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星姫計画  作者: クンスト
Ver2.00 第一章 イリーガルナンバー035 剣道姫 蜜柑《マンダリン》の場合
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転入一月目 蜜柑-3

 星姫学園と同じく男子が左、女子が右に固まって席に座る。出席番号順や名前順というのが世の中の定番らしいが、誘拐犯と混ぜこぜの席になるつもりはない。

 奇襲だったとはいえ主力戦車を凌駕する星姫候補達を圧倒した謎のAI女子。席を少し離した程度の警戒がどこまで効果的かは分からないが、警戒しない訳にはいかないだろう。


「なるほど、これは警戒が必要だ。まずは電話番号をかねば」

「馬鹿野郎。先に名前を聞かないと。婚姻届を届けられないだろ」


 ……ちなみに星姫学園で男子と女子が完全分離していたのは、女子がオカルト全開な男子を警戒していたからである。

 教室中央の分断道の向こう側にいる女子生徒を数えると、十五人はいるか。AIだから当たり前であるが顔は全員整っている。それでいて個性を忘れていない。

 全体的には大人しい印象を受けるものの、星姫学園では規則で禁じられているつののようなアンテナを頭から生やした女もいる。一見すると人間っぽい感じの子も、視線を向けている事に気づいてにらまれた時に瞳孔が肉食動物化して牙を見せつけられた。校則はゆるいようだ。

 星姫学園にはいなかったヤンキータイプのAIに気圧けおされてしまうな。


「ちぃ、面倒クセェ」

「ホームルームなんてメモリの無駄だろ」

「そこの二人、静かにできませんか?」


 角の子と牙の子が聞こえるようにつぶやいた不満。そこに正面から喝を入れたのは大きなポニーテールの女子生徒だ。


「黙れ、優等生ぶりやがって」

「あーあー嫌だね。お利口さんのAIってのは」


 ヤジられても動じないくらいに背筋を伸ばして着席し続けている。気質は星姫学園の女子生徒に近い。


「AIがAIと言われた所で当たり前の事です。クラスの和を乱す貴方達こそAIらしくないのではないでしょうか」

「不良ロールも立派な学生って奴だろ」

「不良生徒役ならお前の方が向いているからやったらどうだ、蜜柑マンダリン? 腐ったミカン役でゾンビみたいにうーうーうなってみせろよ。こんな感じに、うーうー」

「なるほど。分かりましたよ。……ぶっ殺してやるッ!」


 うぉ、ポニーテールが突然、刃が発光しながら伸びるレーザーブレードを取り出すと、言い合いしていた女子生徒二人に斬りかかったぞ。一番怖ぇ。


「てめぇ、武器は禁止だろ!」

蜜柑マンダリン、喧嘩なら高くかってやるぜ」

「その減らず口を切り刻んで演算領域の足しにしてくれます!」


 乱闘寸前になった瞬間、教壇に上がった女子生徒が手を叩いた。

 出鼻をくじかれた形となって、いがみ合っていた三者は不満を飲み込んで椅子に座りなおす。



「はーい、皆さん。揃いましたので星道学園の第一回ホームルームを始めますよ」



 そう宣言したのは無花果いちじくだ。ニコニコと笑顔をクラスに向けて振りまいている。長女然としていた馬鈴薯ばれいしょとは違って、距離感の近い友人系な生徒会長らしい。


「第一回にして大きなご報告があります。この星道学園に姉妹学園から大勢の男子生徒達が転入してくれました。はい、拍手!」


 白々しい歓迎の挨拶だ。事実、拍手しているのは無花果いちじくと他数名であり、他数名にしても付き合い程度の力での拍手でしかない。

 愚かの権化たる男子共も、さすがに拍手していない。いきなりの出来事だらけで困惑しているのだ。強制的な転入だった癖に歓迎もされていない。これでは、どういう反応をすればよいのか分からなくなってしまう。


「大きな拍手ありがとうございます。これで男子の皆さんは同級生、同じクラスの一員です。楽しく学園生活を過ごしましょうね。あ、ちなみに私が生徒会長の無花果いちじくです。適任者は他にいると思いますが、推薦されたのでうけたまわりました。がんばります」


