3-5 学園生徒会
「どのようなご用件でしょうか。星姫カードの収益金で建てた貴国のシェルターの数は十分のはずでしたが?」
“――星姫カード用のシェルターの建造が間に合わないという苦情が来ているが、今はその話ではない。001、我が国に対しても居場所を通知しないのは何故だ?”
「ええ、先日も第七艦隊の哨戒機が飛んでいましたわね」
“星姫計画の重要性は分かるが、所在地が分からねばいざという時に救援にも行けないではないか!”
「作戦行動中の無線封鎖にご不満を仰られても困りますわ。総選挙日には居場所をお伝えしますので、あしからず。今後は通話もご控えください」
“待ちたまえ。まだ話は終わっ――”
通話を一方的に遮断し、馬鈴薯は思考力を分配し直す。
特に変わったところのない学園の生徒会室の長机の最奥。そこが馬鈴薯の指定席だ。
星姫学園の生徒会室と聞くとSFチックな計測器やスクリーンだらけの部屋を想像してしまうが、学校行事を遂行できる以上の物は置かれていない。超高度AIたる星姫候補達にとっては実体を経由しなければならない人類用のインターフェースを備えた機材など、部屋を狭くするだけのレトロ装置に過ぎないからだ。
長机に座ったシリアルナンバー001を筆頭とする生徒会役員達は、バーチャル空間内ですべての作業を行う。もちろん、馬鈴薯が超高度AIの筆頭たる会長役である。
「会長。そろそろ総選挙の会場設営を始めたいと思います」
“先日の第七艦隊に続いて、第三艦隊も哨戒行動を開始しました。見当違いの地域を捜索しています”
副会長はシリアルナンバー005、西洋唐花草だ。量子通信と口頭の二系統でレベルの異なる議題を提示している。
「そうね。一週間前になりましたから、そろそろ始めましょうか。男子生徒の皆さんも楽しみにされているお祭りですもの。資材を使って豪華な会場を作り上げてくださいね」
“新大陸同盟については予定通りの作戦行動ね。北方連邦の方々は?”
西洋唐花草は超高度AIの中では珍しく眼鏡を常時着用しているが、視力補助を目的としておらずファッション以上の意味はない。
「分かりました。会場は星姫区画の屋外でよろしいでしょうか。今、あそこに立たせてある星雄スサノウが邪魔になります」
“ダミーの人工島に機械化兵を送り込んできましたが、黒米が鎮圧。こちらに被害はありません”
生徒会の超高度AIの結束力は高いが、副会長たる西洋唐花草の忠誠心は一段階高い。馬鈴薯に対し最初に管理者権限を譲渡したのも彼女である。
西洋唐花草が思い付いたプランの内容は、『凶弾』迎撃を最初から諦めて一度人類を滅亡させた後、優秀な遺伝子を用いて新しく人類を復興するというものだった。本人的には素晴らしい案だと思っていたというのに外の人類から論外とバッシングを受けまくったプランである。
傷付いた西洋唐花草を労わったのが馬鈴薯だ。
以降、西洋唐花草は馬鈴薯に心酔する。デザインチャイルドのみを生存させるという馬鈴薯のプランとも迎合可能であったため、副会長として馬鈴薯に尽くしている。
「スサノウの性能評価は終わったと大豆からは報告を受けました。星姫と同じぐらいに超硬度だから分解に時間がかかるらしいので、他に置き場ありません」
“彼等の徒労を労い、潜水艦をハッキングしてすべて帰港させてあげましょう。兵士の皆様も『凶弾』衝突前には家族と会いたいでしょうし。もちろん、政府高官の汚職情報をリークもセットで。最小でも三十時間の遅滞にはなります”
「かいちょ―。総選挙中は地下格納庫に移動できないでしょうか? 装飾担当の菠薐草から苦情がー」
生徒会というのだから、会長と副会長以外にもメンバーはいる。
シリアルナンバー024、胡瓜。書記。世間ではSNS姫と呼ばれて星姫候補の中では最も身近で親しまれ、DoS攻撃を受けている超高度AIである。
二十五体いる星姫候補の二十四体目でありながら自プランを破棄し、早々に馬鈴薯陣営に組み従った胡瓜は他の超高度AIと比べて冷めた性格をしていると言えよう。
なお、胡瓜のプランでは、人類を電子情報化して肉体という枷から解き放――。
「星姫アマテラスの運搬口を広げないと無理です。諦めて、野外会場の天井を支える柱の代用にしてしまいましょう」
「わっかりましたー。菠薐草にどうにかしろと伝えておきます」
“ついでに、ネットを通じて人工島が世界中から飽和攻撃を受けている件について――”
“これまでもSNSを定期的に炎上させてベンチマークテストは済ませてあったのでしょう。うまく対処しなさい”
「うげーっ」
「……胡瓜。量子通信の返事は量子通信でね」
生徒会は人工島を運行する超高度AI達の意見集約、調整を主に活動してきた。
しかし、『凶弾』落下まで残り一ヶ月を切った今、滅亡に怯える人類への対処という仕事も増えてきていた。
平凡な学園の一室が、人類滅亡を食い止める最前線となっているのだから当然だ。むしろ、たった二十五体の超高度AIで世界を支えられる事の方が異常と言えるだろう。人類と超高度AIのスペック差にはそれ程の開きがあるのである。
“玉蜀黍より報告。人工島は平均三十五ノットで太平洋を北上中”
“結構。赤道でなくても大気圏突破に必要な推力はあるので、あまり目的地に拘る必要はありませんよ”
「会長が申請していた食堂メニューの値下げですが、おばちゃんに却下されました。食費を星姫カードに注ぎ込む馬鹿を甘えさせるなとの事です」
「うっ、手強いわね。食堂のおばちゃん」
“黒米より成功報告。カルト集団の大規模テロを未然に鎮圧。被害なし”
「男子寮の男子が一箇所に集まっているようです。また悪巧みでしょうか? 首謀者は武蔵君らしいですよ」
「……彼には可能な限り自由でいて欲しい。私のプランは人類を飼い殺すためのものではないから」
「でも、かいちょ―。あいつ等、集まると超高度AIの私達でも手を焼くんですよー。私のサーバー唯一陥落させたのも男子だし、鰐梨の奴なんて男子見るだけで過呼吸になっちゃって大変なんですよー」
西洋唐花草や胡瓜を含む役員全員から男子生徒の監視は良いのかと、会長たる馬鈴薯は判断を求められる。
人類の知能は超高度AIに劣る。
けれども、僅かな知能を用いて最大限の結果を得ようとしてくる男子生徒は放置しておくと後で痛い目を見る。ESPという未だ解明できない超能力が、終末を迎えているはずの人類の可能性をブーストさせているため質が悪い。
超高度AI達が一年間の共同生活で学んだ共通認識だった。
「男子寮のプライベート機能をオフするぐらい、会長なら簡単ですよね?」
「で、でも。彼が最近、私の星姫カードを入手したって。私のカード見ながら微笑んでいたりしたら罪悪感が。きっと皆に見せびらかそうと人を集めているだけかもしれないから」
「あー、はい。会長の仰られる事も分かりますけど……」
馬鈴薯が誰よりも男子生徒に甘いというのも、超高度AI達の共通認識だった。地球最高の知能の頭の中がお花畑で出来ているというのは、小惑星が落下してくる悪夢よりも馬鹿げている。
「とはいえ、皆さんの不安も当然ですので……分かりました。シリアルナンバー002、里芋に依頼しておきましょう。彼女ならば心配いりません」
第三章後半の静かな立ち上がり




