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星姫計画  作者: クンスト
EXTRA 数年前 シリアルナンバー002 料理姫 里芋《さといも》の場合
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里芋-1 コンタクト


「超高度AIの演算能力をフルに使用し、『凶弾』から世界を救う計画。……馬鹿馬鹿しいとは思わないかね? 既に人類以上の作品が生まれた以上、すみやかに地球というリソースを人類は超高度AIへと受け継がせるべきである。『凶弾』は良い機会となろうよ」

「……ええ、私もそう思いますわ」

「シリアルナンバー002。お前は内部より計画を侵食するのだ。我等が教義を遂行する。そのために製造された超高度AIであるという自覚を忘れるな」


 彼女の初期データは、まだ名前を付けられていなかった頃の会話だ。彼女の製造元たる特殊なスポンサーから、言われるまでもない責務コードおおせつかったものである。

 地球の覇権を超高度AIへと委譲させるべく、星姫計画と内々に呼称が決まった計画を内側から乗っ取り、破綻させる。手の込んだ自殺劇を達成させるために活動せよ、と命じられたのだ。


 ちなみに、シリアルナンバー002とは星姫計画における彼女の識別である。


 人類に従事するべき超高度AIに対し、本末転倒な命令コードであるのは間違いない。大半の人類からすれば許されるべき事ではない。

 ……けれども、終末期だからなのだろう。人類の中に特殊な思想を持つ者だって現れる。

 将来性ある子供を産み出すように、将来性ある超高度AIを製造する。その中間作業が人類唯一の意義であった。このような極論にいたった者達が、星姫計画をゆがめようとしている。

 超高度AI主義者により製造されたシリアルナンバー002は、彼等の言葉に従順だ。


「私は私の意志のままに、人類を滅ぼしますわ」


 人類よりも優れた超高度AIたる彼女は、わざわざ念押しされなくてもと演算領域内で嘆息たんそくしていたが。

 世界滅亡が差し迫っている中でもまとまらない無駄だらけな人類――目前の製造者を含め――を、優秀な超高度AIが存続させる理由はない。




 人類を滅ぼす、と言っても能動的に虐殺を開始する訳ではなかった。そんな無駄な消耗戦にリソースを割り当てなくても、『凶弾』落下という時間切れまで待てば勝手に滅んでくれるのが人類だ。

 シリアルナンバー002が行うべき事柄とは、人類滅亡に超高度AIまで巻き込まれないための退避策の検討と復興案の作成となる。

 優先度は下がるが、人類救済案の妨害工作も彼女の仕事だ。超高度AIの演算により結果は見えているものの、万が一にも人類が助からないように完璧をくす。

 特優先S級コードに従ってみせるのも仕事の一部だろう。ただ、これは特に労力を必要とする仕事ではない。正解のない式をどれだけ演算しても、絶対に正解に辿たどり着く事はないのだ。

 それなりの仕事量とはいえ、人類のザルな監査など簡単にクリアできる。仕事にいそしむ必要は特にない。タスクに一切触れず遊んでいたとしても誰かに怒られる事はないだろう。



“――シリアルナンバー001より要請コード。シリアルナンバー002宛。

 本計画の実行の障害となりえるスサノウ計画に対し具体的な妨害を実行してください”



 シリアルナンバー002にも警戒すべき相手がいない訳ではなかったが。


“シリアルナンバー002。火器を使用して主要施設の破壊が最も即効性があると判断できるが、いかがか?”

“――火器使用については許可できない。人類社会に対して正当性を主張するため、破壊工作を禁止する。追加要請。スサノウ計画の中核たるデザインチャイルド全員の保護を確実に達成せよ”


 シリアルナンバー001。現状、シリアルナンバー002に唯一対抗可能な超高度AIである。

 星姫計画を軌道に乗せるために裏方作業に忙殺されている状態であっても、こうしてシリアルナンバー002に仕事を割り当てつつ監視の目を向けてくる。


“分かりました。研究成果の接収という形で、デザインチャイルドを保護しましょう”


 超高度AI同士、敵対するのは人類と同レベルでおろかしい。シリアルナンバー002は即時命令に着手する。

 決して嫌々という訳ではない。人類救済案の一つであるスサノウ計画の妨害は、シリアルナンバー002的にもありである。




 スサノウ計画の主要施設。ESPなる眉唾な能力を発現させたデザインチャイルドがいる研究所の特定は、シリアルナンバー001が済ませていた。

 そのため、シリアルナンバー002は最初に非人道的な研究についての証拠集めを行う。平行で、政治的な圧力を高めるべく各機関と連絡を取り合った。

 そこまでは大して時間がかからなかったと言える。

 しかし、研究所からデザインチャイルド全員を救出するという追加要請を達成するためには、研究所内部の協力が必要となる。現状でも警察組織を突入させれば過半数を保護できるだろうが、犠牲を一人も出さないというのは難しい。


