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星姫計画  作者: クンスト
Ver2.00 第一章 イリーガルナンバー035 剣道姫 蜜柑《マンダリン》の場合
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転入一月目 蜜柑-5

「お前の三原則、バグっていないかッ?!」


 視界がブラックアウトした後、この世からおさらばしてしまった俺はあの世で目覚めた。

 高熱を発するレーザーブレードにより腹から背骨までを真っ二つにされた死因に喉の奥が酸っぱい。

 ゴーストになった後も分離していたらガムテープが必要になるな、と思いつつ腹に手を伸ばして……大丈夫だ、分離していない。少し残念だ。


「……嫌に狭苦しいあの世だな」


 豪華なカプセルホテル並みの内部容量の部屋は、蜜蜂の巣と同じく六角形だ。寝袋のようなベッドで寝かされている状態なので、本当に蜜蜂の幼虫にでもなった気分である。

 こんな部屋に一人を押し込むなんて天界の住宅事情は現世よりもきびしいのだろうか。


「くぴー。むにゃむにゃ、もう食べられない」

「……マジか、一人部屋ですらないのか。天井に誰かいるぞ」


 アイマスクを完備した何者かが、俺と同じように寝袋にINした状態で天井で眠っている。


「思いっきりデジャヴを感じる。知っている天井過ぎる」


 他人が眠っている天井を知っているというのも嫌なデジャヴである。

 やはりというか大和やまととは別人というか別性の女子生徒が熟睡中か。ルビー色の髪色には見覚えがあった。


「おーい、起きろー」

「むにゃむにゃ。私達、もうお陀仏だから食べられない」

「だから殺伐とした夢を見ていないで起きろよー、無花果いちじく


 俺の呼びかけにピクりと反応を示した天井の君は、背伸びをしてからアイマスクをズラして顔を見せる。ルビーの瞳が俺をとらえた。やっぱり無花果いちじくで間違いない。


「おはよう、武蔵君。今日も元気?」

「少なくとも腹は斬られていない」

「切腹を命じられるなんて、討ち入りでもしましたか?」


 どちらかというと逃走しようとしました。

 いや、あの時、俺は確かに腹を真っ二つにされたはずなのに傷一つ存在しない。もしかして悪夢だったのだろうか。


「さあ、すぐに朝食の時間ですよ。早く着替えましょう」


 寝起きの回転率の悪い頭では何も分からない。無花果いちじくうながされるままに学生服を羽織って食堂へと向かう。




 空腹以外の理由で腹をさすりつつ食堂まで出向く。

 俺以外にも首やこめかみや、体の中心線、はてはサイコロステーキにでもなったのか全身をまさぐっている男子もいた。俺はまだマシだったな、こう他人事みたいに眺めていると……キャーという野太い男子の悲鳴が。


「ひ、人斬りオレンジが、食堂にっ!」

「ビンゴぉぉ」

「女子生徒を連れてきてぇー」

「このっ、暗黒面に墜ちたAI娘め。俺が、お前の、父だ!」


 騒いでいる理由は食堂を覗き込んですぐに分かった。誰よりも早く着席していた蜜柑マンダリンに最新のトラウマを刺激されているようだ。

 誰も食堂に入りたがらないため、複数の目で推薦された俺が渋々と第一歩を踏み出す。普通に腹も減っている。


「やあ、マンダロン」

「誰がギリシャの村の名前ですかッ」

「失敬、蜜柑マンダリン


 うーむ。適当に言っても検索で拾ってくれる。案外、ノリがいいAIだな。


「変な事をくが、お前、俺達を昨日、レーザーブレードで斬らなかったか?」


 これなら直接、たずねれば素直に答えてくれそうである。


「リアルな悪夢でもご覧になりましたか?」


 ……だと思っていたのだが、はぐらかされてしまった。俺の質問に素直に答えず、頼んだ朝食を口に運んでいる。


「男子全員を斬っておいて、しらばっくれるつもりか」

「斬れていないではないですか、お腹」

「腹を斬られたとは言っていないぞ。やっぱり、お前、俺を斬ったよな」


 犯人しかしらない事を指摘したつもりであるが、腹に傷がないため物的証拠は残念ながらない。


「なあ、〇ンダミン」

「誰がお口くちゅくちゅですか!」 

「昨日の夜、何をしたのか教えろよ。腹を斬るも割るも同じようなものだろ」


 このAI、どう考えても犯人なのだが。

 話した感じ、製造からの稼働日数は比較的短いAIのようである。

 星姫学園の第三ロットと同じ若々しさを感じる。高度な知能を有しながらも芽生えた感情に振り回されているというか、AIと人類の知能指数のギャップに慣れていないというか。あの馬鈴薯ばれいしょ里芋さといもさえも経験値の少ない頃は人類に振り回されていた。

