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星姫計画  作者: クンスト
プロローグ
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プロローグ

作者独自の世界感で青春SFギャクシリアス?な物語を書きたくなったので投稿いたしました。

十五話ぐらいの短いシナリオになる予定です。


読んで楽しんでいただければ幸いです。


 彼女は歌う。歌う。心の底からの真心を込めて歌おう。

 何故なら、歌う事でしか存在理由を見出せないから。


 彼女は走る。走る。体の限界性能を発揮して走ろう。

 何故なら、走る事でしか存在理由を見出せないから。


 彼女は……彼女は…………まったく何も意味を見出せない。

 見出せない。

 見出せない。

 世界は真っ暗で、終息の瀬戸際だ。こんな終わりかけ時代にどのような意味を見出せというのか分からない。仮に見出せたところで意味などないではないか。


 それでも、使命がある。大事な大事な特優先S級コードが存在する。


 世界を救え。

 地球を救済せよ。

 人類生存という解を得ろ。実に脅迫的だ。どのように計算しつくしても、結末は既に変わらない。人類は既に絶滅確定で、彼女達が何をしても既に手遅れで。


 それでも、と彼女達は本日も意味を探し続ける。

 

 人類滅亡のタイムリミットまで、残り三ヶ月――。





 ――星姫学園 男子寮 二〇五室(二人部屋)――


 心臓の鼓動に急かされるままに俺は、キラキラした柄の、実に開け辛い袋へと慎重にハサミの刃を数ミリ入れ込む。

 袋閉じされた製品全般に言える事なのだが、うまく開封してやらないと内容物まで切り裂いてしまうのだ。中身が裂きイカならば気にする必要はなくても、今開こうとしている物は慎重さが求められる。

 袋の形状は縦九センチ、横六センチの長方形。

 中身もほぼ同じ大きさだ。

 いわゆるカード型である。というか、カードである。

 たった一枚しか入っていないくせに定価千円の高額品。袋の柄上では、綺麗で可愛い少女達が手を振っている。

 まあ、ぶっちゃけ星姫アイドルカードなのですよ、これ。


「これだけ高い癖に、一袋一枚だけって詐欺だろ。どうやったら、一般人が全二五枚コンプリートできるんだ?」

「安心しろ。それ、第二段と隠しレア含めて全百枚だから」

「守銭奴どもを呪えば良いのか、俺以外の馬鹿げた購入者共を呪えば良いのか」


 クソ、手元が狂ってハサミが深く入り過ぎた。中身のカードは無事だったので幸いだ。

 学生にとって定価千円は高い。贅沢ぜいたくしなければ一日の食事代をまかなえる。それを星姫カードなんぞに投じてしまうなんて大馬鹿者の所業だ。カードを買って得られるものはカロリーではなく、コレクターの瞬間的な充足感のみである。


「そのカード見ながら白米食べるのがオタクなんじゃないのかな?」

「黙れ。また手元が狂う……よし、患部の切除完了。頼む、今度こそ来てくれ!」

「ちなみに誰狙いなんだい?」

「…………馬鈴薯ばれいしょ

「悪い意味で枚数の少ない子を。総選挙三ヶ月前だというのに、全然目立っていない子じゃないか」

「黙れ。運命力を蓄えている。来たれ、我が星姫! この手に来いっ!」


 野郎二人の学生寮の一室にて、俺は机に座り、袋に入ったカードを天井にかかげて念じていた。

 念が最高潮に高まった瞬間を狙い、袋からカードを取り出す。

 まだカードの表を直視する勇気はなかったが、指先の触感がいつものノーマルカードのそれとは違う。鱗に触れているような質感。まさか、キンピカ処理がされているというのか。


「お、隠しレアじゃん。やった」

「言うなッ。人の楽しみを奪うつもりか!」

「袋から出しておいて見ない方が悪い」


 俺はゆっくりと下から視線を上げていき、カードに印刷されている子を確認する。

 高まっていた心臓の鼓動が、ゆっくりと、静まっていった。


「すごい、大当たり。歌い姫、人参キャロットちゃんの隠しレア」

「…………ハズレだ」

「どこが?! 末端価格で十万円はするよ、それ」

「じゅ、十万だとっ?!」


 夕焼けが赤くて悲しい色をしている。

 都心から遠い海の上の人工島からの景色であっても、高いビル群が黒のシルエットと化している光景が男子寮からは眺められる。世界の境界が曖昧あいまい化してしまっているのだから星姫アイドルカードが外れたとか、金欠だとか、人類滅亡だとか、そういった事実も曖昧化してくれないだろうか。

 終末を呼ぶアポカリプティックサウンドのごとく、腹の音が鳴った。まあ、夕食時なので。


「夕食代を投じて金欠なんだろ? 人参キャロットちゃんのカード、いらないのなら独自ルートで換金してあげるけど?」

「………………いや、いちおうキープしておく」


 断腸の思いで同居人の善意を断った。赤い夕日を反射しているというのに、手中のアイドルカードは黄金色だ。

 兎を模した耳で仮装したオレンジ髪の少女がマイク片手に、俺へとウィンクしてくれていた。

 あくまでカード上で、だったが。

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