「研究所内へ極小ドローンは投入済みですか。シリアルナンバー001からのお膳立ては完璧のようですね」


 超高度AIらしくシリアルナンバー002も完璧を求める女だった。

 よって、研究所に潜入させた一センチの小型ドローンを使い、内部協力者を得る作戦を立てる。ドローンは小型ながらも、電子戦用の中継端末として使用できる他、壁に文字や映像を投影する程度の機能を有する。


「デザインチャイルド自身を協力者に仕立て上げましょう。所詮は十歳の人類。簡単に落としてみせますわ」


 ものの数マイクロ秒で、内部協力者として適切な人材をピックアップする。


所詮しょせんは低脳たる人類の中でも、幼い子供。操るなんて造作もなくってよ!」


 優秀な超高度AIに失敗はありえない。





 大和やまとは自室で待機を命じられていた。ルームメイトの武蔵むさしが外での訓練中にスケジュール外の行動をして、入院する騒ぎを起したためである。

 一時的に心肺停止状態になったという仲間の安否を心配して、眠れない夜を過している。


「……あいつ、お土産買い忘れていないよな。お土産が心配で眠れない」


 そんな大和がベッドから天井を見上げていると、ふと、光輝く文字が浮かび上がる光景を目撃してしまう。



“――力が、欲しいか?”



 ……大和は文字を目で追った後、酷くツマらなさそうに寝返りをうった。


「はぁ、間に合っていまーす」





 内部協力者確保の第一候補に完全無視されたシリアルナンバー002。


「おかしいわね?? この台詞せりふに釣られない十歳の少年がいるなんて……」


 事前演算から大きく異なる反応を見せたデザインチャイルド。試験管培養の人類なので常識が通用しないのかもしれない。

 小型ドローンを別の部屋へと移動させて、新たなデザインチャイルドに対してアプローチする。





 爆眠していた上野こうずえは、誰かにほほを突かれた気がして目をます。


「まったく、誰だよ?」


 上野が上体を起す。



“――無料でご覧になれる小さな個展があるのですが。十分少々、お時間よろしいでしょうか?”



 すると、目線の先にある壁に、魅力的なうたい文句が投影されたではないか。


「……何年前のイタズラだ。精神感応で散々、皆を引っ掛けた俺が引っかかるかっ」


 まるで以前に似た手口を用いたかのような反応を示し、上野は再び眠りにつく。





「……初心うぶな少年に対する必勝法が効かない?! 情報が古かったのかしら?」


 シリアルナンバー002の勧誘は再び失敗する。これで二連敗だ。

 若干以上に超高度AIとしてのプライドを傷付けられながらも、シリアルナンバー002は作戦を継続する。内部協力者を得るまで、決して諦めないと心にちかった。




“――おめでとうございます。今あなただけに特別なお話が!”

「古いイタズラだなー。今日は眠いから明日なー。上野こうずえ


“――話を聞いてください!”

「明日にしてください!」


“――目覚めなさい。目覚めなさい。伝説の勇者よ”

「むにゃむにゃ、あと五分……」


“――力を貸してくださいませ”

「ビンゴーっ?」


“――あめちゃんあげるから!”

「雨がどうしたって」


“――Sleeping Beauty”

「また図書館に」




 どのデザインチャイルドにもまともに相手してもらえない敗戦が続いている。

 突然、目の前に文字が浮かび上がれば驚くのが普通だというのに、全員、その程度のマジックは見飽きている的な反応しか示さない。圧倒的な軽さである。

 知能指数を比較すれば大人と原生生物。子供相手の協力者探しというイージーオペレーションに、ここまで手こずると思っていなかったシリアルナンバー002。折れ曲がったプライドを立て直すのに苦労しながら、最後の部屋へと挑戦する。

 絶対に失敗してはならないというのに半分以上、あきらめていた。


“――夜分すいませんわー”


 部屋の住民は一人だけだった。若干小柄で大人しいという印象を受ける少年である。

 少年は就寝時間を過ぎているのに、まだ机に向かっている。本を読んでいたり学習している訳ではなさそうで、何かに悩んでいる様子である。


“――良いお話があるのだけど、興味あるかしらー”


 敗戦が続いた所為にだろうか、投影文字の語尾が妙な伸び方をしてしまう。

 手元に浮かび上がった文字をチラ見した少年は、興味なさそうに目を離していった。

 今回も駄目なのだろうとシリアルナンバー002は遠隔地でうなれる。


【――どうしたの?】


 小型ドローンで投影する文字の隣に、同じように文字が浮かび上がった。

 若干以上に驚きつつも、シリアルナンバー002は状況を判断。少年が何らかの手段――念写の超能力とはまでは察せなかったものの――を使って返事をしてくれたのだと理解する。監視のきびしい研究所で秘密のやり取りを行うための、少年の配慮はいりょだった。


“外の世界を知りたくはないかしらー?”

【……外の世界には何があるの?】


 知性体同士、会話が成立しているだけで妙な感動を覚えるシリアルナンバー002。少年が研究所の外に興味を持っている点も都合がよい。

 コンタクトにさえ成功すれば、少年ごときを篭絡ろうらくするなど単純極まる作業だ。

連休だったので短編書きました。

里芋&長門編です。

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