 可愛らしいガッツポーズで無花果いちじくは清純派をアピール。

 選挙した覚えはないのに生徒会長が決まっているのは転入ゆえに仕方がない。

 そもそも、無花果いちじく以外に自己紹介してもらっていないので名前も把握できていない。初回ホームルームならば、これから教えてもらえるのだろうと期待していたのだが――、


「なあ、もういいだろ」


 ――有角ヤンキー女子生徒が席から立ち上がって、教室の外へ出て行ってしまった。


「にー抜けたー」


 ヤンキー系その二の牙女子も外に出て行ってしまう。

 二人が抜けるともう心理的障壁は無いに等しい。ツインテールの三人目が席を立つのもあっという間である。


「私も自由にさせてもらうから。あー、ヤダヤダ。人類と同じ部屋の空気なんて吸いたくない」

「お前は……くぁwせdrftgyふじこlp!」

「声帯がバグってんの?」

「失敬、加加阿カカオがどうしてここに?!」

「ハ? どうして人類が私の名前を知ってんのよ??」


 星道学園の存在を知る切っ掛けとなったイリーガルな超高度AI、加加阿カカオが何故かここにいる。星姫学園に鹵獲されたはずだというのに、人工島が襲撃された際に奪還されてしまったのだろうか。あるいは、再生産されたか。

 超高度AIは自己保全に積極的であり、バックアップは高頻度に行われている。人格丸ごと復元するくらい簡単だ。


「再生怪人は弱いって知っているか?」

「知らないわよ。変な人類、私に話かけてこないで」


 バックアップと復元が容易な反面、超高度AIはアイデンティティーに敏感だ。同じ人格が同時に複数存在する事が堪えられないため、必ず改名をせまり、オリジナルをユニークに保つ。

 人工島の底面に住む居候いそうろうに量子データをすべて奪われて初期化されたとはいえ、彼女は今も加加阿カカオと名乗っている。ここにいる加加阿カカオが再生産された超高度AIだとすれば骨肉の争いが将来的に待っているな。

 初期化後の加加阿カカオは小動物的な愛くるしさがあって、芽花椰菜ブロッコリーに嫉妬されている。星姫学園バージョンを守るためにも、星道学園バージョンの加加阿カカオには近寄らないようにしないと。


「皆さーん。ホームルームの後は授業ですよ。出ていかないでください。聞いていますか?」


 三人が抜けた後も続々と女子達はホームルームをエスケープしてしまい、残ったのは電子黒板の前に立ったままの無花果いちじくと何も知らない男子一同である。


「ふぅ……。人望ないなぁ、私」


 無花果いちじくが頬を人差し指でいている。生徒会長がさっそく不信任決議か。



「――まったく、AIの癖に規律を守らない者ばかりで困ります」



 いや、女子が一人だけ居残っている。

 顔を見れば、あのレーザーブレードで刃傷沙汰を引き起こしかけた女子だった。教室に残っているので模範的な学生とも言えるのに、SF世界の騎士が持つべき凶器を所持している事だけが不純物である。

 外見も、超高度AIの例にもれず美麗だ。オレンジ色の髪をポニーテールにして結んでいる。髪色だけは人参キャロットに似ているものの親しみはあまりない。表情が固い所為だろう。

 えーと、確か名前は柑橘系だったような。接頭語に腐敗も付いていたような。


「ゾンビミカンちゃん」

蜜柑マンダリンッ」


 親しみはないがノリは案外良かった。

 ツッコミついでに刀を抜かれるかと身構えたというのに、か弱い人類相手に抜かなかった。甘ちゃんめ。


蜜柑マンダリン一人だけですか。ありがたいですが、これでは授業になりませんね。どうしましょうか」

「……よろしければ私の剣道部の道場にお招きしましょうか? 一般的な体育運動も可能です」

「そうですね。お言葉に甘えさせてもらいましょう」


 いきなり体育か。いや、大事ではある。

 経験者なので語るが、宇宙空間では重力がないために肉体は簡単におとろえる。昔の宇宙飛行士が地球に帰還して動けなくなっていたのは単純に立てないくらいに筋肉が減っていた所為である。ゆえに意識しての運動が必要だ。

 脱出のために運動しておくに越した事はない。ただ、道場というのが気になりはする。無重力空間で竹刀や木刀がプカプカ浮かばないものだろうか。

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