姫計画の遂行で忙しいはずの星姫候補が受け入れを表明したのである。


「また、この星姫学園は私のプランの根幹です。生徒全員で素晴らしい学生生活を過ごしてくださいね」


 黒髪の生徒会長がニコりと微笑む。

 人類滅亡の回避をAIに委託してしまった人類としては、AIが必要と言えば断る理由がない。

 行き場のない俺達を星姫候補が拾ってくれて、学園まで建ててくれた建前は生徒会長が語ってくれた通りである。うん、俺達に対して都合が良過ぎて、詐欺か人体実験のための嘘にしか聞こえないな。

 以前に生徒会長と出逢っていた俺はともかく、男子生徒の多くはまだ疑心を感じているだろう。説明を受けても何故自分達が生徒として選ばれたのかが分からず、超高度AIのブラックボックスな思考に浮かれてはいない。


「学生生活か、楽しみだなー」

「さすがお膝元だ。入荷するたび売り切れる星姫カードが購買で常に売られているぞ!」

「里芋さんと一緒の部屋にいるなんて、研究所を飛び出した頃は絶対考えたくなかったけど。……え、今? 今はまともな料理ばかりでお腹は痛くならないよ」

「食堂近くの自動販売機でアイスを売っているぜ。後で買いに行くぞ」


 ……まだ最初の授業も始まっていないというのに、随分と馴染なじんでいるな、お前等。

 ちなみに入園式のあった本日、授業の予定はない。ホームルームのみ。

 前で喋っていた生徒会長ことシリアルナンバー001、馬鈴薯ばれいしょが学園生活についてガイダンスを終えると、続けて、生徒同士の自己紹介が始まる。

 男子生徒はともかく、星姫達の自己紹介など今更な気がしないでもない。が、個人情報の受け渡しが完全電子化されている現代だからこそ、対面しながらの挨拶は礼儀作法として推奨されていた。


「私はシリアルナンバー001、馬鈴薯ばれいしょです。星姫学園では生徒会会長をしているので、困った事があればいつでも頼ってくださいね」


 男子には本気で、女子には付き合い程度の拍手で祝福されながら馬鈴薯ばれいしょが教壇から自席へと戻っていく。困った事があれば頼って良いと言っていたが、まず、向こうから俺に話はないのだろうか。馬鈴薯ばれいしょの席は遠くて問い詰められない。

 星姫計画への疑念や馬鈴薯ばれいしょ達の立場をあれこれ考えている間に、次の星姫候補、里芋さといもが挨拶し始めた。


「シリアルナンバー002、里芋さといもよー。料理研究会は今日から開始しているから皆立ち寄ってねー」


 里芋は男子全員に微笑みかけているものの、その実、特定の男子に熱烈なアプローチをかけているというのは男子全員の知るところである。逃亡生活中、長門君の隠れ家に差出人不明の手料理が宅配される怪奇現象が発生していた。翌日、決まって長門君が寝込んでいたのも含めて怪奇現象だ。

 まあ、それはさておき、星姫に微笑みかけられたらこっちも微笑んで手を振ってしまう。

 男子全員がリゾート地へとやってきたかのごときテンションで星姫達の自己紹介を拍手し続けている。

 ……けれども、男子の中にも例外はいる。


「どうしたんだ、因幡いなば? さっきから机にうっつぶして?」

「……鼻血が、止まらん」


 右隣に座っているインテリ眼鏡の男――現在は机と密着中で眼鏡を確認できないが――の名前は、因幡。彼も当然ながら俺達と同じように試験管で製造されたデザインチャイルドである。

 身体的な強化を誕生前からほどこされているデザインチャイルドが眼鏡を付けているのは奇妙なものだが、因幡の能力は目を酷使する。本人の意思でオン、オフできないため日常生活を過ごすだけでも苦労しているらしい。


「いや、これは伊達眼鏡だ。頭が良く見えると思って」

「星姫相手に頭の良さをアピールしても意味がないと思うぞ」


 因幡と話をしている間にも、シリアルナンバー003、小麦こむぎ、シリアルナンバー004、黒米ブラックライス、シリアルナンバー005、西洋唐花草ホップの自己紹介が終わってしまう。

 次に教室の前に出てきたのはシリアルナンバー006、大豆ソイだ。

 科学姫たる大豆ソイは、人気争奪戦的な星姫計画においては珍しく堅実な立ち位置を確保している。科学方面でのAIの貢献を考えれば、科学姫へ支持が集まるのは当然と言える。実際、ここ数年の論文発表数は大豆ソイが一位であり、ダントツだった。


「私の研究を邪魔しなければ、君達はそれで良い。正直に言って、君達のような虚言癖と妄想癖のある人間に私は一切興味がない。今後もかかわらないでくれたまえ」


 物腰も目尻もキリっとした大豆ソイがきっぱりと言い放つ。自己紹介になっていないのに、大豆ソイの性格を誤解なく認識できるのだから不思議である。

 白衣のポケットに手を入れたまま大豆ソイは言葉を続ける。

「超能力などと非科学的な事象を、さも実在するように語る君達と相容れるつもりはない」

 紫色の髪と白衣が特徴的な星姫候補は、宣言通り男子生徒に興味がないようで一切目を合わせようとしないまま教壇から去り始めた。手短かつ冷淡。マッドな科学者共を思い出させる冷たい態度に流石の男子達も静まり返る。

 ……右隣席の男子を除いて。


「ぶファッ。パット入りのブラ、ぷハっ」


 鼻にティッシュを詰めた因幡が大豆ソイに非難の言葉を浴びせていた。すいません、女子生徒。こいつが馬鹿なのは認めます。

 教壇と最前列の間で大豆ソイの足が停止する。油の切れたカラクリ人形みたいな首の動きで因幡をにらみ付ける。


「虚言癖の少年、何を言っているのかね?」

「俺達を嘘吐き呼ばわりしておいて、パットが見えたから笑っただけだ」

「だから、先程から何を言って――」

「真正面を向いてくれるな。AAAカップでも全身で見ればやっぱり女なんだ。思春期には刺激が強過ぎる」

「――AAAッ? はぁ、ハァアあアァア!?」


 最初の授業も始まっていないというのに、突如勃発する新学園生同士のバトル。

 超高度AIとの学生生活は波乱の幕開けとなってしまう。


==========

 ▼大豆ソイ

==========

“シリアルナンバー:006”

“通称:科学姫”

“二十五体の星姫候補の中では最も科学肌な個体の一体。現代社会に広まる根幹技術の一つ、量子通信を防ぐ量子バリアを開発した事で有名。その科学的思考で人類を救ってくれると人類から期待されている。

 ウェーブしている紫色の髪と白衣が特徴的。

 オカルト分野の観測調査に特化して製造されたはずであるが、本人は完全否定している”

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