 蜜柑マンダリンも起動してから年端もないのかもしれない。個体差もあるため、あくまで参考程度だが。


「昨日の事もそうだが、星道学園には謎が多い。何を隠している?」

「知ってどうするのです。どうあれ、あなた方にできる事などありません。私達はあなた方の無知を容認しています。何も聞かず、何もせずに学園生活を過ごすと良いでしょう」


 非協力的な態度を崩さないな。食べてばかりで目線すら合わせてくれない。


「知らないから知ろうとするんだ。人間は考えるあしだ。それを止めるつもりがあるのなら、昨日の男子辻斬りで口封じで済ませれば良かったものを俺達は死んでいない」

「辻斬りは言いがかりです。あなた方が立ち入り禁止区画に入ってきたからです」

「つまり、あそこに隠し事の答えがあるんだな。俺達はまた挑むぞ」


 唯一の手掛かりは蜜柑マンダリンが守っていたチューブ廊下の先、俺達を捕らえている宇宙船の外にある。ゴールではないだろうが、星道学園の謎を解き明かすヒントは存在する。


「……はぁ、面倒ですね」

「俺達にとっては死活問題だからな。住処すみかが突然変われば、猫だって大暴れする」

「猫ほどに可愛げがある訳でもないのが余計に面倒です」


 天板のディスプレイをろくに確認せずにタップして、C定食を選択する。すぐに運ばれてきたトレーは相変わらず味しか良くない。味から推察するに牛丼なのか、これ。


「自然に対面席に座らないでください」

「なあ、バターの代用食品」

「マーガリンッ。って、違うッ。蜜柑マンダリン!」

「これから男子全員で突撃する事だってできる。それを面倒に思っているなら、代替案を示してくれないか? 多少の無理なら飲むから蜜柑マンダリンも妥協してくれ」


 蜜柑マンダリンは俺の後方へとチラりと目線を向けた。背中側にいる女子生徒、無花果いちじくと量子通信で話し合っているのは間違いない。


「……答えは?」

「AIらしく無駄をはぶきます。食後、道場に来てください。剣術試合で私に一度でも勝てたなら、エアロックへの通行権を男子全員に与えましょう」


 場所を指定されてしまったか。奇襲できなくなる分、俺達の不利とも言えるが、闇雲に突撃してレーザーブレードで刻まれなくて済むメリットは大きい。


「一対一の試合か?」

「人数制限はかけませんよ。代わりに、道場に来ずにエアロックに向かった場合は男子生徒全員の行動制限を行います。部屋から出る事はできなくなると思ってください――」


「ヤンデレオレンジかよ」

「いや、よく考えろ。女子生徒に衣食住を握られて飼われる最低最高の生活が待っているって事だ。約束を反故ほごにしてもメリットしかない」

「まずは部屋割りを変えろ。どうして武蔵だけが男女部屋なんだ!」


「――条件を変えましょうか?」

「外野の意見に惑わされるなんて超高度AIらしくもない。初志貫徹でお願いします」


 形式としては授業の一環で蜜柑マンダリンに挑むというものになった。どうせ他に授業も用意していなさそうだったので、女子生徒としても都合の良い時間潰しという訳である。

 得物はレーザーブレード……ではなく安全性を考慮してスポーツチャンバラの発泡ウレタン製。


「一度、レーザーブレードでぶった斬った癖に」

「あれは峰打ちです。本当に斬られたいのでしたらどうぞ」


 レーザーブレードに峰ってあったっけな。よく分からない方法で体が両断されていない俺としては異議はない。普通に殺されたと思ったからな、アレ。

 一対一でも、男子全員同時でも勝負はOK。だが、場外に出た場合には負けとなるため全員は無理だろう。


「ルールを単純化して刃が体に触れたら負けとします。かすっただけでも負けとします」

「俺達に易しいルールだな」

「易しい? 冗談?」


 蜜柑マンダリンは席から立ち上がる。無重力を浮かび上がり食堂を去っていく。



「人類のスペックでは、私に刃をかすらせる事さえ不可能だと知りなさい」


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